『おかえりモネ』第11週「相手を知れば怖くない」

第55回〈7月30日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第55回「私先生にずっと会いたかっ…」百音と菅沼の互いを思う気持ちがエモい
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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映画のキャッチコピーのような出来事――“1300万人分の2の奇跡”が起こった。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第55回掲載中)

百音(清原果耶)が東京で働き始めて4カ月。「絶妙に4カ月すれ違っていた」と菅波(坂口健太郎)が言うように、コインランドリーでニアミスしていた百音と菅波がついに出会う。


「ずっと会いたかっ……」と百音が思わず口にしたあとの百音と菅波の照れくさい表情。控えめながら心の湿度が上がっていることが伝わってくるようだった。

ツイッターでも「#おかえりモネ」「#菅波先生」がトレンド入り。「#菅波先生」がトレンド入りする率は高い。

「絶妙に4カ月すれ違っていた」

広い東京、人口は1300万人。百音と菅波が偶然出会う確立は極めて少ない。その奇跡の偶然が起こってせっかく会ったのに、「納得いきませんね」と菅波は渋い顔をする。


出会えたことには理由があって、互いの生活圏が近かったため。なんと汐見湯のすぐ裏の病院が菅波の勤務する病院だった。とすれば、4カ月間、すれ違い続けるほうがおかしいと菅波はあくまで理屈で状況を認識することをためらう。

「納得いきませんね」の言い方を変えれば、すぐに会えたはずなのになんで4カ月も会えなかったんだ、それは納得いかないという悔しい気持ちであろう。要するに、「会えて嬉しい」わけだが、そこは菅波。シンプルにいかない。


『おかえりモネ』第55回「私先生にずっと会いたかっ…」百音と菅沼の互いを思う気持ちがエモい
写真提供/NHK

洗濯が終わるまでの10分間、話を聞くと言う菅波。これも、百音の話を聞く理由を無理やり理屈づけている。まったく面倒くさい人である。でも百音はちょうど仕事に悩んでいて、菅波に連絡したいと思っていた時だったから思いの丈をぶつける。

それに対する菅波の回答をここには記さないが(NHKプラスやオンデマンドで観よう)、百音にとって菅波の言葉は、喉が渇いているときの美味しい水のような、必要な栄養素のようなものである。それが百音の表情によく現れている。


「めちゃくちゃ元気じゃないですか」と百音をまぶしそうに見る菅沼。久しぶりに会えて安心したり嬉しかったりする顔だった。雨があがったあとの日差しを見るような。

「距離が離れれば気持ちも離れる」

山や海を愛しているにもかかわらず、最近は怖いものとしてばかり伝えようとしている百音に菅波は「距離が離れれば気持ちも離れる」と言う。「人だってそうでしょ」と。ここには若干、私的な感情が入っているような印象も受ける。百音から連絡が途絶えていたことに対して思うところがあるような……。


百音は「そんなことないです」と返す。だって百音は菅波に長文のメールをしている。でもあまりにそっけない返事だったから、連絡できなくなっていたわけで。気持ちのすれ違いである。

『おかえりモネ』第55回「私先生にずっと会いたかっ…」百音と菅沼の互いを思う気持ちがエモい
写真提供/NHK

百音は「4カ月間離れてましたけど、私、先生と距離が空いたとは思いません」と言う。好きとか愛とか恋とかいう言葉はなく、身体的な接触もないけれど相手を思う強い気持ちがこもっていて、エモい。
清原果耶も坂口健太郎も記号的な表現を一切しないでここまで伝えてくる表現力。菅波なんてやり方次第ではもっと記号化されたキャラになりそうなのだが、そうならないように抑制しているところがいい。

ただ、その後に、海とか山から離れたとも思っていないと続くところが、『モネ』の世界。恋愛も仕事も故郷への思いも全部がつながっている。

「先生にずっと会いたかっ……」と百音が感極まったところで洗濯が終了。大きな終了の音が百音の言葉をかき消す。
いやでも「先生、私先生に……」で終わらなくてよかった。「ずっと会いたかっ……」そこまで言えたからもうもやもやはない。

菅波との再会後の百音は仕事中、莉子(今田美桜)に「かわいい」「なんか良い感じに肩の力が抜けた気がする」「なんかあった?」と言われる。吹っ切れて仕事にやる気が出ただけではない。たぶん恋の力であろう。

宇田川さん

ある夜、出かけぎわに、また宇田川さんが風呂掃除をしている。百音が宇田川さんに声をかけると反応が……。

ひきこもっているくらいだから宇田川さんのほうこそ百音たちを警戒しているだろう。だから百音のほうが相手を安心させるように歩み寄る。それはまるでナウシカがテトに「怖くない怖くない」となだめる名場面のようであった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami