『おかえりモネ』第22週「嵐の気仙沼」

第106回〈10月11日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第106回 気仙沼の漁師演じたサンドウィッチマンと菅原大吉の本物かのような自然さ
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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百音(清原果耶)未知(蒔田彩珠)の恋もよう。百音のほうは菅波(坂口健太郎)に「年明けにはそっち(亀島)行く」と重大決意を告げられる。百音の性格上、感情を大きく出さないものの内心、かなり嬉しく思っていることは伝わって来た。


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一方、未知は亮(永瀬廉)に何も言えないままで相変わらず沈み顔。亮のほうは船を買うため一発クロマグロ漁に挑もうと考える。

これまで土曜日の総集編に登場していたサンドウィッチマンの伊達みきおと富澤たけしが漁師役で登場。気仙沼出身ならではの地元言葉でご土地の雰囲気を見事に作りあげていた。

「助けてくださいって言ってもらえるのって、すごく幸せなことなんですね」

「亮くんとのことがはっきりしないと私、何も決められない」と未知が思い詰めているところに、新次(浅野忠信)と亮がやって来た。雅代(竹下景子)の七回忌の法要に出席できなかったからとお土産にいちごを携えて。いちごの華やいだ赤は新次がだいぶ明るさを取り戻したように感じさせる。


イチゴ農家を手伝っている新次は笑顔。でも亮との関係は疎遠で、別々に暮らしている。雅代に線香をあげることを理由にして久しぶりに会ったのだった。亮が船を買おうとしていることは誇らしく思っているけれど、新次自身は未だ海に戻る気はない。そっちの話になりそうになると途端に顔が曇り、取り付く島もない。

新次は第15週、震災から5年が経ち、美波(坂井真紀)の死亡届を出したいという義母(美波の母)の申し出を拒否して美波の死を認めたくないと苦しんで以来の登場である。
あれから3年。震災から8年。どうやら新次は吹っ切れていないようだ。

3年前、亮は父の態度に疲れ果て、漁師を辞めようとしたり百音にすがったりした(第15週)。その後も新次と亮は気まずい関係を続けていることが第22週でようやくわかった。けっきょく、死亡届は出したのか出してないのかはわからない。


朝ドラはすぐにいろんなことが解決しがちなのだが、こんなにも明かされないことがあるのは珍しい。現実だと他者のプライベートについて、当人たちが開示しない限り、詳しく知ったり関わったりする機会はないものだから、不自然ということはない。人間関係が密な亀島とはいえ、及川家に関しては触れにくいところがあるのだろう。

「助けてくださいって言ってもらえるのって、すごく幸せなことなんですね」と百音が菅波に(百音の両親に挨拶に行くに当たって)「助けてください」と言われたことに反応してしみじみつぶやく言葉は実感がこもっている。及川父子の場合、ふたりそろって誰にも「助けて」が言えないでいる。

『おかえりモネ』第106回 気仙沼の漁師演じたサンドウィッチマンと菅原大吉の本物かのような自然さ
写真提供/NHK

未知は亮に「助けて」と言ってほしいのに亮は言わない。
黙って父の好きそうな船を買おうとしている健気さ。そう思うと百音は、我慢強い亮が珍しく助けを求めたにもかかわらずその手を握り返すことをしないとは今更ながらなかなか酷である。「お姉ちゃんは正しいけど冷たいよ」と未知が責めたのももっとも。

百音にとって「助けてくださいって言ってもらえるのって、すごく幸せなことなんですね」は自分が言ってほしい人に言ってもらうことの幸せである。亮に助けを求められたことをすっかり忘れて今の自分の幸福を噛みしめる百音を見ていて思うのは、『モネ』ではつくづく人生と恋愛がニコイチのようになっているなあということだ。震災経験の苦悩や仕事と恋愛感情が同時進行かつ混ぜて描かれている。


未知は「亮くんとのことがはっきりしないと私、何も決められない」と人生の選択基準が亮なのである。震災に関しても『モネ』では大事な人を失った新次の哀しみにフォーカスされている。それが引っかかる視聴者もいるだろう。でも人はひとりでは生きられない。人類の哀しみも喜びも愛する人にまつわるものなのだ。じつに人間臭いドラマである。




百音は亮に「きれいごとにしか思えない」ときつく言ったことを謝られると「いいのわかってる。言ってくれてよかったよ」と返す。そのときの未知の表情。それに気づいて百音がまた気を使う。百音としては未知と亮に結ばれてほしいのに、ここで「いいのわかってる」なんて言ったら未知を刺激してしまうことになぜ配慮できないのか。心の中に手を入れてかき回されているようなものくるおしさだった。

『おかえりモネ』第106回 気仙沼の漁師演じたサンドウィッチマンと菅原大吉の本物かのような自然さ
写真提供/NHK

サンドウィッチマンと菅原大吉の自然さ

船を早く買いたい亮。でも水揚げが思わしくない。クロマグロ漁をやりたいと提案すると、漁師の先輩(サンドウィッチマン)はなんだかんだ言いながら協力してくれそう。

どかっと無遠慮に漁港組合の椅子に座っているサンドウィッチマンのふたりは、初めての登場にもかかわらず、漁師AとBと名前もないにもかかわらず、もうずっとそこにいる主のように見える。滋郎役の菅原大吉と3人、俄然、地元感が漂う。言い馴染んだ言葉に下支えされると自信が沸くのだろうか、長年、組合の椅子に座ってだらだらしゃべり漁に出て、喜びも哀しみ苦しみもその場所に染み込んでいるような雰囲気が出ていた。ほかのどんな俳優の名演技もたちまち無効にしてしまう、ホンモノの力はおそろしい。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami