『おかえりモネ』第9週「雨のち旅立ち」
第44回〈7月15日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉
※『おかえりモネ』第45回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします
いよいよ旅立ちのとき、悩みに悩んだ末、百音(清原果耶)は森林組合を辞める決心をする。
【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第44回掲載中)
陰陽を整える
明るい陽光を受けながら能舞台でサヤカ(夏木マリ)が仕舞の練習をしている。「カッコよかったです」とその姿を百音は見入る。ダンスもやっている夏木マリだから様になっていた。舞を舞うのは物事の陰陽を整えることと言うサヤカ。百音はそこに低気圧と高気圧の関係を思い出す。気象もそうやってバランスをとっていると百音は嬉しそうに話す。すぐ人の話を自分の話にもっていくのが百音の悪いクセとはいえ、サヤカは大人なので百音の話を「へえ〜」と傾聴して、そこからさらに、舞は雨乞いの役割もしていて、陰陽が整うと雨が降ると語る。
第33回のときもそうだった。サヤカが嵐の日に生まれたと言うと、百音は私もと自分の話をはじめてしまう。でもきっとサヤカは自分の話をしているようで百音に気づきを与え、彼女の表になかなか出せない言葉や感情を引き出しているのであろう。それも大人の役割なのではないか。
ざわっと竹林が風に鳴り、沈黙が訪れる。「行きなさい」そうサヤカに言われ、百音がうなづいたとき、雨が降りはじめた。天気雨。
山も天気も能も、物語に登場してくるモチーフにすべて因果がある。それらが渦のようになって百音の運命を動かしていく。
「おもしろいね、いろんなものが繋がっていて」とサヤカ。
ドラマでは石ノ森章太郎の描いた「雨」の絵まで繋がっている。この絵は第41回のレビューで書いたが、漫画を読むとけっこう陰惨なイメージである。美しい希望のイメージではないのだけれど、だからこそ百音の人生の選択がお気楽なものではないことを感じさせてくれる。
山を知ったからこそ
サヤカのことが心配で迷っていた百音だが、サヤカはひとりで生きていくと毅然と百音の旅立ちを促す。これはサヤカ自身がひとりで生きていく決意のみならず、百音にも他者に引っ張られないで自分の本当にやりたいことを選びとれという意味なのであろう。こうして決意して、森林組合を辞めますと伝える百音に、当然ながら組合の人たちはショックを隠さない。「山じゃダメなんですか」と問う翔洋(浜野謙太)が切ない(このときの表情)。でもサヤカは「山を知ったから空の仕事がしたくなったんだ」とかばう。気落ちする森林組合の人たちの空気をサヤカが盛りたて、百音にウインク。
登米に来たとき、虚無的な顔をしていた百音だったが、すっかり意思のある顔になって来たことを、大人たちはみんな喜ぶ。
さわやかな朝、百音の用意した朝食をとりながら、サヤカは百音に亀島に報告に行くように諭す。たしかに。東京に行くなら家族の了解をとらないと!
お酒を飲む百音
さっそく亀島に戻る百音。言いづらさをごまかすためにお酒をぐびぐび飲み、耕治(内野聖陽)らを戸惑わせる。「な〜んか楽しい」とお酒に頼る百音を見て、百音のように言いたいことを口に出せない人は、お酒の力に頼ってしまう人もいそう。お酒の勢いでふだん言えないことを言う。またはお酒を飲んで現実逃避する。その最たる人物として新次(浅野忠信)が浮かんでくる。百音は大丈夫と思うが……東京に行って羽目を外さないように気をつけてほしい。余計なお世話だけれど。
菅波の選択
百音が森林組合を辞めると報告している姿を、建物の外から見ている菅波。診療所に戻って中村先生(平山祐介)に電話する。東京に戻るという話があったが、もうしばらく登米にいると言うのだ。彼は彼で、医師として自分に足りないものを獲得するために登米にいようと考えている。それは「僕は何かを考える前に手が動くようにならないといけない」ということ。菅波が百音に対して感じているものは痛みをもった人への思いやりもあるだろうが、恋でもあるだろう。でもその情動に流れず、あくまで医者として考える真面目な人である。
そして、恋でも思いやりでもなんにしても、人との触れ合いが仕事や人間形成の役に立つという良識的な物語である。菅波が頭で考えず手を動かしたとき、思いやりは恋に変わるのかもしれない。
うーむ、ここから恋愛に進展してしまうと、いろんなことを一緒くたにして不謹慎にも思える危険性もありそう。震災といちゃこらは混ぜるな危険とはらはらする。際どいところをすり抜けていく『モネ』。とても取り扱いが難しい案件に挑んでいる。どんなときでも愛は大事なのである。
ところで。『モネ』ではしょっちゅう窓の外で立ち聞きしているのだが、窓がきっちり閉まっているにもかかわらず中の声が聞こえるとしたら相当安普請であろう。ジリ貧のサヤカ、建築費ケチったのか……。今回の場合、菅波は話の内容はわからずとも雰囲気で悟ったということなのだろうけれど。朝ドラ名物「立ち聞き」は通気性のいい昔の日本家屋だからこそ成立するものであり、密閉性の高い現代建築では難しい。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami