『おかえりモネ』第19週「島へ」
第91回〈9月20日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

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台風12号の余波で亀島に突風が起こったことを知って百音(清原果耶)が心配して電話すると、永浦家も被害にあって片付けに追われていた。
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心配ごともあるが、菅波(坂口健太郎)が登米から東京にやって来て、嬉しいことを言う。百音の誕生日の前日で……。
菅波「こういうのはタイミングだから」
百音「え、ここで?」
相変わらず、スマートに決めることはできないふたりであるが、それも良し。悪いこともあればいいこともある。世界の仕組みを物語るようなお話。BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の<今この景色の全てが笑ってくれるわけじゃないけど それでもいい これは僕の旅>と重なるようだった。
牡蠣棚に被害が……
台風12号自体は東北を直撃しなかったが、だからこそ予期しない被害はショックであろう。「どうしてまた、自然相手には私たちの思いは届かないのかしら」という雅代(竹下景子)のナレーションが重く響く。こんな時、少しの予兆に気づくことができれば……。地元密着の気象予報士がいたら気付けることもあるのではないかと考える百音。ほらほら、島が百音を呼んでいる。
それにしても実家。突風で窓ガラスが割れ、窓枠も外れて、いろいろなものが散らかっている。それでも耕治(内野聖陽)も亜哉子(鈴木京香)も未知(蒔田彩珠)も決して騒ぎ立てることなく淡々と、いやむしろ明るく対応している。とりわけ耕治は「おいおいおい……」と豪快である。
電話で被害状況が見えない百音には心配かけないように亜哉子は明るい声を出すけれど、実は牡蠣棚に被害が出ていた。龍己(藤竜也)はあくまでも冷静沈着。海に様子を見に行って、家族にも何も言わない。「牡蠣棚、あの程度ならたいしたことねえ」と組合の人への電話にそう答えるのみ。だが、明日美(恒松祐里)が実家の親から牡蠣棚の被害がすごいらしいことを聞いて……。
被害に対して騒ぎ立てない人たちの我慢強さは観ていて救いになると同時に胸が痛くもなる。がっかりして騒いでもどうにもならない。ネガティブな言動をとったらその事実に飲み込まれてしまう。諦念もあるだろうし、ダメージを受けていると思いたくない意地もあるだろう。一見、静かに見える画面の中で、いろんな想いがそれこそ台風のように皆の中に渦巻いている。

菅波、ついにプロポーズ
百音の誕生日に菅波が登米よりやって来るということはプロポーズされるのでは?と恋愛ごとに敏(さと)い莉子(今田美桜)にそう予想を語られていた百音。誕生日の前日、早々にやって来た菅波にちょっとどきどき? それにしても菅波、デートの時といい、いつも早めに行動しがち。だが「こういうのはタイミングだから」と言う菅波に、「え、ここで?」と思わず言葉にしてしまう百音。
「僕はあなたが抱えてきた痛みを想像することで、自分が見えてる世界が2倍になった」とまずいい話をし、でもそれはあくまで理屈であり、想いが募って俄然早口になり、飾った言葉はなくなり、素直な欲望だけ発して、「この…感情がすべてだ」「一緒にいたい」「結婚したいと思ってる」と言い切った。
最後は感情。考え過ぎでもダメ、感情だけでもダメ。考えて考えて考え抜いた末、感情で壁をぶち破る。これこそ人類最強の突破力であろう。
「え ここで?」も面白かったが、菅波がプロポーズしかけたときにコインランドリーの洗濯が終わるところ。いつも洗濯が終わるまでの時間に用を済ませる合理的な菅波が話を終わらせないように、百音は「まだ大丈夫です」と慌てて言う。このコインランドリーで再会し、ここでたくさんのことを語り合って来たことを思わせるセリフである。
百音は自分の感情をここで自覚した。天気のようにぐるぐると回る世界の縮図のようなこの場所でプロポーズされることは運命にちがいない。
コインランドリープロポーズには19年放送の月9『監察医 朝顔』(フジテレビ系 / 脚本:根本ノンジ)でいつもの庶民的なもんじゃ焼き屋でプロポーズされて戸惑っていたヒロインのことを思い出した。
安達奈緒子は今でこそNHKやTBSドラマも多く書いているが、フジテレビのヤングシナリオ大賞からデビューしたフジテレビ育ちの脚本家で、人気枠・月9も何作も書いている。恋愛ものの『大切なことはすべて君が教えてくれた』『リッチマン、プアウーマン』『失恋ショコラティエ』から命と向き合う医療もの『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』まで幅広く担当し、視聴者のツボのくすぐり方は月9で掴んだといっても過言ではないだろう。
だから『モネ』でもいわゆる月9ふうなポップな若者の青春エピソードを思わせるところが時々ある。とりわけ東京編の莉子や明日美のディテール描写や鮫島のエピソードの盛り上げ方などは民放の連ドラのリズムが感じられる。
今回のプロポーズにまつわるくすぐりもそのひとつである。ただ、このへんのツボばかり勘所がよくても、朝ドラの15分×1週間のリズムと相性が合わないもので、過去、多くの脚本家が苦労してきたと感じるが、安達はNHKの『透明なゆりかご』や『サギデカ』で社会的なテーマを伝えることも経験しているため、目配りがある。
ちょうどしんどいことは観たくない視聴者が増えている状況下、生活に悩みがあっても愛する人が傍にいて共に乗り越えていくという理想的な世界を描くことに成功している。命について哲学のように考えて考えて考え抜いて、最後は感情(人間の本能――それは愛)に従う。菅波のキャラクターは『モネ』の構造そのものである。
菅波が感情で語っている時の百音の表情がとてもいい。晴れやかな喜びと目の前の人への愛情。菅波は「世界が2つになった」と言うように、頭でっかちな菅波が感情に素直に従うことを覚え、良くも悪くも衝動で動いてきた百音が菅波に出会って衝動を言語化し整理することを覚えた。ふたりは欠けている部分をみごとに埋め合っている。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami