『おかえりモネ』第21週「胸に秘めた思い」

第105回〈10月8日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:田中諭、舩田遼介〉

『おかえりモネ』第105回 新鋭・伊東蒼の柔軟性が永浦家にもたらしたもの
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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「子どもは堂々と大人の力を借りていいと思う。私もいろんな人の力借りてきたから。私にできることならしたい」(第104回)
「もし助けてもらってばっかりだったとしてもそれはそれでいいっていう世の中のほうがいいんじゃないかな」(第105回)

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第105回掲載中)

104、105回で百音(清原果耶)が言ったセリフが印象的だった。
誰かの力を借りていいということ。従来、自力で頑張ることが良しとされていたと感じるが、今はそんな時代ではない。誰もが健康で文化的な最低限度の生活を保障されているのだからそれを獲得するために誰かの力を借りていいし、余裕のある人は力を貸すべきなのだ。

そういうふうな声が各所から挙がりはじめている理由のひとつはやっぱり人間の力ではどうにもならない自然災害が増えてきたことがあるだろう。こんな時は助け合うしかない。それは誰かの話を聞くだけでもいいのだと思う。
誰かが抱えている痛みを聞くだけでその人が少し楽になることもある。

亜哉子(鈴木京香)は震災以降抱えていた痛みを家族に打ち明ける。

「〜〜百音や未知のことを考えて、生徒たちを置いて学校を離れようとしました」
「すぐに我に返って、何してんだって慌てて生徒たちのところに戻りました」

家族を選んで持ち場を離れたわけではなく、悩んだ結果、教師として生徒を導く仕事を選んだ責任感ある亜哉子。それでもわずか“10分間”でも生徒と家族を天秤にかけたことを悩んでいた。

家族のことを気にかけるのは当然であり、まったく気にしてなかったらそれはそれで問題である。身を切るほどに家族のことを心配しながら生徒たちを守ることを選んだ亜哉子の責任感の強さ。
でも任務への誠実さゆえ自分を苦しめてしまう。人の心って難しいと感じる。

ずっとそれを抱えて8年、その秘密が、家族の誤解を作ってしまう。龍己(藤竜也)が亜哉子が教師を辞めたのは雅代(竹下景子)の介護のためだったと思い込み、亜哉子を解放しようと水産業をやめようとする。みんな互いを思いやっているにもかかわらず、言葉にしないことでできてしまう断層のずれ。亜哉子は自分の葛藤を語ることで水産業を続けることを龍己にナットクさせる。


『おかえりモネ』第105回 新鋭・伊東蒼の柔軟性が永浦家にもたらしたもの
写真提供/NHK

いつもニコニコ不動の屈託のなさが逆に不自然に見える亜哉子はもしかしたら最も衝動的な人物なのかもしれない。というのは、かつてあんなに耕治(内野聖陽)のことが好きで情熱的にぐいぐいと迫っていったように描かれていたが、第105回では「お父さんとの結婚を考えたのはおばあちゃんに会ったからなのよ」と言ってみんなを驚かせる。

恋愛と結婚を別に考えるのは当たり前といえば当たり前であるが、朝ドラではそういう考え方を明確に描いたものは多くない。『モネ』のような現代ドラマが少ないからかもしれないが。亜哉子は雅代の島での暮らしぶりを見て、自身の理想の未来設計――自然の中で他者とコミュニケーションしていくーーを思い描いたようだ。

かなりさらっと描かれてしまっているが、雅代の受け売りとはいえ、娘たちに「好きなことしなさいね」と言う亜哉子の生き方は自由である。
明るく華のある耕治と恋愛し、教職を選び、島の生活を選び、民宿をやりたいと考える。義母の介護を負担にしない。いつだって自分を主体にして選択しているのである。

もっともその割に亜哉子は無理して笑っているみたいに見えるのだが、主体的選択をして生きる自由とは容易ではないことの表れなのかもしれない。亜哉子は自分の選択を幸福に定着させるべく努めている。



『おかえりモネ』第105回 新鋭・伊東蒼の柔軟性が永浦家にもたらしたもの
写真提供/NHK

亜哉子の努力の賜物である笑顔の前ではあかり(伊東蒼)も笑顔になる。
あかりは百音の前では口角が下がり気味で、なげやりに見える。それは百音の表情――とくに十代のふさいでいる頃に似ている。思春期特有の世の中に疑問を感じ、自分に対しても他者に対しても肯定できないがゆえの曖昧な表情。

若い俳優のまだ固まってない揺れをすくいとって、手の中でゼリーのようにふるふると震え、壊れてしまいそうで扱いの難しい生々しさ。感性が素直な世代特有のものであり、台本に書かれたセリフや演出家が現場で話すことや表情、あるいは相手役や現場そのものから感じ取るものをそのまま映し出したものとも言える。

だから慣れない百音の前では警戒心をまとい、慕っている亜哉子が晴れやかな笑顔をしている前では肩の力を抜いて笑っている。
逆にあかりの前の亜哉子は家族の前でこの8年間見せてない自然な笑顔になっているようにすら見える。新鋭・伊東蒼の柔軟性が永浦家の膠着状態を溶かした。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami