『おかえりモネ』第11週「相手を知れば怖くない」

第51回〈7月26日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第51回 大人の恋の感情を知っていく途中の百音。脚本家・安達奈緒子の筆が冴える
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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百音、動き出す

東京編2週目。百音(清原果耶)はバイトながらウェザー・エキスパーツに採用が決まり、スーツを着て出社する。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第51回掲載中)

百音は『あさキラっ』チームに入り、コサメちゃんと傘イルカくんの担当になった。
いよいよ気象予報士としての活躍がはじまる。……かと思ったら、第51回は百音の瑞々しい心情がメイン。菅波(坂口健太郎)へのメッセージ、莉子(今田美桜)との会話、妹・未知(蒔田彩珠)とのスマホでのトーク等々、傍から見たらささやかだけど当人にとっては重要なことばかり。そして、謎の人物との遭遇も……。

菅波のメッセージに恥ずかしくなる百音

『おかえりモネ』の第1回は百音が登米で洗濯機を回していた。第51話でも築地で百音は洗濯機を回す。登米は縦型。
コインランドリーはドラム式だ。ぐるぐる回る渦は、天候の象徴のようでもあり、人の人との縁のようでもあり、百音の心のようにも見える。

運命に導かれるように、築地の汐見湯にやって来た百音。初日から、仙台の強風情報を伝える手伝いができた。

明日美(恒松祐里)は「モネは私達のこと心配し過ぎじゃない?」と言うが、百音にとっては重要なことなのだ。明日美のタオルの巻き方が羊みたいでかわいかった。


さて、菅波とニアミスしていることに気づかず、メッセージを送った百音。けっこう長めのものを送ったにもかかわらず、夜遅くに来た返信の菅波の文章のあまりの短さに、百音はショックを受ける。気象予報士の試験のときはものすごく長いメッセージを送りつけてきた菅沼だったから、きっと百音も丁寧に書いたのだろうけれど、とんだ肩透かしである。

想像するに、菅波の性格上、自分の知識を活かせることが一切ない百音の単なる近況報告なので、言葉が浮かんでこなかったのであろう。例えば、百音が何かに困っていて質問でもしたら、それには真摯に応えてくれるに違いない。例えば、深夜に目覚める方法を聞くとか……。


でもそんなことは百音にはわからない。「恥ずかしい……なんで?」と布団を頭までかぶってもやもやしている百音の表情がいい。

『おかえりモネ』第51回 大人の恋の感情を知っていく途中の百音。脚本家・安達奈緒子の筆が冴える
写真提供/NHK

「〜みーちゃんとりょうちんが魚の話してるの想像するとほっこりする」

出社第1日目。百音はスーツを着て出社。野坂(森田望智)に社内を案内してもらう。同じスーツ姿でも、やわらかな曲線的なラインのスーツかつ動きもなめらかな野坂に対して、百音はスーツも動きもストンっと直線的で性差を感じさせない。ちょっと少年っぽくも見える。


『あさキラっ』終わりで会社に戻ってきた莉子は、番組ではピンクなどの色味の淡くきれいなワンピースを着ているが、私服はモノトーン、そしてカジュアル。服装や身のこなしで属性がわかる。

『おかえりモネ』第51回 大人の恋の感情を知っていく途中の百音。脚本家・安達奈緒子の筆が冴える
写真提供/NHK

『あさキラっ』チームに配属された百音は、夜2時に起きて出社して朝帰ることになる。月9『ナイト・ドクター』的である。そのせいで恋がうまくいかないと自分の体験を話し、百音に気をつけるように助言する。でも百音にはまだそういう心配はない。


莉子は、当たり前に恋の話をさらっとすることで多くの恋を失っていることがバレる(相変わらず正直な人である)。だがあくまで笑顔。そんな彼女に戸惑ったり気をつかったり瞬時にいろんな感情が湧いてくる百音の表情。莉子と百音がもの言わず、表情で語るところが見どころ。

すれ違いで恋を失うということがまだ実感できていない百音。妹・未知の恋心に触れる。
電話で、近況報告した流れで、亮(永瀬廉)の話題に。未知のささやかな亮との交流を微笑ましく聞く百音。百音にとっての恋はまだこれくらいの段階なのである。きっとこれから大人の恋の感情を知っていく途中なのだろう。

仕事に関しては明確な目標ができた百音。でもまたしても自覚できない感情が湧いてきた。「恥ずかしい」感情はどこから来たものなのか。それをこれからまた知っていくことになるのだろう。『おかえりモネ』はこの明確に言葉にならない感情の芽生え、成長の過程、変化、そして気づき……そういうことを丁寧に描いている。そこが見応えがある。

「魚市場でたまにみーちゃんとりょうちんが魚の話してるの想像するとほっこりする」

文字に起こすとなんじゃそりゃ?という感じだが、そこに至るまでの流れを観て聞くことで、このセリフの良さは倍増する。未知が亮から聞いた魚の名前を羅列する。暗号みたい(by 百音)なそれも魚の名前を超えたものが宿る。脚本家・安達奈緒子の筆が冴える。そして百音の声のトーンだけでも十分ほっこりする。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami