『おかえりモネ』第22週「嵐の気仙沼」
第110回〈10月15日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

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長きに渡った未知(蒔田彩珠)と亮(永瀬廉)の問題が解決した。「お前に何がわかる? そう思ってきたよ。ずっと。
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「大丈夫なんて言わないで」
船は無事だった。亮が帰って来た。「本当にすいませんでした」と漁港組合長の滋郎(菅原大吉)に深く頭を下げる身振りと口ぶりが父・新次(浅野忠信)にそっくり。組合の事務所の外には未知が待っていた。すこし嬉しそうな顔をする亮。ふたりは心配して尽力してくれた百音(清原果耶)の元にやって来る。
一度は気を利かせてふたりで話をするように席を外すが、変わらず心をさらけ出さず、「大丈夫だから」と未知にやんわり距離をとろうとする(未知いわく「どうでもいい気遣いみたいな言葉」)亮に百音は「りょーちん、笑わなくていいよ。大丈夫って言いながら本当はなんて思っていたの?」と問いかける。そこで亮はとうとう笑顔で隠し続けて来た心をぶちまけた。
「お前に何がわかる? そう思ってきたよ。ずっと。俺以外の全員に」
汐見湯のコインランドリーで一度、亮の弱った部分を見せられていた百音だからこそ言えたことであろう。
亮の本音
「お前」という言葉の響きは鈍器のような凶暴さがある。対して「大丈夫だから」と言う時はやさしげなふんわりした音がする。百音もいつもささやくような話し方をする。とりわけこの回、百音は言いあぐね無理に絞るような話し方をしている。こういう胸の上のほうで呼吸するような話し方は聞く方にもストレスを与えるものだが、話しているほうもストレスになっている。なにかあったときに深呼吸するといいのは身体の安定が心を安定させるから。おそらく清原果耶はあえて息を浅くして話している。それによって百音の息苦しさ、生きづらさを表しているのだろう。彼女の話す言葉が快楽にならないように配慮しているのだと思う。何かよさげなことを言って良い気分になって終わりってことにならないように。

物語であれ現実であれ、苦しさを隠して明るく振る舞うことが美徳とされてきた。たとえば『モネ』では亮や亜哉子(鈴木京香)がそうである。でも彼らの笑顔は『モネ』の世界ではちょっと浮いて見える。
「お前に何がわかる? そう思ってきたよ。ずっと。俺以外の全員に」と言ったあとの亮はもう笑っていないし、瞳も見開いていない。横向きの顔には彼の無意識が見え、正面顔は前髪が覆いかかるようになって、瞳は何も見たくないかのようにまぶたが重く覆っている。
百音が苦しそうに話すから亮も思わず本音の苦しさが出せた。ここで百音が腹から出た声で言葉の頭を強く高めの音でハキハキと語ったら、言えなくなってしまうことがある。「大丈夫」という言葉が本音を覆い隠すのと同じ、明るい笑顔、明るい通った声は、元気にさせる面もある一方で、心を縛りいためつけていく。エナジードリンクと同じで、体内のエネルギーを無理に発動しているだけで実際は肉体も心もどんどん消費されて疲弊していくのである。
震災の被害を受けた人たちには亮のような思いを抱えた人もいれば、そうではない人もいるだろうから、ひとくくりにはできないとは思う。ただ、震災に限ったことではなく、何かに傷ついた人のなかには亮のように「大丈夫」と明るく笑いながら心の中は別な感情に支配されている人もいるであろう。百音は亮に代表される本当の心を出せない苦しみに手を差し伸べる。

未知がそばにいる
父の姿を見ている亮はいつか崩れることをおそれ、未知の気持ちを受け入れることにためらい続けていた。未知はそっと亮の手をとる。逆光のなか向き合う亮と未知。あのとき、コインランドリーで百音が亮の手を取らなくて本当によかったと感じる瞬間であった。百音は未だささやき声で、万事解決にはならないことを物語る。それでもかすかな一筋の希望の光は生きる力になる。新次の強がり
この週の新次が良すぎる。第109回ではみごとに天候を読み的確な判断をしていた。第110回では、ほんとはずっと港でまんじりともしないで海を見ていたのに、耕治(内野聖陽)に電話で「どこにいるんだ?」と聞かれると「うち」とうそぶく(ただ耕治は「漁港にいんだろ」と予想はしている)。(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami