『おかえりモネ』第8週「それでも海は」

第37回〈7月6日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』悲しい記憶以前のりょーちんと父母、永浦家と及川家の楽しい交流描く37回
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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時は遡って2010年。百音(清原果耶)の幼なじみ・及川亮(永瀬廉)父・新次(浅野忠信)母・美波(坂井真紀)の思い出が蘇る。永浦家と及川家の楽しい交流。
新次が造った立派な漁船が大漁旗に彩られて最高に高まったあの日――。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第37回掲載中)

2016年 仮設住宅

亜哉子(鈴木京香)の浮気疑惑の真相は、アルコール依存症にかかっている新次を心配して病院に付き添いしていたのだった。

病院帰りに仮設住宅まで送り、家の片付けなどもする亜哉子。新次の古いガラケーを持つ手がかすかに震えるのは、依存症の名残か、心の震えか。

殺風景な仮設住宅の、亮の机の前には、百音たちと参加した北限のゆず祭りでの吹奏楽演奏会の写真。高校の卒業演奏会は震災で中止になったし、亮にとって最高に楽しかった記憶はゆず祭りで止まっているのがわかって、胸が痛くなる。

2010年 永浦家

いまは牡蠣に生まれ変わってナレーションをしている雅代(竹下景子)がまだ元気だった頃、永浦家と及川家は仲良く交流していた。

『おかえりモネ』悲しい記憶以前のりょーちんと父母、永浦家と及川家の楽しい交流描く37回
写真提供/NHK

耕治(内野聖陽)と新次と美波は幼なじみ。耕治が美波を好きで、美波は新次が好きで……という三角関係。けっきょく、耕治はぐいぐい来た亜哉子と結婚、美波は新次を待ち続けた結果、結婚。いまでは2組がわだかまりなく仲良くしている。4人をつなぐのが美波の屈託ない明るさだった。

船の計算をしている耕治と美波のほうがなんかお似合いに見える。内野聖陽と坂井真紀が並ぶとナチュラルな雰囲気が立ち上る。
一方、浅野忠信は妙に凄みがあって、ホームドラマの枠組みに収まりきらず、鈴木京香は隙がなく身ぎれいにし過ぎていて、ホームドラマはホームドラマでも『オー!マイキー』化させる魔力がある。でもそれは、浅野演じる新次がスケールの大きな漁師であること、鈴木演じる亜哉子が仙台から嫁に来て、島では少し浮いている人物という設定にぴったりなのである。

美波のカラオケを満面の笑顔で左右に手を降りながら聞いている亜哉子の横で同じように手を降っている耕治は、ふっと百音に目をやる。形骸的な動作のなかにちょっと違う動作を入れることで、心が見えて彼自身も印象に残るうえ、主役の百音も引き立つ。

それぞれの個性の面白さといえば、美波がカラオケを歌っているときの、子どもたちの表情も。百音は初めて聞くように驚いた顔をしていて、未知はなんだかうっとり聞いている。亮は口は悪いが基本にこにこ笑顔でその場をやり過ごす性格なのだろうなあという感じ。それぞれ役の性格の違いがよく出ている。

『おかえりモネ』悲しい記憶以前のりょーちんと父母、永浦家と及川家の楽しい交流描く37回
写真提供/NHK

「俺らもへたすりゃああなんじゃん」と言う亮に「どっちと?」と聞く未知(蒔田彩珠)。亮は大人になったらこんなふうにそれぞれの生々しい恋バナをあけすけに語り、グダグダとカラオケに興じたりするようになるという意味だったのだろうが、未知は、亮は自分と姉とどっちを選ぶかを問くおませなところを見せた。

未知は美波のように亮を待つ身になるのだろうか。いや、待て。
美波も亜哉子もどっちもなかなか振り向かない男性を粘った末、獲得していた。美波と亜哉子は似た性格ながら好みの男性はかぶらなかったことが幸福であった。

「カモメはカモメ」

美波のカラオケの十八番は「カモメはカモメ」。彼女の14歳時代の「青春ソング」だとか。

<諦めました あなたのことは もう電話もかけない>

2010年、この歌詞には14歳当時の甘酸っぱい片思いを大仰に表す面白さがあるのだが、のちに美波がいなくなると、諦めきれない新次の未練に聞こえてくるという、なんとも切ない選曲なのであった。

亮が見て泣いていた写真は船のお披露目の日に撮ったものだった。当時、撮った瞬間から、場面が満点の星空になり、水害で汚れた写真になる。2011年5月。泥で汚れた写真をそっと水で洗う雅代。震災当日の描写を省くのは配慮であろうが、これだけでも辛くなる。

古いガラケーに残された、2011年3月11日、3時10分の美波からの留守電を聞き返す新次。写真を見て泣く亮と、留守電を聞いて泣く新次。父子の表情がよく似ていた。

(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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