『おかえりモネ』第8週「それでも海は」

第38回〈7月7日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第38回 相手の誇りを損ねずにどう手を差し伸べられるか、自分に何ができるのか
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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百音(清原果耶)の幼なじみ・及川亮(永瀬廉)父・新次(浅野忠信)は、東日本大震災で妻・美波(坂井真紀)と船を失って5年経過した今もまだ自暴自棄になっていた。何もできない無力感に苛まれていたのは百音だけでなく、父・耕治(内野聖陽)も同じ……。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第38回掲載中)

解決できない問題を抱えながら百音は縄跳びを跳び続ける。
菅波(坂口健太郎)が百音にプレゼントした縄跳びは記憶力向上のみならず、百音にある力をもたらした。

「なんにもなくしてない俺は何ができんだ」

縄跳びを跳ぶと「オステオカルシン」という物質が活性化されて記憶力が向上する。受験勉強には最適ということで、百音は1日3分縄跳びをすることにしていた。というか、菅波の謎の理論を本気にして取り入れている百音がいじらしい。

そこへ、未知(蒔田彩珠)が来て、新次がいなくなったと伝える。海に落ちたかもしれないと聞いて心配な百音。亮に電話をするも出ない。せっかく酒もやめて元気になりかかった新次はいったいどうしたというのだろうか。

新次は島に来ていた。泥酔して、耕治と龍己(藤竜也)に抱えられて永岡家に連れて来られる。当時、及川家のあったところに座っていたと、亜哉子(鈴木京香)はやりきれない顔をする。

しだいに解きほぐされていく新次の謎。5年前に新次は妻も船も家もなくしていた。
1億2千800万の借金をして買った船の負債は、もう一度、船に乗って返すしかないが、やる気になれない新次。耕治は友人として銀行員としてやれる限りのことをするも、限界にぶち当たる。

「なんにもなくしてない俺は何ができんだ」と嘆く耕治の姿を目の当たりにした百音は朝岡(西島秀俊)の言葉「何もできなかったと思っているのはあなただけではありません」を強く実感する。

こんな身近に同じ思いを抱えている人がいたのである。考えてみれば、百音は耕治と共にあの日(2011年3月11日)に仙台にいて、遠岸から亀島を見ていたのだ。百音と耕治は同じ立場なのである。しかも、永岡家は震災であまり被害を受けていない。漁業はやや大変そうだが、家も家族も問題がなかった。それに後ろめたさを覚えながら、どうしようもないまま生きていくしかない。どれほど他者のことを思い何かしようと考えても、けっきょく何もできないことのほうが多い。他者と自分は別ものだから。

『おかえりモネ』第38回 相手の誇りを損ねずにどう手を差し伸べられるか、自分に何ができるのか
写真提供/NHK

やりきれない百音が縄跳びをしようと縄跳びをつかんだ瞬間、電話がかかってくる。
相手は、菅波だった。ナイスタイミング。メールで良さそうなものをなぜか菅波は直電してきた。用件は、縄跳びを3分ではなく5分跳んだほうがいいということだった。震災で受けた物理的にも心理的にも大きな被害を抱えきれず立ち尽くすしかない百音と菅波の電話の内容のギャップ。でも菅波にとってせいいっぱい百音に対しての思いやりであることが伝わってくるから、百音は涙が出る。

自分は何もできないと自責の念にかられ続ける百音に、菅波のようにささやかに何か他者のためにしている人もいるのだから、この程度のささやかさでもいいのだと伝えてあげたいが、自身で知るしか術はないのである。

『おかえりモネ』第38回 相手の誇りを損ねずにどう手を差し伸べられるか、自分に何ができるのか
写真提供/NHK

百音の様子がおかしいと気づいた菅波は「回答できない分、聞くことができます。何かありましたか」と言う。これも菅波のささやかながら他者に対してできること。「跳びます」と目に涙を貯めながら答える百音。

思いを抱えて懸命に勉強を続ける意思の現れを、縄跳びを黙々と跳ぶアクションに置き換えることで、百音のやりきれなさと、やるしかないと決死の思いが伝わってきた。


今、やれることをする。百音は、何もできなくて立ち尽くすのではなく、なんでもいいから今、自分にできることを見つけて動くことを知って実践しはじめた。一歩前進である。

それぞれの事情

酔って、美波(坂井真紀)の留守電を聞いている新次の表情は、何もかも失って自分さえ失ってしまったような表情だった。彼の真意を同じ漁師の龍己だけが理解している。仮設住宅ではなく、永岡家に住まわせてはどうかという耕治に「意地で生きてんだよ、漁師は。そこまで潰すな」と語気を強めてたしなめる龍己。

自分が一流の漁師という自信のもとに、妻を娶(めと)り、子を成し、堂々と明るく生きてきた新次。彼は他人に雇われるのではなく、自分の船でないとそのプライドは保てない。世の中にはそういう人もいるのである。そんな彼が永岡家の居候なんて耐えられないことを龍己はわかっている。

誰かのために何かしたいと考えたとき、ただ手を差し伸べればいいわけではないからこそ難しい。相手の感情や誇りを損ねずに何ができるか、ドラマをきっかけに考えていきたい。

(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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