『おかえりモネ』第22週「嵐の気仙沼」

第107回〈10月12日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第107回 イブの夜でも“定時”の男・亮、“俺たちの菅波”からの電話に出ない百音
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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未知(蒔田彩珠)と比べれば菅波(坂口健太郎)がいる百音(清原果耶)は幸せ。愛があるから♡ ……と思いきや、百音も幸せを噛み締めてばかりもいられない。気仙沼で気象情報サービス事業がいっこうに進展しないでいた。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第107回掲載中)

漁港組合の滋郎さん(菅原大吉)に営業に行くが「悪くなる予想ばかりされても困るのよ」と漁労長(平野貴大)に言われ、滋郎さんは長い経験と勘に自信があるから受け付けない。

ここで気になるのは、百音が営業する時もいつものささやき声で営業スマイルもしないこと。誰もがいつでもどこでも百音のように無理せずありのままのスタイルでいられたらいいとは思う。けれどさすがに百音はちょっとマイペース過ぎるだろう。

登米ではラフターヨガでは無理して明るく笑っていたし、『あさキラッ』の中継で無理なく感じ良い笑顔と発声ができているのだからできないわけじゃないはずで。やればできる姿を描いてしまっているため、百音のことは大好きなのだけれど、彼女の人との接し方がどうにも不自然に思えてならない。
ここでは「うまくいかない」ことを描かないといけないので沈んだ空気を出すことが必要なのだろうと理解しておく。

どうにも地元に馴染めない百音に対して、三生(前田航基)はコミュニティFMで人気を得ていた。クリスマスが近いのに「仏様のような心持ちで過ごしましょう」と言ってしまう自分の仕事に誠実なところも愛される所以だろう。

でも三生はその人気を地元の寺の副住職だからと認識している。悠人は市役所、三生は寺、亮は漁師、未知は水産試験場と地元に直接的に役に立ち、しかも長く地元に根付いた仕事であることが重要なのだと三生は感じている。対して百音の仕事は新規のもので、場合によったら滋郎さんたちが自分たちでやってきたプロの感覚を否定しかねないのである。
でも百音は「三生は三生だからだよ」と言う。

『おかえりモネ』第107回 イブの夜でも“定時”の男・亮、“俺たちの菅波”からの電話に出ない百音
写真提供/NHK

悩んだ百音は、唐突に登米のサヤカ(夏木マリ)に電話して相談し、サヤカらしいバイタリティあふれる言葉で発破をかけられる。サヤカは地主のお嬢さま(姫)ではあるが、そこで新しい事業――森林組合やカフェ付きの診療所を作ることを地元の人たちに認めてもらって信頼を獲得するのに何年もかかったという。

何年かかったんだろう。でもサヤカは伊達の家臣の末裔で地主だからなあ。百音だって水産業の名士・龍己(藤竜也)の孫なのに。
しかも耕治(内野聖陽)は気仙沼の銀行の融資担当だし、三生の言い分から考えたらもうちょっと地元の人に信頼されてもおかしくないはずなのだが……。

そもそも百音は本土より亀島から攻めると作戦変更したはずがそちらのほうは進行しないで、本土の人とやりとりして受け入れてもらえず落ち込むのはなぜなのか。農家の相談を受けるもたいしたアドバイスができず、テンションは下がりっぱなし。朝ドラ名物、後半戦は展開が苦しくなってくるというパターンであろうか。『モネ』自体は意義深いドラマと感じているので、今週入れて3週間、踏ん張ってほしい。



時は2019年クリスマス・イブ。
喫茶レストラン「シベリア」で未知は亮と待ち合わせ。未知はピンク系のカクテル、亮はビール。軽く何か食べたあと、マグロ漁の話。親父みたいに豪快な柄じゃないからなあと言う亮に「ちゃんと海の男に見えるよ」と言う未知。

そのときの亮のちょっと嬉しそうな顔。確実に亮は未知の存在に救われている。
それでもイブの夜に早めに家に送るだけ。未知も未知でクリスマスプレゼントも渡さない。このなんとも質素で堅実な若者たちの描写は山田太一か倉本聰かという感じである。

『おかえりモネ』第107回 イブの夜でも“定時”の男・亮、“俺たちの菅波”からの電話に出ない百音
写真提供/NHK

未知は「遅くなんないよ。定時だよ」と百音に不満を漏らす。「定時だよ」このセリフ最高。
亮がそれなりに好意をもってくれているのはわかるが「最後、踏み込めない」と悩む未知。船を買って一人前になったら正式に交際もしくはプロポーズかと期待もするであろう。でもそんな言葉は亮からは出てこない。

「それでもみーちゃんは離れなかったでしょ」と百音。なにもできなくても離れずにただずっとそばにいることはすごいことだと百音は未知を励ます。自分は地元を離れてしまったブランクを強く感じているからこそそう言えるのだろう。

百音が「三生は三生だからだよ」と言ったのは、単に人柄だけではない。もちろん職業でもない。地元にずっといた人(一瞬逃げて仙台にいたけど県内だから)だという意味なのかもしれない。

悩んだ百音は菅波の電話に出ない。ほんと、百音ってばマイペース。家に帰って東京行きも脳裏をよぎり、亮に電話する未知。でも電話に出たのか出ないのか何か話したのか話さないのかわからないまま別の日の百音の様子に場面は切り替わってしまう。思わせぶりに結果をすぐに描かないことのじつに多いドラマである。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami