『おかえりモネ』第4週「みーちゃんとカキ」

第18回〈6月9日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第18回 傘は貸すけど金は貸さない。耕治(内野聖陽)と新次(浅野忠信)のシビアな関係
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

釣りが好きな人やキャンプが好きな人だったら『おかえりモネ』は楽しめるドラマであろう。釣りはすぐに魚が釣れるわけではなく、待つ時間がある。キャンプも何もしないで風の音を聞きながら揺れる火を見ていることが楽しい。
思い通りにならないことを楽しめる人が増えている今だから、ドラマにもそういうドラマがあっていい。『おかえりモネ』は思い通りにならないことを味わうドラマなのである。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第18回掲載中)

第18回は、百音(清原果耶)の妹・未知(蒔田彩珠)があまりに真剣に種ガキの実験をするあまり、永岡家がギクシャクしてしまう。そんな時、百音のとった行動はーー。

永岡家がギクシャク

雨が降って来た。未知の種ガキの原盤を海から揚げるため、龍己(藤竜也)が作業中に足をくじいてしまう。

雨が激しかったので、未知は陸に残り、龍己だけが海に出た。「これは私の研究なの。私が決める」と意地を張り原盤を揚げるのをギリギリまで粘った未知の判断ミスであった。それを指摘する母・亜哉子(鈴木京香)。あくまで穏やかながら曖昧にすることなく。

龍己に「たかが高校生の自由研究です」と言われカチンとなる未知。自分なりにカキや亀島の将来を思って研究しているのに、そんな言われ方は悔しくてたまらない。
ついつい反論の声が大きくなる。龍己にしてみれば、ホームグラウンドの海で怪我したことが悔しいから、あまり大事にしてほしくない気持ちもあっただろう。誰も悪くない。ボタンの掛け違いってやつである。

「たかが高校生」と言いながら、未知の反論に、龍己はちゃんと答えている。耕治(内野聖陽)は「子供相手に本気になんないでよ」と間に入り、現実的なお金の話をしだす。未知の目標である種ガキ栽培にはお金がかかり過ぎると否定するものだから、気持ちの行き場がなくなった未知は亮(永瀬廉)の父・新次(浅野忠信)の船に融資をしなかったことを責め始める。

論点のすり替えが子供の行為であることを本人は自覚していない。人間、キレた時に貯めていた本音が出るもので。新次の父の件をずっと思っていたのであろう。

家の中のギクシャクは、3年前の震災による被害が尾を引いている。耕治の言葉でそれに気づく百音。
永岡家は一見、そんなふうに見えないけれど、3年前の被害を立て直すことはとても大変なのだ。大人は大人で真剣だし、子どもも子どもで故郷をなんとかしたいと思っている。本気と本気がぶつかりあって傷つけあってしまう。

「亮ちんの家、あんなに大変だったのに!」
止まらない耕治と未知のぶつかりあいを百音は耕治の笛を吹いて止め、登米の名物はっと汁を作ろうと皆を誘う。いつも虚ろな表情をしている百音だが、この時は精一杯の笑顔。

百音の気持ちがわかるのと、揉めた気まずさもあるから、家族たちも笑いながら料理をする。「ういーんういーん」「ばばばばば」と百音の発するオノマトペがいじらしい。

百音に声をかけられ未知も台所に。ここで、ツンと去っていかないところが、永岡家はさほど悪い状態ではないことがわかる。とはいえ、これで家族が元通りという感じでもない。何かもっと根深いものがあるように感じられる。

『おかえりモネ』第18回 傘は貸すけど金は貸さない。耕治(内野聖陽)と新次(浅野忠信)のシビアな関係
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第18回 傘は貸すけど金は貸さない。耕治(内野聖陽)と新次(浅野忠信)のシビアな関係
写真提供/NHK

今回の家族の危機を百音が救うことができたのは、彼女が揉め事の外側にいるからである。
しばらく外にいたからこそ、客観的になれた。家族の問題と百音の間に距離があることはよくもあり、悪くもある。疎外感に通じるからである。震災の時、亀島にいなかったことを気にし続けている彼女だから、この場でもそれを感じているのだろうと考えることができる。

その晩、百音は自室の天窓から白い光を受けて涙を流す。台本を元に書いているNHKドラマガイド『おかえりモネ』のあらすじでは、百音が涙を流す代わりに月の写真を撮るのだが、映像ではその描写はなかった。

耕治と新次がギクシャク

未知が持ち出した、耕治が新次に融資しなかった件は、その前に、久しぶりに会って飲んだ耕治と新次の会話にも出て来た。天才漁師であった新次が震災で船を失いながら自分の船以外には乗らないと意地になって今がある。

傘を貸そうとする耕治に「昔っからそつがない」と言う新次。新次の船に融資をしなかった耕治との間には遺恨があるようである。傘は貸すけど金は貸さない。なかなかシビアである。

興味深いのが、銀行員として、情よりお金を優先する資本主義に生きる現代人の耕治だが、漁師の息子だけに天気を察知し、折りたたみ傘をかばんに忍ばせてきているのである。
銀行員としての才能が彼にあるとしたら、意外と自然の動きを察知できる勘の良さに支えられているのかもしれない。そんなことをさりげなく示唆する描写である。

BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の歌詞のなかに<〜傘のように鞄のなかで出番を待つ>とあるが、耕治も出番を待つ者のひとりなのではないだろうか。折りたたみ傘ひとつでいくつもの物語ができている。キャンプに役立つアーミーナイフのようなドラマである。海の上でじっと待っていれば、きっと大物が釣れるに違いない。
(木俣冬)



※『おかえりモネ』第19回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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