『おかえりモネ』第12週「あなたのおかげで」

第58回〈8月4日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第58回「気象キャスター辞めようと思ってます」今日は朝岡(西島秀俊)がぶっ込んできた
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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莉子は報道キャスターを目指していた

東北に上陸した台風情報を事前に実家に知らせことなきを得て、「やっとみんなの役に立てた」とほっとする百音(清原果耶)に「人の役に立ちたいって、けっきょく自分のためなんじゃん?」と水をかける莉子(今田美桜)。相当の冷水である。ざわつく明日美(恒松祐里)菜津(マイコ)


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第58回掲載中)

こういうとき、ドラマでありがちな流れは、百音は東日本大震災で傷を負っているのだからと強い主張が発せられ、莉子が押し黙るパターン。だが『モネ』では揉め事にはならず、あくまで穏やかに話は済む。

莉子は「永浦さんを否定しているとかじゃないよ。ただ私は、自分が人に認められたいとか有名になりたいとか、そういう欲求のほうがシンプルだし、嘘がないって気がするだけ」と明瞭に言う。感情的ではなく理性的なのでいやな感じがしない。

明日美が気を利かして莉子に話を振って盛り上げる。
そこでは莉子がじつは報道キャスターを目指していることがわかる。マリアンナというミドルネームも人に覚えてもらうためにつけていると明かす。

汐見湯の大家で、かつ年長者の菜津は、この場をなんとか収めないといけない立ち場かと思うが、あくまでも傍観者。ドラマでありがちなパターンだと、菜津がふいに良さげなセリフを言ってまとめるパターン。例えば『ひよっこ』の愛子(和久井映見)のように。

だが『モネ』はそうじゃない。
最も当事者じゃない菜津が突然訳知りに何か言うのも白けるし、ここはいるだけでいいだろう。俳優としては存在意義を問われる気もするけれど。

その場で良い感じにまとめないことで、“人の役に立ちたい”ってどういうことだろう? という問題が浮上してくる。

『おかえりモネ』第58回「気象キャスター辞めようと思ってます」今日は朝岡(西島秀俊)がぶっ込んできた
写真提供/NHK

う〜〜 う〜〜

その場は揉めることなく笑顔で受け流した百音だったが、部屋でひとり「う〜〜〜〜」と頭を抱える。

その頃、亀島でも未知(蒔田彩珠)が「うーーー」と頭を抱えていた。離れていても似ている姉妹。

未知は研究の成果がなかなか出ないことにじりじりしている。
百音が悩みから脱しかけて活躍をはじめた、すなわちそれは家や地元のためになってきた――が、自分の仕事はまだ家や地元の役にたたない。それが未知を悩ませる。

亜哉子(鈴木京香)がノーベル賞の研究は30年かかると励ますと、そこまでは考えてなくて途方に暮れる未知。彼女は実のところまだそこまでは研究というものを真剣に考えていないのであろう。亮(永瀬廉)と一緒にいたい気持ちと家の役に立ちたいという気持ちが先立っている。そこは菜津が自分の欲望は、人の役に立ちたい百音と、好きな人と大好きと言いながら生きていきたい明日美の間と言っていたように、未知もそのふたつの欲望に突き動かされている。


車椅子マラソンの登場

百音が悩んでいるとき、車椅子マラソン選手の鮫島祐希(菅原小春)が現れる。やたらとバイタリティーにあふれている人で、リオデジャネイロ・オリンピックには出られなかったが東京オリンピックを目指している。そのために気象予報の力を借りようと朝岡(西島秀俊)を頼って来た。競技と気象は密接な関係があるのだ。

『おかえりモネ』第58回「気象キャスター辞めようと思ってます」今日は朝岡(西島秀俊)がぶっ込んできた
写真提供/NHK

朝岡には朝岡の思惑があった。それは「スポーツ気象」というジャンルの開拓。いまの仕事はリードタイム。
気象予報で危険を事前に察知するのみならず、もっと前向きに気象予報を人類の未来を開くために使おうと考えていることには、百音でなくとも口あんぐりである。このあんぐりは感心のあんぐり。

朝岡は鮫島の件で気象予報班のメンバーに協力を求めるが、莉子も内田(清水尋也)もあっさり断る。ところがギャラが出ると聞くとたちまちやると言い出す。これもまた、“人の役に立ちたい”ことと“自身の野望”との問題と関係しているだろう。ボランティアでやることと、やらないことの線引きを、莉子と内田は持っている。
たしかに莉子が報道キャスターを目指して仕事をしていて、内田は風の研究に余念がない。

朝岡はスポーツ気象というジャンルをやるため、気象キャスターを辞める気でいる。彼にとって気象キャスターは一生をかける仕事ではないようだ。これには百音たちは「え」と驚愕。ここでSNSでは公安に転職とか盛り上がっていたようだが、そんなことより、カンヌで四冠をとるような優れた映画が本来の居場所なのだ、西島秀俊は。そんな想いを表に出さずに粛々と俳優としての仕事をやってニコニコ笑顔を振りまいている。朝岡はそういう西島へのあてがきのような人物だと感じる。本心を隠して任務に忠実な感じは公安刑事もそうだけれど。

鮫島はとにかくオリンピックで勝つ野望に燃えている。では百音はどうか。人の役に立ちたいなら、朝岡に頼まれたらなんでもやるのか。彼女は誰の役にたちたいのか。それはなぜなのか。もう少し深く考えていく岐路に立っている。

鮫島はリオの選考大会で熱中症になってしまったという。この回の放送があった日の日本も猛暑日で注意喚起がされていた。開催中のオリンピックの選手の皆さんも気をつけてほしい。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪







番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami