『コントが始まる』マクベスのマネージャー楠木(中村倫也)、つむぎ(古川琴音)の想いに涙
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

旅立ちの時近づく『コントが始まる』第8話

『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)第8話。マクベスと中浜姉妹の旅立ちの時が近づいて来た。潤平(仲野太賀)つむぎ(古川琴音)が各々の部屋を出ていく。


【前話レビュー】春斗、瞬太、潤平、里穂子、つむぎ 『コントが始まる』の登場人物たちは人生を軽やかに謳歌しない

ファミレスの店長・光代(明日海りお)が通い詰めていた麻雀店も引っ越すことになって、光代は嘆く。一方、春斗(菅田将暉)の兄・俊春(毎熊克哉)は再就職が決まり、引きこもっていた実家を出ていった。門出には寂しさもあれば希望もある。

マクベスの解散公演の演目がマネージャー・楠木(中村倫也)の提案で決まる。彼が書いたものはドラマの第1話から順に行われてきたコントで、春斗は楠木が自分たちを正しく見ていてくれたことに感動する。観ているほうもあたたかい気持ちになった。

第7話で4人目のマクベスは車と言われていたが、真の4人目は楠木だったのである。でもいきがかり上4.5人目になるところが、『コント〜』の登場人物の主流になれなさの表れのようである。

こうしてみると、マクベスを解散する選択はやむないとはいえ、楠木や車など支えてくれた人(もの)がいるのだから惜しい。中浜里穂子(有村架純)だってそうだし、いまやつむぎもそのひとり。誰一人味方がいなくても意思を貫くことを強いることはできないが、良い味方がいるのに辞めちゃうのはやはりもったいない。

もしかしたら、彼らにとって辞めることはこの世のにたったひとり(3人)ではないことに気づくことなのかもしれない。
3人にとってマクベスとは、世界にたった3人で立ち向かう術だったから。世界はそれほど酷いものではない。

社会に戻るために動き出した里穂子

手負いの獣のように世界に怯える春斗の目が虚ろなのは、世界から目を逸らしているのだろう。就職を決めた里穂子は瞳に光が戻ってきて、服装もちょっと変わってきたような。カラダの線が見えるものを透けたブラウスで覆って少しだけ華やかになっている。ベランダの縁に乗った胸の膨らみを春斗はどう思ったのだろう。

就職を決めた里穂子に「あれだけ傷つけられた社会にまた戻ろうと思ってるんですよね」と春斗が感心すると、里穂子は会社の受付に生花が飾ってあったことが決めてであったと答える。第7話のレビューで、里穂子が面接のとき受付の花を見ていたことを一例に、他者から見たら取るに足らないことでも、自分には特別なことがあり、それを『コント〜』では描いていると指摘したが、第8話では里穂子がそれを春斗に言う。

ささやかなことであっても、気になることがあったら動いてみる。それがバタフライエフェクトのはじまりになるのだ。例えば、楠木はゴルフが好きでゴルフ関連の名前「ボギーパット」のついたやきとり屋に通うようになったことでマクベスと出会ったようなこと。それをきっかけに、楠木は懸命にマクベスを支えていく。マクベスの事務所の名前「パソリブレ」の言葉を解体すると、スペイン語でパソはステップ、リブレは自由。
この名前をつけた人は素敵。

『コントが始まる』マクベスのマネージャー楠木(中村倫也)、つむぎ(古川琴音)の想いに涙
第9話は6月12日放送。画像は番組サイトより

ちょっと話が逸れるが、先日、NHKで放送していたドラマ『きれいのくに』の物語がわかりにくいとSNSで話題になっていた。概要は、誰もが同じ顔に整形するようになった時代が過ぎて整形禁止例が出たものの、裏整形がこっそり行われている社会下、高校生が悩んだ末に整形するというもの。

だが、術後の顔がさほど変化していないのである。当人はすごく満足げ。筆者はそこに、誰もが同じ顔にしたり誰もが整形禁止にしたり、全体主義のようなことではなくて、個人個人の趣味嗜好な“じゆうなくに”への希求を感じた。『コント〜』の里穂子が春斗に言った「些細なこと」とは、『きれいのくに』で筆者が感じたことと同質のものではないだろうか。

コントに込めた春斗の想い

今、現実の世界では、SNSのフォロワーの数、いいねの数で価値が図られていて、それに疲れる人も増えている。幸せの尺度を数に求めるのではなく、もっと個人個人の価値を基準にしていいのではないか。顔の見えない多数のいいねよりも、たったひとりのいいねの価値を見出したい。マクベスのチラシをゴミのように扱う人もいる一方で、中浜は初演のチラシを宝のように喜ぶ。

多数の人にいいねと思ってもらえず、『コント〜』のマクベスや中浜姉妹は疎外感を覚えてうつむいて暗い目をしていたけれど、自分たちが好きなことを大切にしていいのだということを気づきはじめている。

今回のマクベスのコント「ファミレス」は、デフォルトでバナナがのったパフェを、バナナが嫌いな客(春斗)のために用意する店員(瞬太)。
それをファミリーレスキュー…家族の幸福のための食事と言う店長かと思ったら30年バイトの人物(潤平)。個々の嗜好に寄り添っていくことこそがコミュニケーションであると春斗はコントに書いた。

里穂子に出会う前からあったマクベスのネタだが、瞬太の演じる店員のキャラは、ホスピタリティはつむぎのようだし、所作は里穂子のように見える。まるでこのキャラが中浜姉妹を呼び寄せたようにも感じてしまった。

つむぎが密かにマクベスの所属する事務所にマネージャーとして就職していたことをあとから知った里穂子は愕然となる。でも帰宅すると、つむぎが作り置きした惣菜の数々に涙する。つむぎはマネージャー、里穂子は部長。つむぎは里穂子をマクベス応援部の部長にするためにもマネージャーになったと考えると、その思いやりは食事と共に心を温める。

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※第9話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

日本テレビ系
『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜

出演:菅田将暉 有村架純 仲野太賀 古川琴音 神木隆之介
芳根京子 伊武雅刀 鈴木浩介 松田ゆう姫 明日海りお 小野莉奈 米倉れいあ

脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)

制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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