『おかえりモネ』第12週「あなたのおかげで」

第57回〈8月3日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第57回 饒舌な瞳の亮(永瀬廉)、いきなりすごいことぶっ込んでくる莉子(今田美桜)
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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2016年8月、観測史上初の進路で台風が太平洋側から東北に上陸する。『あさキラッ』の天気予報で朝岡(西島秀俊)が警戒を呼びかけた。その原稿は、地元の百音(清原果耶)の意見を取り入れたもので、具体性に富んでいた。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第57回掲載中)

百音は仕事の合間、逐一、家族に情報を届ける。気仙沼では過去にない一大事に新次(浅野忠信)がついに立ち上がる。自ら船に乗り、多くの船を嵐から守ったのだ。

「親父が船、乗った。」
百音のスマホに亮(永瀬廉)から喜びのメールが届く。

いきなり新次の立ち直りエピソード

報道局の緊張感、嵐のリアル映像やCG映像など力の入った画面が並ぶ。

天気予報を見ながら、地図に記しをつけていく新次。地図にてきぱきと書き込んでいく様子に、新次の船乗りとしての実力が単に身体能力だけじゃない理論に則ったものなのだということがわかってゾクゾクした。
あらゆる情報を集約し、検討を重ねたうえで勝負に出る、それが漁師。新次、カッコいい。

そんな才能ある新次だが、震災で最愛の妻と船を失い5年間飲んだくれたまま立ち直る気配がない。そこで船が嵐で流されることを心配した耕治(内野聖陽)が訪ねて来て、「船を動かしてくれ」と頼む。

「嵐が来ると俺に頼みごとするのはおまえの癖か」なんて言いながら、ようやく重い腰をあげる新次。百音が生まれたとき、耕治に頼まれて嵐のなか船を出した(第1回)のも新次だった。


これまでずっとグズグズしていたにもかかわらず、あれよあれよと15分の間に立ち直ってしまってびっくりしつつもホッとした。親父が決意したときの亮の瞳の動きが感情と連動していて饒舌だった。本当に永瀬廉の演技は明瞭である。

『おかえりモネ』第57回 饒舌な瞳の亮(永瀬廉)、いきなりすごいことぶっ込んでくる莉子(今田美桜)
写真提供/NHK

気持ちいい〜〜

新次の活躍で島の船はすべて避難できた。新次の復活も船の守りも間接的に百音のおかげである。

百音はせっせと亀島や登米に気象情報をメールしていた。第56回から気になっていることで、仕事で得た情報を私的に使用していいものなのだろうか。
第56回は「天気予報見た?」とすでに公開された情報について補足しているようだったが、第57回では、今朝来た百音のメールと今、朝岡が天気予報で言っている内容が「ほとんど同じ」とサヤカ(夏木マリ)が言っている。

やっぱり先出ししてる? これってOK? まだ若く社会人経験が浅いため、ことの良し悪しがわからず、菅波(坂口健太郎)いわくの「からまわり」しているということであろうか。

それもこれも家族や地元を心配する一心なので責めることはできない。脚本家の安達奈緒子は、理屈ではいかがなものかと思いつつもやむにやまれないことをしてしまう人間を否定することなく描くことに長けている。例えば、恋人や好きな人がいながら他の人と体の関係を持ってしまう人物とか(『大切なことはすべて君が教えてくれた』『失恋ショコラティエ』)、仕事のパートナーを裏切ってしまうとか(『リッチマン、プアウーマン』)、振り込み詐欺に加担してしまう人物とか(『サギデカ』)……。

『おかえりモネ』第57回 饒舌な瞳の亮(永瀬廉)、いきなりすごいことぶっ込んでくる莉子(今田美桜)
写真提供/NHK

正義の名のもとにジャッジできない最大のものは自然現象である。
自然は人間に悪いことをしようと思って台風を起こすわけではない。それとどう共生するか人間の心構えを描く『おかえりモネ』は安達奈緒子の書くものの特性を最大限に生かしたドラマではないだろうか。

そうはいっても、もやもやも止まらない。そこへ、莉子(今田美桜)である。「永浦さんってちょっと重いよね」「人の役に立ちたいって、けっきょく自分のためなんじゃん?」と直球で百音に指摘する。ともすればキツく響くことをケロッと言ってむしろ爽快なのも安達脚本の魅力。
心のなかでくすぶっていたことを言語化してもらって「気持ちいい〜」と思った視聴者も少なくないのではないか。

言われた百音は「百音のおかげでみんな助かったよ」と龍己(藤竜也)に言われて「やっとみんなの役に立てた」と肩の荷をおろし、自信すら芽生えたかもしれないところをまたまたへし折られる。

「気持ちいい〜」は、莉子が台風のなかの中継で泥だらけになって、汐見湯でお風呂に入ったときに叫んだ言葉。この流れでビールを飲んで気が緩んだ莉子が「自分のため」発言をするのである。莉子の発言は気持ちいいが、莉子のお風呂シーンが声のみで一切ないのは気持ちよくない……よね。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami