『おかえりモネ』第12週「あなたのおかげで」

第56回〈8月2日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第56回 百音も生真面目、菅波も生真面目、物語もとても生真面目
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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「モネ、頼むね」

「モネ、頼むね」と心配する祖母(竹下景子)のナレーションが韻を踏んでいた。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第56回掲載中)

東北に台風がやって来る。しかも上陸するかもしれない。
百音(清原果耶)は気仙沼・亀島に住む家族たちを心配し、祖父・龍己(藤竜也)に電話をかける。取り次いだ母・亜哉子(鈴木京香)は「なんか急に頼もしくなっちゃって」としみじみ。

震災のとき何もできなかった百音は、ただ「誰かの役に立ちたい」と願った結果、気象予報士になった。その希望通り、このたび実家に台風が上陸する前に注意喚起することができた。

百音は着々と目標を叶えている。仕事を私的なことに利用するというと聞こえが悪いが、他の地方の災害のときはどうなんだろうという疑問も感じなくはない。
そんなときはこう考えてみたらどうだろう。ドラマではたまたま宮城だけれど、視聴者がそれぞれ自分の大事な地域に当てはめて考えてみる。誰もが自分の大事な地域や人のために役に立てればいいなあという希望を見出せば心が軽くなる。

汐見湯では、菜津(マイコ)の祖父・小倉肇(沼田爆)が熱中症で倒れ、それを宇田川まで陰ながら心配している。さらにそんな宇田川を菜津が心配している。百音は菜津の様子に気づく。
誰もが自分の身近な人を心配しているのである。続け、気遣いの連鎖。

『おかえりモネ』第56回 百音も生真面目、菅波も生真面目、物語もとても生真面目
写真提供/NHK

菅波も役に立った、けど……

仕事帰り、ご飯を買って帰宅した(コンビニ弁当ではなく、ちょっとしゃれたボックスのお弁当で芸が細かい)百音は、肇の異変に驚いて、コインランドリーに菅波(坂口健太郎)を探しに行く。するとうまい具合にいた。さっそく汐見湯の奥へと案内し、菅波はテキパキと診察。熱中症になったのであろうとわかる。

菅波の適切な処置で事なきを得た。
咄嗟のときに知り合いの医者に助けてもらう。ここでも百音が役に立った。

百音は菅波に「先生のおかげで助かりました」と礼の電話を入れると、彼は押し黙る。以前「あなたのおかげで助かりましたという言葉は麻薬です」と菅波が百音に釘を刺したことがあった(第10回)。それを思い出す百音。自分のしたことが役に立って嬉しくなってきている百音だったが、菅波の言葉が戻ってくる……。


生真面目なドラマ

『おかえりモネ』は生真面目なドラマである。百音は生真面目なキャラだが、物語もとても生真面目。「あなたのおかげで助かりましたという言葉は麻薬です」をずっと引っ張っている。

百音が家族の役に立ち、菅波が汐見湯の役に立ち……、でもそれはものすごくラッキーな流れにあって――言ってしまえばドラマのご都合主義的な展開である。それを「あなたのおかげで助かりましたという言葉は麻薬です」という菅波の謎のこだわりでなんとかプラマイゼロにしようとしているように感じる。良いことに浮かれない気持ちが大事である。

『おかえりモネ』第56回 百音も生真面目、菅波も生真面目、物語もとても生真面目
写真提供/NHK

オリンピック観戦と熱中症には2500年の因果関係がある

菅波も生真面目である。肇の熱中症はオリンピック観戦が原因とわかると、オリンピック観戦と熱中症には2500年の因果関係があるという話を百音にしはじめる。
自信のある知識のこととなると相変わらず話が長い。

でも百音は、古代ギリシャの七賢人のひとりタレスが「世界のすべての根源は水である」と言ったという話に興味を持つ。気象予報も人間が「水」の動きをどう察知して回避できるかがキーであるから。

明日美が救い

2500年の因果関係とか世界のすべての根源は水とか難しい話に頭がちょっと痛くなったとき、救いは明日美(恒松祐里)である。突然目の前にイケメンの医者(菅波)が現れると、すかさずおしゃれして(肩出しの服)、媚びるようなスマイル。このちゃっかりした感じ、嫌いじゃない。

「わかったぞー」(明日美)、「違うよ」(百音)という会話に、百音は恋とは気づかないふりしているだけなんだろうなと感じる。
すべては菅波がはっきり言葉にしないせいである。

さて。もうひとり救いとはいえば、耕治(内野聖陽)。百音からの電話に代わってもらえなくてあたふたしながら隙あらば百音の担当している『あさキラっ』の天気予報コーナーを「録画してる」とアピール。耕治は前からお調子ものという雰囲気ではあったものの、ますますおどけているような気がするが、百音が大人になった分、お父さんも年をとった感じを出しているのかなと想像した。年をとるとますますわいわい騒ぐようになる人いるじゃないですか。といってもまだ4カ月しか経っていないわけだが。

それにしても田舎の陽気なおじさん感を出す内野聖陽に対して、決して緩みを見せない、夜寝る時も化粧してそうな鈴木京香。真摯に演じれば演じるほど、娘たちと血がつながってない後妻みたいに見えるという強烈な個性。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami