『白頭山大噴火』韓国映画界の二大スター、イ・ビョンホン&ハ・ジョンウが銀幕で感情をぶつけ合う贅沢さ
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豪華俳優陣競演『白頭山大噴火』が贅沢すぎる

大迫力のディザスター描写と、男と男の感情のぶつかり合い! 詰めに詰め込んだエンタメ要素の量に満腹必至の快作『白頭山大噴火』は、現代の韓国映画が持つパワーの凄まじさを味わえる一本である。

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挑戦を代表する名峰、大噴火! 北朝鮮での極秘ミッションに挑め!

白頭山(ハングルでは「ペクトゥサン」と読む)は、中国と北朝鮮の国境に位置する標高2744mの火山である。15世紀から朝鮮王朝に領有され朝鮮半島では古くから崇拝を受けてきた。


あちらでは日本で言う富士山のような存在らしく、また北朝鮮の初代主席である金日成が率いた抗日ゲリラの根拠地でもあったと言われている。朝鮮半島の歴史に関して、深い関わりのある名峰なのだ。

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そんな白頭山が、突如として大噴火を起こす。噴火に伴って発生した大地震によって韓国の首都ソウルの市街地は壊滅。ビルは崩れ陸橋は倒壊し、朝鮮半島全域が大混乱に陥る。

韓国軍爆発物処理班に所属し除隊間近のチョ・インチャン大尉もこの大災害に巻き込まれ、間一髪で危機を脱する。

一方、白頭山の地質学の権威であるカン・ボンネ教授は、今回の噴火と地震は始まりに過ぎないと推測する。白頭山の地下にはまだ3つのマグマ溜まりがあり、特に最後のマグマ溜まりはこれまでで最大のものだという。

噴火を抑えるためには白頭山の地下に核爆弾を埋め込み、地盤を崩壊させてマグマを逃がす必要がある。折しも白頭山を領有する北朝鮮は非核化に合意し、多くの核弾頭が引き渡しのために地上に引き上げられていた。

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カン教授と韓国国家情報院は、特殊部隊を北朝鮮領内に潜入させ、現地のスパイと協力しつつ核弾頭に搭載された核物質を奪取、それを使った小型核爆弾を白頭山の地下坑道で起爆させるという大胆な作戦を立てる。爆発物の専門家として特殊部隊に同行するのは、チョ大尉率いるチーム。


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しかし火山灰のために輸送機が墜落し、特殊部隊は全滅! おまけに作戦に協力するはずのスパイである北朝鮮武力省のリ・ジュンピョン少佐はなにやら隠された目的を抱えており、韓国軍の潜入チームに素直に協力しない。

大災害の最中、敵地で孤軍奮闘することになってしまったチョ大尉たちは、果たして白頭山までたどり着くことができるのか。



『白頭山大噴火』韓国映画界の二大スター、イ・ビョンホン&ハ・ジョンウが銀幕で感情をぶつけ合う贅沢さ
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とにかく出演者が豪華すぎる1本である。イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソクと、主役級の俳優が3人も集合し、火山の噴火でえらいことになってしまった朝鮮半島を走り回る。

「主演の一人がマ・ドンソクってことは、彼が爆発した白頭山まで行って腕力でなんとかするのかな……」とボンヤリ考えていたが、実際には「マ・ドンソクが地質学者で、ハ・ジョンウが爆発物処理班」という意外性のあるキャスティングだったのも楽しい。

近年の韓国映画の足腰の強さというか、スケールの大きなストーリーと予算とを使いこなすパワーを感じさせる一本でもある。なんせ白頭山が噴火するだけではなく「非核化に同意した北朝鮮と、核武装解除に向かう米軍」「中国国境での大噴火に、ビジネスチャンスを見つけたチャイニーズマフィア」「南北朝鮮の生活・文化の違い」といった要素が惜しげもなく詰め込まれており、映画全体の情報量は相当なもの。全く整理せずにそのまま作れば、だいたい3時間半くらいの映画になるんじゃないかな……という詰め込みぶりである。

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しかし本作ではその内容を約2時間強に押し込んでいる。冒頭での大噴火に始まり、噴火と地震の原因、解決策、各キャラクターの性格、勝利条件とタイムリミットなどが異常に段取りよく説明されるため、見ていてわからない部分がない。

それでいて「説明のための説明」のようなシーンがほぼないので、危機とトラブルを連続で見ているうちに筋立てが飲み込めており、後は登場人物たちの活躍にハラハラしていればいいという仕組み。噴火によって壊滅する都市などディザスター映画らしいシーンにもしっかり尺が割かれるため、「ショボいな~」と感じる部分もない。


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盛りだくさんの内容ながら、とにかくプレゼンがうまいので見ていて感じるストレスはほとんどなく、ピンチもチャンスもわかりやすい。ディザスター映画でもありながらスパイものでもあり、戦争映画のようでもありロードムービーのようでもあるという各要素を、予算をかけるポイントをしっかり選びながら綺麗に映像化しているという印象。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』など、近年の韓国はディザスター映画の名作も多数生み出しているが、『白頭山大噴火』も「は~! 映画がうまいな~!!」と唸ってしまうような出来栄えだ。

