『おかえりモネ』第12週「あなたのおかげで」

第60回〈8月6日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第60回「僕はある人の人生を奪いました」菅波が過去を話し始める
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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23年前、駅伝の選手だった朝岡(西島秀俊)は大事な試合で天気を読み間違え、競技の途中で棄権したことをリベンジしたくて気象予報の道を歩んだ。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第60回掲載中)

リオ・オリンピックの選考会で天気を読み間違えて落選した鮫島(菅原小春)。どちらも熱中症によって実力を出し切れなかった。


2016年、朝岡と鮫島が出会い、天気を制してオリンピック選考を勝ち取ろうとしている。もっと精度を高めるには医者も必要で。百音(清原果耶)菅波(坂口健太郎)に頼んでみるが……。

第60回は、広島平和記念式典の中継のため、8時35分過ぎからはじまった。広島に原爆が落ちたのは1945年8月6日(月)午前8時15分。朝ドラは2010年『ゲゲゲの女房』から8時開始になるまでは8時15分開始だった(第2作『あしたの風』以降)。
朝ドラが毎日変わらない平和な朝の祈りだと感じるのは8時15分はじまりだったからかもしれない。8時に繰り上がってからもその想いは変わらないのではないか。ちなみに長崎は8月9日(木)午前11時02分。

カッコいい、鮫島

「自分が自分のためにって一生懸命やっていることが誰かのためにもなったらって。それ、いちばん良いかもしれないです。鮫島さん、さすがです、カッコいいです」

百音は鮫島の肩をマッサージしながら言う。人のため、人のためと思ってやってきたことが空回りしてきた百音だったが、莉子に「けっきょくは自分のため」と言われた言葉が気になっていた。


それに比べて鮫島は「100%自分のため」と言い切る。彼女のその強い気持ちに周囲は協力を惜しまない。自分だけでは難しいことをどんどん人に頼って実現していく鮫島。借りをたくさん作るし返したいとは思うけど、彼女の姿を見て元気になる人がいたら……。彼女に協力した人たちだって自分の力を伸ばせたりして充実感が満たされる。この持ちつ持たれつ感が大事なのだ。


「恩返し」ではなく「恩送り」という言葉がある。借りた相手に返すのではなく、借りた感謝をまた別の人に返すという先に繋いでいく行為である。人の役に立つことにだって多様な方法があることを百音は学んでいく。

『おかえりモネ』第60回「僕はある人の人生を奪いました」菅波が過去を話し始める
写真提供/NHK

菅波の過去も明かされる

朝岡に続き、菅波の過去も……。彼はなぜ「あなたのおかげで」と言われることにことさら警戒心を抱くのか。それは彼の過去の経験によるものだった。

菅波の重い告白に至るまでに小さな出来事が積み重なる。
鮫島バックアッププロジェクトに医者が必要→菅波に頼もう→ムリムリ→明日美(恒松祐里)に相談したら「菅波先生に頼めばいいじゃ〜ん」とプッシュされる→電話するかひとしきり悩む→電話する→登米で電話を受けた菅波が森林組合の人たちとサヤカ(夏木マリ)にからわかれる→百音がもにょもにょとはっきりしないことを言う→東京に菅波が戻る。なぜか汐見湯で留守番させられている。→菅波がついに過去に言及……という流れ。

生真面目で誠実なドラマだと感じるのがこのあたり。おそらく今週はこのドラマにおける重要なテーマ(人の役に立つこととは)を描かなきゃならない正念場なのであろう。菅波が百音に過去を告白する、そのためになんとか登場人物たちを有機的に関わり合わせようとひと苦労しているように感じる。
テーマも生真面目で表現の仕方も生真面目で、この生真面目さが好ましくはある。

『おかえりモネ』第60回「僕はある人の人生を奪いました」菅波が過去を話し始める
写真提供/NHK

「それだけですか?」

百音の頼みをまずは断る菅波。素直じゃなくて面倒くさいけれど、この手の面倒くさいタイプの中では比較的接しやすい人である。百音に鮫島に協力してほしいと頼まれて一旦は断るが、「それだけですか?」とワンチャンくれるのだから。ここでもっと百音にしつこく粘られたら引き受けるのだろうが、百音はそうできない。そこが百音の良いところである。

百音はなぜかここで「あなたのおかげで助かりましたという言葉は麻薬です」の話を蒸し返そうとしてためらい、菅波の好きな「鮫」と同じ名前の「鮫」島さんだと話題を変える。
調子よくぐいぐい物事を頼める人ばかりではなく、思ったことがうまく言えない人もいるし、こんなふうにいろんな考えが同時に頭を駆け巡ってまとまらないことはあるものだ。だから百音のこういうとりとめない描写はあって全然いいけれど、朝の15分間のドラマでそれをやるのは難易度が高そうである。「自分のため」or「人のためか」問題を描かないといけない使命感に汗をかいている姿が透けて見えるようなのだ(全然涼しい顔で作っていたらすみません)。

第60回で肩に力が入らず気楽に見られたのは、川久保(でんでん)がルーペで百音のメールを読んでいる、なんでもないところだった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami