『おかえりモネ』第24週「あなたが思う未来へ」

最終回〈10月29日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』百音と菅波のように、人々もまた手を繋いで歩き出せるように――祈りのような終幕
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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最終回。未知(蒔田彩珠)の大学進学を祝うため百音(清原果耶)の幼馴染が永浦家に久々に全員集合した。三生(前田航基)、悠人(高田彪我)、明日美(恒松祐里)、ちょっと遅れて亮(永瀬廉)


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜最終回まで掲載中)

そこで百音は9年の間開けることのなかった楽器ケースの蓋を開ける。中にはピカピカのサックスと2011年3月12日に行われるはずだった吹奏楽部の卒業コンサートのチラシが入っていた。

未来に夢いっぱいで、なんでもできると思っていた中学3年生のおわり。それが3月11日にふいに起こった震災でぷつりと途切れた。百音は何もできない無力感に苛まれ、そこから抜け出せなくなった。抜け出すために地元を出て、登米と東京に行って、たくさんの体験や学びを得て気象予報士として地元に帰ってきた。


どんなにがんばって生きてきても楽器ケースを見るとその時のことが思い出されそうで見ないようにしてきた百音だったが、ついに「もう何もできないなんて思わない」と微笑む。「おかえり」と未知。「おかえりモネ」と亮。仲間たちは手をつなぎ、なんでもできそうだったあの頃に「おかえり」した。

楽しそうにはしゃぐ子供たち(もう大人だけど)の声を聞き、安堵したような顔になる亜哉子(鈴木京香)。娘ふたりが立ち直ってさぞホッとしたことだろう。
娘たちの問題にぐいぐいと踏み込まず、彼女たちが自分の力で解決していくに任せる広い心を感じるお母さんであった。

『おかえりモネ』百音と菅波のように、人々もまた手を繋いで歩き出せるように――祈りのような終幕
写真提供/NHK

とはいえ、これで万事OKにならないのが『おかえりモネ』の世界。亮がついに自分の船を手に入れて、そのお披露目の日、耕治(内野聖陽)は「見だら俺が救わえれでしまうんじゃねがっで」と家を動かない。長らく何ができるか考えていたことはそんなに簡単には済まされないという耕治の自制的な言葉を聞いて百音の表情が変わる。百音こそ、それをずっと戒めるように生きてきたからであろう。

「あなたのおかげで救われた」という言葉は麻薬のようだから用心するように百音に言ったのは菅波(坂口健太郎)で、人のためと思うことはけっきょく自分のためではないかという疑問を提示したのは莉子(今田美桜)だった。
他者のために何かしたことの満足感に溺れることのないように冷静にものごとを見極めていく。百音や菅波や耕治の出来事への距離の取り方の禁欲さには驚くばかりである。これがドラマの作り手が大事にしてきたことなのであろうと感じる。

現実のことを題材に描いた物語は慎重にならざるを得ない。ドキュメンタリーよりも難しい気がする。それでも物語にして伝えることを選択する上で、作った者や観ている者が勝手に理想のハッピーエンドを創るのは自己満足でしかないだろう。
まだ出来事は終わっていないのだから。ちょっといい感じの物語を作って、それを消費するようなことなく、これからも考え続けていくためのバトンのような物語が『おかえりモネ』だった。

亮の出港の汽笛が鳴る。永浦家にも聴こえてきたその音は、百音たちのまだまだ続いていく旅の合図のようにも響いた。

現実は厳しい。問題は解決していないうえにコロナ禍が起こって日本どころか世界が困ってしまった。
『モネ』の世界では「コロナ」とは言わず「感染症」というワードだけ出した。



『おかえりモネ』百音と菅波のように、人々もまた手を繋いで歩き出せるように――祈りのような終幕
写真提供/NHK

フィナーレは百音と菅波で

2020年の1月から2年半、百音は海岸で菅波と再会する。どうやら第119回で菅波が去っていってから2年半、業務に追われて会えていなかったようだ。「太陽久しぶりだ」とまで言ってかなり疲労している菅波に百音は近寄るが、案外冷静で。「私たち、距離も時間も関係ないですから」と言う百音。

一瞬ためらいながら、間をおいて遠慮がちに抱き合うふたり。「先生、本当にお疲れ様でした」は呼吸器系の医者である菅波を通して医療従事者に対する言葉であろう(または一年間という長丁場、撮影に従事した互いをねぎらっているようにも聴こえる)。
ここで百音には菅波にも「おかえり」と言ってほしかった気もするが、「お疲れさまでした」は世の働く人達にほっと一息ついてほしいという思いやりのようにも感じ、それだけで十分とも感じる。

ドラマは2022年の夏。この2年、息をつく間もなかった人類が、来夏、本当に「お疲れ様でした」になって、手を繋いで歩き出せるように。祈りのような終幕だった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪











番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~2021年10月29日(金)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 坂井真紀 千葉哲也 山寺宏一 山口紗弥加 菅原大吉 佃典彦 茅島みずき 伊東蒼 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami