朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第7週「1948-1951」

第32回〈12月14日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじりl、橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第32回 算太と勇、生き残った息子たちが立ち上がる
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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ふたりの息子

第32回は、生き残った息子たち(算太と勇)が立ち上がっていくお話になっている。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜32回掲載中)

まずクリスマスに帰って来た算太(濱田岳)。朝、目覚めると、台所で「小豆の声を聞け」と安子(上白石萌音)るい(中野翠咲)が小豆を煮ている。
その言い回しから魔法の呪文感が高まっていることを感じる。

なつかしさを覚えると共に、すこし哀しい顔になる算太。出来上がったおはぎを食べる算太。

算太「まずい」
安子「え?」
算太「嘘じゃ。うまい」

素直になれない算太。第31回美登里(YOU)に本音を漏らしたのは稀な奇跡であった。
でも彼の心は変わりつつあった。「ジャングルで思い出したのは、たちばなのおはぎじゃった」と言って、算太は安子に「一緒に建て直さんか、たちばな」と持ちかける。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第32回 算太と勇、生き残った息子たちが立ち上がる
写真提供/NHK

庭先でるいと遊ぶ美都里に安子が礼を言う。

安子「あんな素直な兄、はじめて見ました」
美都里「わたしはなにもしとらんよ」

安子が差し出したおはぎをるいと半分個する美都里。おはぎを見ながら、稔(松村北斗)のことを思い出す。大学予科のはじめての夏休みにおはぎを買ってきた稔。
浅丘町のたちばなという店で買ってきたと思いだして涙する美都里の頭をるいが「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と小さな手でなでる。

るい「美味しいあんこのおまじないじゃ」
美都里「そっかそっか」

幼子が祖母に小豆の魔法をかける。「おいしゅうなれ」が「元気になれ」と期せずして同義であることを気づかせてもらうしんみり良い場面である。

生き残った息子、ふたり目は勇(村上虹郎)。彼は雉真繊維に野球部を作ろうと提案する。野球によってチームワークや忍耐力を養うという勇のアイデアに千吉(段田安則)は反対するが、専務の林善郎(関秀人)が賛成して、野球部ができることになる。


兄・稔は生きているときも亡くなってからも、勇の前に立ちはだかる。亡くなったからこそ良い記憶ばかりが残っているので、生涯、彼に勝つことはできない。だから「自分なりのやり方でやるしかない」と勇はようやく迷いを吹っ切るのだった。

やがて社会人野球がはじまると、会社の売上が伸びるようになった。勇は結果を出したのだ。試合でも颯爽と活躍する勇を見ながら、「自慢の息子じゃ。
稔も勇も」と美都里は満足そうに微笑む。

死亡フラグが立ち、再びクリスマスのころ、美都里が亡くなったとナレーション(城田優)で語られる。余韻のある良い最期の描き方である。が、るいの呪文でおいしく炊かれてしまったんじゃないか。小豆に生まれ変わってしまったんじゃないかと思うような最期でもあった。「おいしゅうなれ」は成仏の呪文でもあるかもしれない。


「クリスマスにサンタがやってきました」

祖母を亡くし、しょげるるいを定一(世良公則)が励ます。そのとき、バーにいたトランペッターが「きよしこの夜」を奏で始める。トランペットの音は不思議と万感の想いを高める。亡くなった者への弔いのように聞こえるトランペットの「きよしこの夜」。「おいしゅうなれ」と「きよしこの夜」、ふたつの鎮魂の儀式。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第32回 算太と勇、生き残った息子たちが立ち上がる
写真提供/NHK

女性ボーカルの「きよしこの夜」が流れ、粉雪が舞うなか安子がおはぎを売って歩いていると、ロバート(村雨辰剛)が現れ、アメリカ軍は岡山から撤退を進めていると言う。お別れにおはぎを差し出す安子。
「イッツ・クリスマス・デー」、お代はいらないと伝える。

ロバートは安子に、これからも英語の勉強を続けるように言い、「きっとあなたをどこか思いも寄らない場所にまで連れていってくれますよ」と励ます。再び「メリークリスマス」を言い合う安子とロバート。

「長かった戦争は終わったのだと、そのとき安子は思いました」(ナレーション)

戦争に負けた日本は長らくアメリカの占領下にあったが、1951年(昭和26年)の9月8日、サンフランシスコ平和条約に調印したことで独立を回復することになる。ドラマはこの時点でまだ51年ではないと思うので、徐々に敗戦国として占領されている状況に変化が起こっているということであろう。

帰って来た算太がたちばなを再建しようと考え、勇は大好きな野球を仕事に生かすことができた。長かった戦争が終わり、新しい時間が動き出している。でも安子の表情はあまり明るくない。目に光のない真っ黒な目をしている。彼女はどこに向かおうとしているのか。

さて、今週の演出クレジットは「安達もじり 橋爪紳一朗」とふたり体制。NHK大阪広報に質問したところ、31、32回が橋爪演出、33〜35回が安達演出だという。とすると、明日33回からまた少し違うターンになりそうだ。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami