『おかえりモネ』第10週「気象予報は誰のため?」

第50回〈7月23日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『#おかえりモネ』「#菅波先生」「#傘イルカくん」「#とと姉ちゃん」とトレンド入りの第50回
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

※『おかえりモネ』第51回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします


モネが東京編で変化した理由

『あさキラっ』の天気予報コーナーが急遽2分延びた。百音(清原果耶)は、現場中継の莉子(今田美桜)に協力して、宮城県の強風情報を伝えることになる。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第50回掲載中)

ウエザー・エキスパーツの安西社長(井上順)に託されたパペット、コサメちゃんと傘イルカくんを百音は活用し、番組終了後SNSのトレンドにも入る(このとき2016年度前期放送の朝ドラ「#とと姉ちゃん」も入っていた)。


初仕事の成功をはじめとして、百音にうれしいことばかり起きる。次々訪れる奇跡的な展開に観ていて顔がほころぶ。テンポ良く起きてほしいことが起こる気楽さ。これまでの『モネ』になかったことである。ドラマの中だけでなく、現実のツイッターのトレンドに「#おかえりモネ」が1位にあがり、他にも「#菅波先生」「#傘イルカくん」「#とと姉ちゃん」がオリンピック他の話題に混ざってあがっていた。

東京編になって、アヴァンタイトルが前回の振り返りになって、劇伴もポップなものが増え、ドラマ全体の雰囲気も変わったように感じる。
この変化はなぜか、第50回のアヴァンの振り返りを観ていて合点がいった。朝岡(西島秀俊)が全国1億人2千人に向けた番組を意識している話をするのと同じく、『モネ』は10万人から1億2千万人もの人たちを意識したスタイルに変化したのである。

第9週までの宮城の登米・亀島編は地元中心で、例えるなら“10万人”分くらいのぎゅっと濃縮された内容だった。それが百音が東京に出て全国放送に携わることによって“1億2千万人”に向けた広いスタイルになったということだと解釈することができるだろう。

顔の見えない不特定多数(1億2千万人)向けの内容か、顔がわかる10万人に向けた選ばれた内容か。朝倉たちの抱える葛藤がドラマそのもののスタイルで現れるとはなかなかおもしろい。


そんな悩ましい状況のなか百音は、不特定多数よりも自分の大切な人たちに向けたいと早くも意思を固める。そして上京初日にささやかではあるが地元・宮城の人たちに向けて強風情報を伝えることができた。

『#おかえりモネ』「#菅波先生」「#傘イルカくん」「#とと姉ちゃん」とトレンド入りの第50回
写真提供/NHK

チームワークの勝利

「でも私がこの仕事で守りたいのはこの幼なじみみたいな自分の大切な人たちなんです」

地元の大事な人たちを守りたい。百音の想いが地元に届いたかのように、百音に追い風を吹かせる。朝まで飲んでいた三生(前田航基)悠人(高田彪我)が商店街の看板が風で吹っ飛んだ写真を送ってきて、それをきっかけにニュースができる。

百音が現場でスマホの電源を切らないでいたことが功を奏した。社会部の沢渡(玉置玲央)に報告して、そこから仙台支局が現場で映像を抑え放送された。


ふんわりした内容のなかに伝えたい情報をこそっとはさむ。「こういうの大好きです」と莉子もやる気になったし、「気象予報はチーム戦です」と言う朝岡のもと、莉子、百音、内田(清水尋也)たちの活躍を、最初は黄砂の情報を選んだデスクの高村(高岡早紀)も認める。

沢渡に「これでも社会部の端くれなので」と高村が言うセリフは、天気予報も重要な社会のニュースのひとつなのだという彼女の矜持が感じられた。と同時に、社会部のなかで天気予報は軽く扱われていて、おそらく悔しく思っているのであろうということも。

花形の部署ではない、隅っこに追いやられた部署の人たちが力を合わせて奮闘する物語は万人受けすること間違いはない。万人受けが悪いわけでは決してなく、そういうものも必要なのだ。


『#おかえりモネ』「#菅波先生」「#傘イルカくん」「#とと姉ちゃん」とトレンド入りの第50回
写真提供/NHK

『とと姉ちゃん』の星野、『おかえりモネ』の菅波百音にとっては『あさキラッ』の活躍が実技試験のようになった。安西社長のコサメちゃんと傘イルカくんがトレンド入りもしたからか、面接を飛ばして百音は合格。バイトとはいえ、晴れて就職が決まった。

慌ただしく朝帰りした百音はコインランドリーで菅波(坂口健太郎)にメールをしながらうたた寝してしまう。そりゃあ上京した日に朝まで働かされたのだから疲労困憊であろう。と、そこで、よく言えば奇跡、悪く言えばご都合主義な出来事が――。


登米と東京を行き来している医者の菅波役の坂口健太郎は2016年当時、ドラマの中でトレンド入りしていた『とと姉ちゃん』の主人公の初恋の相手・星野を演じていた。4月の段階ではまだ星野は出ていないが、このままだとドッペルゲンガーがいることになる。

【参考記事】エキレビ!『とと姉ちゃん』全レビュー

百音の声のトーンが癒やし

「でも私がこの仕事で守りたいのはこの幼なじみみたいな自分の大切な人たちなんです」と強い意思を見せた百音。こういうときも声を張って言わないのが百音。このセリフをはきはき言ってしまうとちょっとぐいぐい押してこられる感じでうるさく聞こえてしまいかねない。

近年の朝ドラではヒロインが強い意思をはきはき言うとうるさく思われがち。『半分、青い。
の鈴愛や『エール』の音、『おちょやん』の千代などがその塩梅に苦労していたように感じる。その点、百音はささやくように言うので耳に優しい。柔らかに強い意思を感じさせる、なかなか高度な技術である。

たくさんの人に強い意思を伝えるには大きな声ではっきりと話すことが一般的には有効であろう。そうではない百音の言葉の発し方はあくまでも身近な人たちに向けて発されているように感じる。だからこそ無理に大声を出さず、ささやくようにでも意思は強く持って誠実に冷静に語りかける。百音の発声からも彼女が何を求めているかが感じられる。

『おかえりモネ』はふんわり見えてあらゆる面で意識的に作られている。たとえご都合主義であっても、百音がひたすら善なる道に向かっているから悪い気はしない。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami