『おかえりモネ』第11週「相手を知れば怖くない」

第54回〈7月29日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第54回 誰かに話を聞いてもらいたい――そこに菅波(坂口健太郎)登場、微笑ましい再会
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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東京で働き始めて4カ月、壁にぶつかった百音(清原果耶)。「誰か話聞いて……」と悩んでいるところに、毒舌でおなじみの“あの人”が現れた。緩急ある流れと、サブタイトル「相手を知れば怖くない」が汐見荘の謎の人物・宇田川さんのことと予測不能の天気の怖さとかかっている労作である。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第54回掲載中)

「誰かが事故にあってからじゃ遅いです」

2016年8月。オリンピックでお天気コーナーが飛ぶ。16年はリオデジャネイロ・オリンピックがあった年。2021年の今もそうだが、オリンピックがあると番組がオリンピック一色になっていく。

ところが、そのオリンピックニュースに代わる事件が起こる。急に降った大雨でアンダーパスが冠水した。至急調べていくと重傷者も出ていて、ウェザー・エキスパーツの面々の表情は暗くなる。
百音と同じく4月から『あさキラッ』のメンバーになった内田(清水尋也)は命がかかわってくることを目の当たりにして「報道気象班って案外きついですね」と声を落とす。

「水ですね」と朝岡(西島秀俊)が水に注意をはらうことを強調したのを聞いて、百音はその後、毎日、水の事故から身を守るネタを紹介しようとする。

「楽しいネタの日があってもいいんじゃない?」と高村(高岡早紀)が提案しても、百音は「誰かが事故にあってからじゃ遅いです」と険しい顔になる。そこへ内田が神野が担当する天気コーナーだったら柔らかく伝えられるのではと提案し、百音の意見が通った。

『あさキラッ』の人たちはみな穏やかだ。百音の故郷が震災の被害に遭っていることを知っているからか、彼女の気持ちを受け入れる。
それに、報道に携わる者として危険を伝えたい気持ちと同時にたくさんの人に番組を観てもらうための楽しくゆるめの内容を入れなくてはいけないジレンマを抱えているから、百音の考えも理解できるのだろう。

とはいえ、それも一面的な考えであって、水の楽しさを知りたいという人間の根源的な欲望が視聴者の声として百音に届く。番組を観て海を怖がるようになった子どもに海の楽しさを伝えたいという要望のメールである。第52回では、視聴者から番組への肯定的な御礼のメールが来ていた。喜ばれることもあれば、逆の要望を寄せられることもある。海は怖い。
でも楽しいときもある。世の中は矛盾に満ちている。

視聴者からの要望の文章が大変丁寧で、要望を伝えるときの見本のようであった。相手をリスペクトした上で要望を伝えることが大事。

『おかえりモネ』第54回 誰かに話を聞いてもらいたい――そこに菅波(坂口健太郎)登場、微笑ましい再会
写真提供/NHK

「相手をよく知るということは恐怖と被害を遠ざけます」

「人はわからないものを怖がります。でも逆に、よく知ってさえいれば、たとえ牙を向けられたとしても傷つけられないように距離を保つことができる。相手をよく知るということは恐怖と被害を遠ざけます」

朝岡は視聴者からの手紙を百音に見せて諭す。
怖がって距離をとり過ぎると理解もできない。まずはよく知ることが大事。

これを聞いた百音が、宇田川さんを思い浮かべたかは定かではないが、宇田川さんも得体の知れないものと思って逃げていたらただ怖い存在だった(とくに明日美にとって)。でも実態を知ることで気にならなくなった。逆に、夜中に彼が風呂掃除をしていても、無駄に騒いだりせず、宇田川さんの時間と場所を尊重することができる。そうしたら互いの時間と場所を問題なく使える。
とてもいい状態が生まれている。

『おかえりモネ』第54回 誰かに話を聞いてもらいたい――そこに菅波(坂口健太郎)登場、微笑ましい再会
写真提供/NHK

天気と人間にもきっとそういう関係を作ることができるだろう。近年、日本の気候も急激に変化していて、ゲリラ豪雨が増えている。だからこそ朝岡は気象予報の精度を高めようと努力している。今後ますます気象予報の仕事は求められていく、その使命感が朝岡から強く滲んだ。

「納得いかない」

気象予報士の資格を生かす仕事に就けて百音の視界の霧は晴れたかと思ったが、危険を事前に知らせたい思いばかりが先走って、多くの人たちの考えとすれ違う。悩んで誰かに話を聞いてもらいたいとスマホのアドレスを見るが、昼間はみんな働いているからと気遣うあまり電話ができない。


そこに声がかかって振り返る、見知った顔が「納得いきませんね」と妙な顔つきをしていた。なんて微笑ましい再会であろうか。

「あとでたこやき〜」の人が気になる

『あさキラッ』の放送終了後、ADらしき人物が「助かりました」「あとでたこやきごちそうさせてください」と百音に言っている。その時の百音の自然な笑顔。あとでたこやきを手渡すのではなく、ごちそうさせてくださいと言うってことは食べに行きましょう的なことかなと想像する。ここからはじまる恋もあるかもしれない。

でもそういうときにふらっと現れてしまうのが縁のある人なのである。百音が気象予報士の試験を諦めて登米で働こうとしていたら朝岡がまたやって来たように。

「しかし運命の相手というのは、こちらの心が揺らいでしまいそうになると突然現れたりするものです」(第32回より
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami