朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第8週「1951-1962」
第37回〈12月21日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※本文にネタバレを含みます
※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第38回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています
勇ちゃん!
センチメンタルな回だった。誰かがそばにいてくれないと人間は生きていけない弱い生き物なのだと、ポロロンと奏でるギターの哀愁のメロディがその気持ちを募らせる。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜37回掲載中)
安子(上白石萌音)がアメリカ人と仲良くしている姿を見て、やけ酒をあおって帰ってきた勇(村上虹郎)に雪衣(岡田結実)は「無様ですね」「雉真の坊っちゃんの面目丸つぶれじゃね」と言い放つ。
雪衣は時々、女中の身分を超えてくるところがある。その理由がわかる。勇は当たり前のように雪衣を部屋に留まらせようとする。
雪衣「ひでえ人じゃね。今もたった今も安子さんのことを思とるくせに」
勇「わかっとるんじゃったら出ていきゃあいいが。出ていけえ」
そのあとは描かれないが、朝、算太(濱田岳)が起きてトイレ(?)に向かうと、勇の部屋から雪衣がなんともいえない満たされたような表情で出てくる。
例えば、大河ドラマ『青天を衝く』でも、主人公・渋沢栄一が酒の席で働いていた女性に靴下を繕ってもらい部屋に届けてもらったとき、なんの躊躇もなく自信満々にぐいっと部屋に引き込んでいた。その後、その女性は妊娠し妾的な存在になり、本妻たちと一緒に暮らすようになる。
勇も本命は安子だが、それとこれとは別で、雪衣と関係をもっていたからこその、雪衣の思わせぶりな態度であったのだろうと合点がいく。何もなくただ雪衣の片思いなだけだったらあんなに勇にしなをつくるように目配せしたり、安子と算太に対して強気に出たりしないよねえとナットクナットク。
心は安子、体は雪衣……本能に抗えない勇のやるせなさだけが際立っていく。それは勇だけではなく、安子のなかにもあるのではないだろうか。

ただ安子の場合は、異国の人とコミュニケーションすることで稔の夢である世界の人と繋がっていきたいという気持ちを受け継いでいるという意味合いもあるだろう。いつまでもアメリカと勝ち負けにこだわる勇では安子と稔の理念には合わないのである。
安子役が上白石萌音でなければ、もっと生々しい“女”感があったかもしれないが、そうすると朝の番組らしくなく密度が濃くなってしまっただろう。上白石萌音だったから小豆の呪文が似合う“物語”になって良かったんじゃないかなと感じる。
孤独を募らせる算太とゆい
雪衣への恋が無残に打ち砕かれた算太。朝、彼女を見かけても何も言わずにそっと去っていく。そのときのふっと笑う顔が切ない。彼女が裾上げしてくれた背広を着て、たちばな再建のための融資の件で信用金庫に向かう途中、鏡に映った自分を見て虚しく笑う。朝、起きたときも、背広がかかっている画が映っていて、張り切って起きたんだろうなと思わせる。雪衣が妻になってくれたらたちばなを再建して男を見せようと張り切っていたけれど、その夢は叶わなかった。

算太は行方をくらます。
算太を心配した安子はるい(小島凛)を置いて大阪に向かう。安子はひとりではない。るいがいるのだ。そのるいのためを思って行動していることがるいとの距離を遠ざけていく。
留守番しながらひとり縁側で『カムカム英語』の歌を歌って待つるいは本当に寂しそう。たちばなを再建してもるいは雉真の家に残るのだと安子に言われ、ショックを受け泣いた。安子のその言動はすべてるいのためを思ってのことであることをるいは理解できず、皮肉にもるいを孤独にしていく。
(木俣冬)
【次のレビュー】『カムカムエヴリバディ』第38回 雪衣「うっ…」るい「I hate you」視聴者「!!!!」
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami