『おかえりモネ』第11週「相手を知れば怖くない」

第52回〈7月27日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第52回 菅波とニアミス! 会えそうで会えない“すれ違いドラマ”
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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いよいよ『あさキラッ』に初出勤の深夜、出かけに百音(清原果耶)は銭湯に人の気配を感じる。なにやら掃除をしているような音を立てていて……。ほのぼの築地・銭湯のシェアハウスライフになるかと思ったが、どうやらそれだけではなさそうである。
古い銭湯の謎とは何か――。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第52回掲載中)

すれ違いカップル

Jテレに着いた百音。内田(清水尋也)とふたり、新たなスタッフとして紹介される。内田は頼りなさげに見えるが、風の研究に余念がない。得意分野を持つ者は強い。

莉子(今田美桜)と組んで中継コーナーを担当することになった百音は、お天気に関するネタを紹介するため、ネタ探しをはじめる。コインランドリーで洗濯しながら考えて、一瞬、コインランドリーから離れたときに、菅波(坂口健太郎)が洗濯しにやって来る。
ベタベタなすれ違いであるが、そこだけではなく、“すれ違い”をモチーフにしてあちこちに散りばめてある。

百音が夜から早朝勤務のため、せっかく一緒に暮らしても明日美(恒松祐里)との生活時間が合わない。それを菜津(マイコ)が「すれ違いカップルみたいね」と笑う。ここでも“すれ違い”。そして、深夜の銭湯に出現する謎の人物とのすれ違い。

ベタとはいえ“すれ違い”はエンタメのテッパンのひとつではある。
ラジオドラマから映画、朝ドラ化されるほどの大人気だった菊田一夫の名作『君の名は』はそのすれ違いの典型で、東京大空襲の夜、数寄屋橋で偶然出会ったふたりが心惹かれ合い、再会を約束するも、運命のいたずらによってなかなか出会うことができない。会えそうで会えないもやもやがドラマの魅力だった。『モネ』はこの“すれ違いドラマ”を楽しくリスペクトしているように感じる。“1300万人分の2の奇跡”(東京の人口がそれだけ多いから偶然会うことは奇跡)という言葉もキャッチーだ。

『おかえりモネ』第52回 菅波とニアミス! 会えそうで会えない“すれ違いドラマ”
写真提供/NHK

恋バナ

「恋愛は距離だよ。そばにいることがいちばん大事だよ」と明日美は言う。明日美にはすれ違い恋愛は考えられないらしい。
だから、幼なじみとしてずっと傍にいたときは亮(永瀬廉)に夢中だったが、住む世界が遠く離れてしまった今、もう恋心はない。でも百音は、以前、亮と明日美が付き合っていたことを知っているので、まだふたりの気持ちが残っていたら……と亮に思いを寄せる未知(蒔田彩珠)のことを心配していた。

未知の恋愛観はおそらく明日美に近く、だからこそ水産業を通じて亮の傍にいたいといういじらしい気持ちに明日美は気づいている。明日美の亮に対する微妙な気持ちーー何度も告白してやっと付き合ったけどすぐ別れたが幼なじみとして変わらず仲良くしている。「幼なじみ大好きキャラ」をネタにして。ほかに新しい恋もしているが、おそらく亮に対しては完全に吹っ切れているわけでもないがどうしようもないという、言葉にし難い複雑な心情がある。


『おかえりモネ』第52回 菅波とニアミス! 会えそうで会えない“すれ違いドラマ”
写真提供/NHK

「恋愛はわかんないからね〜」と明日美が言うように、恋愛には理屈じゃない感覚的なものがあって、シロクロつけたいテレビドラマでは表現しにくいため省いてしまいがちな部分を決して省かないことが安達奈緒子脚本の魅力のひとつである。

そして明日美は百音のなにげない反応から「いるな」と百音の心のうちに芽生え始めている小さな恋に気づく。

「上限いくつ?」

第52回で面白かったのは、莉子が、恋愛対象の上限について言及するところ。天気ネタで、森林組合での経験を活かしてスギの効能について紹介することになった百音。得意分野でやっていくのはいいことと朝岡(西島秀俊)は肯定し、百音と朝岡の共通言語で話をしているのを見た莉子はすかさず、「永浦さん、上限何歳?」と探りを入れる。彼女自身は「……40歳かな」。百音にはその意味がよくわかっていない。


説明してしまうとつまらないけれど、莉子にとって朝岡は恋愛対象ではないが、百音と朝岡には何かあるのかな? と勘ぐっているのであろう。そう、この説明してしまうとつまらない部分を『モネ』ではなんとか画にしようと腐心しているように感じる。

説明したらつまらないことといえば、百音がいきなり昼夜逆転して平気なのは若さなのだろうか。いくらバイトと言っても、もっと最初に労働条件を提示すべきではないのだろうか。深夜勤務になる可能性ありと事前に告知しないのだろうか。入社して突然、今日から深夜2時起き勤務というのがどうも釈然としない。
百音がいやそうじゃないからいいのだけれど。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami