『おかえりモネ』第9週「雨のち旅立ち」

第45回〈7月16日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第45回 空には彩雲、迷いのない足取りで颯爽と旅立つ百音の成長した姿描き第一部完結
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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サヤカ(夏木マリ)に促され、家族に東京へ行くことを報告に来た百音(清原果耶)。長いこと言えずに溜め込んできた想いを吐露する。清原果耶の長台詞と涙が迫真だった。


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「どうして島を離れたいと思ったのか」

長かった。初回から謎めいていた主人公の本音が45話分かけてようやく明かされた。その時間の分だけ主人公の気持ちも真実味を帯びる。それでも足りないくらいの苦悩が百音にはあったのだ。

簡単には言語化できず、心のなかで渦巻いていた想いを、長い時間かけて整理したうえで、さらにその想いの解決策を発見した百音。きちんと言葉にして旅の記録を綴るように他者に語ることができるまでに百音は成長していた。

「あの日、島にいなくて」と百音が言ったあと、耕治(内野聖陽)の顔が映る。そう、あの日、百音と一緒にいたのは耕治。彼もまた島にいなかった。でも耕治は何も言わず、「それは私もそうよ」と言ったのは亜哉子(鈴木京香)。言われてみたら彼女も教師の仕事で本土にいた。そのとき彼女が何をしていたか百音が説明する。

島にいたのは未知(蒔田彩珠)だけ。
雅代(竹下景子)と一緒に。未知はあの時、どれだけの重責を背負っていたことだろう。ずっと気になっていた龍己(藤竜也)があの時、何をしていたかもやっとわかった。

みんな各々、自分たちの置かれた場所で懸命にその瞬間を生きていたわけだが、百音は、みんなと一緒にいられなかったことに後ろめたさを感じていた。それを5年経ってもなお拭い去ることができずにいた。

逃げるように島を飛び出し、登米で過ごすうちに何か人の役に立つことができないかとか考えるようになった。そして出会ったのが気象予報士の仕事――。

「大切なものをなくして傷つく人をもう見たくない」
百音が自分の想いを懸命に話すのを聞いて、亜哉子はちらっと雅代の遺影を見てから「わかりました」と微笑む。すると軽やかに舞うように歌うように劇伴が鳴りだした。

『おかえりモネ』第45回 空には彩雲、迷いのない足取りで颯爽と旅立つ百音の成長した姿描き第一部完結
写真提供/NHK

「どうして島を離れたいと思ったのか」管楽器が高らかに鳴る劇伴はまるで百音を送り出す祝福の音楽のようで。その音の中で百音は自室で持っていくものを選んでいる。

「わかるよ」と百音の気持ちはいちばんわかると言う耕治。
彼もまた、第38話新次(浅野忠信)の苦しみに「なんにもなくしてない俺は何ができんだ」と嘆いていた。耕治は震災当日、対岸にいたうえ、その後、家も仕事も家族も財産もなくしていないことに後ろめたさを感じていた。その想いを決して表に出さず明るく振る舞ってきた耕治。彼だっていろいろ吐露したいだろう。

でも「わかるよ」と言ったあと、以前サヤカに言われた「娘の気持ちをいちばんわかってるって言う父親は……」云々という言葉を自分発のように言う耕治。苦しくて百音と分かち合いたいけれど、そういう押しつけをぐっと我慢するお父さん、切ない。

そんな耕治の苦しみを百音がもっと受け取れるようになったとき、彼女はさらに成長するのではないだろうか。いまは、お酒にも飲まれるばかりの百音だが、いつかお父さんの話を聞きながら一緒に飲める日が来るかもしれない。

『おかえりモネ』第45回 空には彩雲、迷いのない足取りで颯爽と旅立つ百音の成長した姿描き第一部完結
写真提供/NHK

第一部完結

一回、登米に戻って出発の準備をした百音は森林組合の人たちに見送られ旅立っていく。「皆さん、本当にありがとうございました」と言う百音の万感の想いがこもった声、伐られたヒバの木のところにいるサヤカの元にやって来る百音の足取りは迷いがなく颯爽としている。顔つきだけでなく百音の何もかもが変化している。

あくまで毅然と大人の余裕を見せるサヤカ。百音が去ったあと、足元に若芽が生えているのを見て思わず涙が出そうになるがキッと上を見る。
……と百音が10分後に空を見てと言ったとおり、空には彩雲。彩雲を見るといいことがあると百音に教えたのはサヤカだった(第1話)

そのあと、また陰陽のバランスを整える雨が降る。これはサヤカが見せなかった涙のようでもあった。

若芽を見つけた瞬間から主題歌「なないろ」が溢れるように流れだす。この回はいつものタイトルバックがなく、クライマックスで主題歌のみ。BUMP OF CHICKENの歌声に乗って、百音が風を切るように旅立って行く様はまるで最終回のようだった。

ここで次回予告が流れると来週も見るぞって思うような気がするのだが、朝ドラが週6から週5になってから、土曜日総集編でしか次週予告が流れないので、本編の終了後に期待感が煽られることがないのでちょっともったいない。

菅波との仲、進展せず

旅立ちの前、菅波(坂口健太郎)にいろいろツッコミを入れられる百音。視聴者が言いたそうなことを菅波が代弁している。

森林組合の人たちは、ふたりの仲がまったく進展しないことに呆れ気味。でも冷静に考えると、当初は菅波が東京と登米、百音が登米。これからは菅波が東京と登米、百音が東京なので、配分的には変わらないのである。
せめて東京でも会いましょうと約束すればいいのに。さあ、ここから東京編。このまま菅波がフェードアウトしてしまっても朝ドラあるあるだが、どうなる菅波。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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