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ディザスター要素だけじゃない! バディものの旨味も詰まった一作

さらに言えば、本作はバディものでもある。ハ・ジョンウ演じるチョ大尉と、イ・ビョンホン演じるリ・ジュンピョンが、孤立無援な上にいつ地震で崩壊してもおかしくない北朝鮮で、命がけの任務に挑む作品なのだ。

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チョ大尉は韓国軍の爆発物処理班の隊長なのだが、本人は完全に平和ボケしきっている。彼は「あと1日で除隊」という立場で白頭山の大噴火に遭遇し、臨月の妻を置いて北朝鮮に潜入することに。

「戦闘は同行する特殊部隊がやるだろうし、俺たちは核爆弾の面倒だけ見ればいいんでしょ」とタカをくくっていたところ頼りの特殊部隊が全滅、仕方なく部隊の指揮をとることになってしまったという不運な軍人だ。



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対するリ・ジョンピュンは、北朝鮮の超エリート軍人である。北京駐在の北朝鮮書記官としても活動しており、中国語もペラペラ。北朝鮮武力省の高級将校でありながら韓国の工作員としてスパイ行為を行い、それがとあるタレ込みによって発覚したことで強制収容所に放り込まれたという悲運の男である。

南北の対立に巻き込まれたことで人生を棒に振った彼は、今回のミッションにも懐疑的であり、「白頭山周辺の地理を完全に把握している」という点を保険にしてチョ大尉ら韓国の潜入チームを翻弄する。

かたや韓国の暮らしに慣れ平和ボケしきった爆弾処理班員、かたや強制収容所で地獄を見せられやさぐれきったスパイというこの2人。
チョ大尉は北朝鮮の工作員の心理がわからず、リ・ジョンピュンは南の軍人たちを舐め切っている。

しかし2人は共に朝鮮半島に生きる男。半島全域の危機を前にして嫌々北朝鮮の荒れ果てた国土を走り回るうちに、徐々に互いの目的や立場を理解するようになっていく。

『白頭山大噴火』韓国映画界の二大スター、イ・ビョンホン&ハ・ジョンウが銀幕で感情をぶつけ合う贅沢さ
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豊かな韓国と独裁政権に牛耳られた北朝鮮。生まれも育ちも全く違う2人の軍人が困難なミッションに挑むというのは、バディものの黄金パターンである。互いにボロクソに悪口を言い合い、揚げ足を取ってはバカにしまくりつつ、ちょっとずつ理解が進んでいく。

しかも演じているのは、韓国映画を代表する二代スターであるハ・ジョンウとイ・ビョンホン……。なんというか、美味しすぎる映画じゃないですかこれ。正統派のディザスター映画でありながら、男2人が互いの感情をぶつけ合うバディものでもある……なんと贅沢な作品だろうか。

というわけで『白頭山大噴火』は、男と男の描き方に対する真摯さを味わいつつ、ド迫力のディザスター描写もしっかり見せてくれる非常にリッチな映画である。ギチギチに要素を詰め込むサービス精神のおかげで、観ればきっと満腹になれるはず。この盛り込み具合は、ぜひ劇場で確かめてほしい。

(しげる)

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作品情報

『白頭山大噴火』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

『白頭山大噴火』韓国映画界の二大スター、イ・ビョンホン&ハ・ジョンウが銀幕で感情をぶつけ合う贅沢さ

出演:イ・ビョンホン ハ・ジョンウ マ・ドンソク チョン・ヘジン ペ・スジ
監督:イ・ヘジュン キム・ビョンソ
提供:ツイン・Hulu
配給:ツイン 
公式サイト:https://paektusan-movie.com/

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Story



かつてない、破壊が迫りくる!


北朝鮮と中国の国境にそびえる火山・白頭山で観測史上最大の噴火が発生! マグニチュード7.8の地震は遠く離れたソウルをも直撃し、ビルは倒壊し、漢江は荒れ陸橋は崩壊。未曾有の事態に朝鮮半島は大パニックに陥る。

史上最悪の災害を止めるため、政府は白頭山の地質分野の権威である大学教授カン(マ・ドンソク)に協力を要請。カンは半島を崩壊させるほどのさらなる大噴火が起こることを予測する。タイムリミットは75時間――韓国軍爆発物処理班の大尉チョ・インチャン(ハ・ジョンウ)は部隊を率いて、北朝鮮へ潜入し火山の鎮静化を図る秘密作戦を実行に移す。


そのためにはまず作戦成功のカギを握る北朝鮮・人民武力部の工作員リ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)を見つけ出し、次の大規模噴火を何としても食い止めなければならない。果たして彼らは、朝鮮半島の崩壊を阻止することが出来るのか!?


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

関連サイト
@gerusea
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