朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第2週「1939-1941」

第7回〈11月9日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第7回 算太が帰ってきて、そして消えた。安子の心境を想像する
写真提供/NHK
※本文にネタバレを含みます

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算太が帰ってきた

戦争が進行し、砂糖も供出しないといけなくなったため和菓子屋「たちばな」でもお菓子が作りが難しくなってきた。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜7回掲載中)

この状況を描くとき、主要登場人物が肩を落としながら語り合うような場面になりがち。「砂糖がないからお菓子が作れなくなったなあ」「人気のない最中をやめるか」とかなんとか。


ところが『カムカム』はどうだ。荒物屋の吉兵衛(堀部圭亮)と息子・吉右衛門(中川聖一朗)のキャラクターで単なる状況説明では終わらせない。砂糖不足の事実もわかるが、きりきりして何事にも余裕なく大人げない吉兵衛と、おっとりして子供にもかかわらず大人びた吉右衛門のキャラクターのおもしろさのほうが先に立つ。

これもまたひとつの始末の精神ではないだろうか。どのセリフ、どの場面も、どの登場人物も、決して無駄にしないで必ず活かす。藤本有紀に始末の料理人(脚本家)の称号を差し上げたい。

さらにその場は算太(濱田岳)が帰ってくる場面に繋がる。吉右衛門が生まれた時、算太が吉兵衛のラジオを盗み、吉右衛門の誕生祝に免じて赦されたのだった。突然、算太が帰って来るだけでなく、第1週につなげる。まことにきれいな構成である。

好物の最中がなくてもあんころ餅を3つ買って家族三人で食べよう。「それで僕は幸せじゃあ」と丁寧な口調で吉右衛門。
ここには「足るを知る」というような教訓を見出すことができる。

吉右衛門はまた、吉兵衛と算太の罪深い部分――算太の泥棒という「強欲」、吉兵衛の「傲慢」を浄化させる役割も果たしている。彼がいなかったら吉兵衛も算太も許容できない人物になってしまうおそれがあるので吉右衛門はとても重要な役である。

第1週、ダンサーになると言って出ていった算太。彼もまた戦争の影響でダンスホールが閉鎖になったため戻って来たと説明する。チャップリンの映画を思わせるようなモノクロ映像でダンスホールで働いていた算太の様子が描かれる。濱田岳が器用なので軽妙に踊ってみせ、ひととき楽しませてもらった。

算太は華麗なダンスで人気を得てダンスを教える仕事についたと語るが、頭ごなしに信じない金太(甲本雅裕)となんとなく状況を理解しているような度量のある杵太郎(大和田伸也)。嘘でも本当でも算太がいると家がにぎやかになる。安子(上白石萌音)は笑顔で「おかえりなさい」。

安子「やっぱりお兄ちゃんがおったら場が楽しうなる」
きぬ(小野花梨)「気ままな人じゃけど、いまの世にゃ必要な存在じゃな」

ふたりが言うように、算太は、英語が使えなくなって、ディック・ミネが三根耕一と改名したり、エンタツ・アチャコ(中川家)の早慶戦の漫才を一部日本語に置き換えたために意味が伝わらなくなったりすることを暗いぼやきではなく、あくまで笑い飛ばす方向に持っていく。

映画館で桃山剣之助(尾上菊五郎)が人気なのを見て昔から目をつけていたと嘯く算太。
第2回で彼が言っていたことが真逆で、彼は悪気なくいい加減なその場限りの人物である。まるで『男はつらいよ』の寅さんのようだなあと思うと、安子がお使いで買っていたたばこ「チェリー」(「櫻」に改名)のチョイスは寅さんの妹のさくらに掛けている?と深読みしてしまいそうだ。

だが、算太の態度はしゃれでは済まないことになっていた。彼を追ってきた借金取りを演じている徳井優がいつも彼が演じるちょっといやな感じの人でもどこか愛嬌があるタイプではなく、見るからに強面(こわもて)で役を作っているところが印象的だったが、役名が「こわもての田中」だった。



算太が姿を消していた

今の世には算太が必要? でも安子には稔(松村北斗)が必要。1940年の正月には帰ってこなくて、その夏も帰ってこなくて、1941年のお正月も帰って来るのかわからない。

寂しい安子。でも文通は続けているだろう。喫茶店「Dippermouth Blues」のマスター柳沢定一(世良公則)には、稔がこの店に女性を連れてきたのは安子が初めてだと言われる。出た、男性が唯一、自分の大事な世界に連れてくる女性という存在の優位性。

ちょっとうれしい安子。素直に顔がほころぶ。折しも兄が帰ってきて家を継いでくれるかもしれないから、お嫁にいけるかもと思って胸を熱くしながら(ここ勝手な想像です)帰宅すると、兄は姿を消していた。


兄のことも心配だろうけれど、安子はやっぱり嫁にいけないのではないかという不安がもたげてきたのではないか。かつて安子が、算太を自由にさせるために自分が店を継ぐと言った言霊が安子の呪いとなって帰ってきたような形である。

その頃、稔は父・千吉(段田安則)について海軍主計中佐・神田猛(武井壮)に挨拶していた。部屋の角にきちっと収まっている姿の謙虚さが印象的だった。こういう昭和の礼儀正しい男性像ってなかなか体現できないものだけれど、松村北斗のアイロンをきれいにかけてきちっと畳んだシャツのような折り目正しさの再現性はじつに貴重である。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪



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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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