『おかえりモネ』第19週「島へ」

第95回〈9月24日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第95回 百音と菅波の「一緒にふたりの未来を考える」尊い関係
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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宮田(石井正則)のホルン演奏(ロンドンデリーの歌)を聞いた百音(清原果耶)菅波(坂口健太郎)に地元に帰ると決意を告げる。菅波は東京に戻るため結婚は保留となってしまった。残念だけれど希望もある東京編の完結。
『あさイチ』では菅波役の坂口健太郎がプレミアムトークで出演し、「#俺たちの菅波」について掘り下げた。俳優本人よりも菅波というキャラクターを中心に紹介する画期的な企画であった。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第95回掲載中)

「なんだか胸が熱くなる」

プロとしてホルン奏者ではいられなかったけれど、生きている限り、好きなホルンを吹くことはできる。プロとか有名とか経済的に豊かとかそういうことではなく、好きなことをやり続けることが大事であることを宮田の姿から感じることができた。

百音の地元の人たちも「(前略)本当は強くなんかいられないし、力もそんなにあるわけじゃない。なのに明るいし元気だし、なによりすごく楽しそうだし(中略)」と百音はその姿に心打たれた。おそらく百音もあの日、地元で共に被災をしていたらそこに参加したのだろうけれど、たまたま本土にいたため、客観的に様子を見ることになった。

そのため引いた視点で物事を見過ぎて、頭で考え過ぎて未曾有の災害に対して自分のやれることがわからなくなった。自分がいかにちっぽけで無力か思い知らされてしまったのである。百音が続けてきた吹奏楽もこんなときなんの力にもならないと思いこんでしまった。でも菅波が言っていた「感情がすべてだ」ではないが、やりたいことをやればいい。何が正解かなんて決まりはない。

百音も「ここにいたい、みんなと一緒にいたいという思いに素直に従おうと思い切ることがようやくできた。
考えて考えて考え抜いたのと自分なりにできることを発見して役に立てる武器を持てたからでもあるだろう。会社を辞めずに仕事として行くという“しぶとさ”を見せる百音。「予報業務ができなくなるし、会社の観測データにアクセスできなくなるのはきつくて」と再度、地域密着気象予報士企画のプレゼンに挑む。そこは永浦家の血を引いている。

声はか細く控えめながら、「これがスタンダードになるかもしれません」「新しいシステムのトップランナーになります」とキャッチーな言葉を挟みこむことは忘れない。最後は自分の体験を語り、社長(井上順)は「ビジネスとしては甘いね。でも困った。なんだか胸が熱くなる」とその心を震わせた。百音の本気が社長の心を動かしたのである。この時、映像を映すために暗くなっていた部屋のカーテンが開き、真っ白い光が百音の背後から差し込み、後光のように見えた。

「ただし2年で結果を出してください」という条件付きで百音は地元に支社扱いで行くことができた。社長も朝岡(西島秀俊)もそこはきっちりしていて、期間を提示するから誠実だと思う。
世の中には安請け合いしてふいに企画停止とか簡単に言う人がいるものなあ。

『おかえりモネ』第95回 百音と菅波の「一緒にふたりの未来を考える」尊い関係
写真提供/NHK

「一緒にふたりの未来を考えるってことじゃないですか」

朝岡「顔の見える傷ついた人のそばを離れることもできない厳しい面もある」
百音「もしそうだったとしても、今度は離れたくないです」

朝岡は百音があの日、傷ついた人たちの顔を見て怯んだことに気づいていた。傷ついた人たちを見て、自分には今何もできないと思ったらいたたまれなかったということだろう。他人の弱さに触れて、手に負えないと思ってしまうことはある。誰もが勇気とやさしさをもって傷ついた人や弱っている人のために率先して働くことができるかと言ったらそうとは限らない。自分には何もできないとすくんでしまう人もいるだろう。



『おかえりモネ』第95回 百音と菅波の「一緒にふたりの未来を考える」尊い関係
写真提供/NHK

物語はたいていこういうときに立ち向かって物事を前向きに改善していくことのできる理想を体現する人物を中心に描くことが多いけれど、『モネ』はそういうふうにできない人にまなざしを注いでいる。だからホッとする。これまで視点を向けることのなかった点に目を向ける。例えばこれ。

百音「一緒にいることってどういうことでしょう」
菅波「一緒にふたりの未来を考えるってことじゃないですか」

百音が地元に戻り、菅波が東京に戻るすれ違いによって、せっかく持ち上がった結婚話が保留になってしまった。「結婚=一緒にいる」ということと思いがちだが、菅波は物理的に一緒にいることではないことに目を向けている。このとき百音が彼の言葉を噛み締め、「ん?」と訊かれて首を静かに横に振っていることが印象的である。
菅波の考えがまったく好ましいと共感しているのではないだろうか。離れていても志をひとつにしていられる関係はなんて尊いことか。

ところで宮田。演奏してその後、百音や菅波から彼のこれまでをねぎらわれることもなく、椅子だけ残して帰ってしまっていた。その余白はまるで童話に出てくる妖精か何かみたいだった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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