『おかえりモネ』第24週「あなたが思う未来へ」

第118回〈10月27日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第118回 未知が心に秘めてきたことを百音に明かす(残り3回で大きすぎるエピソード)
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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この回入れてあと3回。あと3回しかないところに抱えきれないほど大きなエピソードが描かれた。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第118回掲載中)

「みーちゃん、あの日、何があったの?」
「助けてって言ってたんだよね」

百音(清原果耶)未知(蒔田彩珠)が9年間、たったひとり心に秘めてきたことを知る。
あの日、東日本大震災が起こった日に百音は本土にいて、数日後亀島に戻って未知に再会した時、彼女の様子がどこかおかしかったことを百音は薄々感じていたが聞けないまま9年が経っていた。9年前の回想と2020年の設定の映像を並べると、清原果耶も蒔田彩珠も中学生らしい初々しさがある。化ける力がすごい(褒め言葉です)。

「私、あの時、おばあちゃんを置いて逃げた」

未知が振り絞るように告白すると、それまでやさしく鳴っていた曲がぴたりと止まる。何度も出てきた回想シーン。永浦家でおばあちゃんの雅代(竹下景子)がじっとうなだれて動かない姿以外、前後は何もわからないまま。
それがこの物語の最大のミステリー部分であった。

雅代が亡くなったのは震災が原因でないことは早いうちに明かされていたが、意味深な震災時の雅代の姿は未知の脳裏に強烈に残って決して消えることのない像だったのであろう。

「私は絶対自分を許すことはできない」と思い詰める未知を見ると、9年間、何かとメンタルが不安定に感じられる言動を繰り返していたことにも合点がいく。低い自己肯定感、仕事や恋に激しく思いつめ依存するような態度、姉への対抗心、ふいに出る理不尽に暴力的な言動、常に伏し目がちで浮かない表情……等々。

震災で津波が来た時は誰もが必死だったから未知がそんなに思いつめることはないのに……と傍からは思うが、当人が自責の念にかられることは無理もないと感じる。

亮への思いが通じてホッとしたのか、未知の最大の悩みが心の中の大半を占めたのかもしれないが、こんな思いを抱えていたら人を好きになれない気もしてしまう。
亮が大切な人をなくすことをおそれ大切なものをつくらないようにしていたことと同じように、どれだけ島のために働いてもそれだけでは満たされず、自分は幸せになってはいけないと自制してしまいそう。

でも未知の場合、救いを求める人が亮しかいなかったのだろう。これが亮の役に立つことで自分の罪を償いたいと思っていたとしたら辛すぎるだろう。けっきょく、何を選んでも未知は辛い。その複雑な状況や感情を託された蒔田彩珠はさぞや重責であったに違いない。

『おかえりモネ』第118回 未知が心に秘めてきたことを百音に明かす(残り3回で大きすぎるエピソード)
写真提供/NHK

未知より前に亜哉子(鈴木京香)も生徒を置いて逃げようとしたことを明かしている。
彼女は大人の冷静さを発揮してすぐに生徒の元に引き返したが、未知はどうやらひとり夢中で家を離れてそのまま学校に避難したようだ。『しかたなかったと言うてはいかんのです』という戦後のドラマをNHKが制作していたが、未知のしたことは「仕方なかった」と言ってもいいのではないだろうか。

他者を置いて逃げた負い目を描く作品

震災のとき、他者を置いて逃げたことに対する負い目を描いたドラマがある。テレビ朝日の昼の帯ドラマ『やすらぎの郷』(2017年)である。半年間にわたるドラマの終盤、主人公(石坂浩二)のファンだと言って現れた若い脚本家志望の女性(清野菜名)が津波に遭った時、祖母の手を離してしまった経験をもとに脚本『手を離したのは私』を書き、その壮絶な内容にベテラン脚本家である主人公が打ちのめされるエピソードは鮮烈だった。

その後、朝ドラ『半分、青い。』(2018年)では主人公(永野芽郁)の親友(清野菜名)が看護師として最後まで患者と共にいて命を落とすエピソードが描かれた。
演じた俳優が清野菜名だったこともあって『やすらぎの郷』を意識したもののようにも感じられた。

ともあれ、作り手の多くは災害を題材にし、中でも誰かを助けられずに生き残った者の懊悩を物語にする。朝ドラ『スカーレット』(2019年)では空襲で逃げる途中、主人公(戸田恵梨香)に手を離された妹(桜庭ななみ)はPTSDになってなにかと姉を苛む。



『モネ』ではたまたま亀島にいなかった百音に「お姉ちゃん、津波見なかったもんね」と未知が恨みがましく放った言葉が百音の心を傷つけてきたように見えていた。だが実は傷ついていたのは未知のほうであることを百音は敏感に受け取っていて、でも事の本質にどうにも気づけないことが百音の頭を悩ませていたともいえるだろう。ドラマの序盤から仕掛けられた凝った構成であった。
生き残った者の苦しみと救済は清原果耶が出演している映画『護られなかった者たちへ』でも描かれている。

どんなに近くなったようでも地元でない者には入れない雰囲気を感じ東京に戻った水野(茅島みずき)が戻って来た。ただし、以前のように長い期間逗留するのではなく短い時間らしい。

『おかえりモネ』第118回 未知が心に秘めてきたことを百音に明かす(残り3回で大きすぎるエピソード)
写真提供/NHK

百音はラジオで「ダニー・ボーイ」をかける。ボイラー業者の宮田(石井正則)が吹いた曲である。「一度何かを諦めたり、またやってみたり。
みんな、そういうのでいいんだなって。なんかさっき水野さんに会って……」と百音は高橋(山口紗弥加)に語る。音楽なんて役に立たないと9年前に思った百音がいま改めて音楽の良さを噛みしめる。

津波で逃げた未知も、被災地から東京に戻った水野も、東京から地元に戻った百音も、ホルンをまたはじめた宮田も……みんな、置きざりにしてしまったものを気にしている。置き去りにしたものにどうけりをつけるか。とりに戻るか。なかったことにするか。その時、懸命でさえいれば、その判断は間違いではないのだ、きっと。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami