朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第8週「1951-1962」

第39回〈12月23日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第39回「るい18歳」を演じる2代目ヒロイン・深津絵里のすごさ
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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るい編へ

戦争がはじまるニュースからはじまって、モノクロ仕立てで「これまでのお話」をるい(深津絵里)を中心に描く。これまで安子(上白石萌音)中心だった物語を別の人物から見ることがおもしろい。これが『カムカムエヴリバディ』の三世代構成の面白さであろう。


【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜39回掲載中)

それにしてもラジオのニュース速報の音楽(ジングル)は地震速報と同じくらい不穏な気分になる。軽やかなのに怖いのはいつの時代も変わらないようだ。

1962年。雉真繊維を一代で築いた千吉(段田安則)が病床に伏せっている。傍らに社内報のようなものが置いてあって、芸が細かい。

「足袋は作りつづけてくれ」と勇(村上虹郎)に託すと、「足袋は雉真の一番バッター。いずれまた打順が回ってくることがある」と応じる勇。このセリフから考えると、安子はカムカムの一番バッターであり、いずれまた打順が回ってくることがあったりしないだろうか。

安子はアメリカに行って何をしているのか。ロバートとはどうなったのか。「I hate you」のあと、一回もるいと会ってないのか。疑問は尽きない。
この謎が解けるとき、安子の打順が回ってくることになるのではないだろうか。

「跡継ぎも作ってくれたしのう。思いもかけん形だったが」と千吉のセリフによって、第38回のあの「うっ」のことだろうとピンと来る。その時の勇の表情が微妙。

「心残りはるいのことじゃ。声を出して笑うことものうなって」とさらに続ける千吉。跡継ぎができてもるいを大事にしてくれていたんだなと思ってホッとした。で、跡継ぎの母親と言ったらーー

雪衣(岡田結実)である。タイトルバックにも「雉真雪衣」となっていた。彼女は千吉の葬儀の日、喪服で朝ドラ『娘と私』の最終回を観ている。ということは1962年3月30日。勇と結婚し、男子・昇を生んだ彼女は最終回を観てからでないと動かないというたくましさを見せる。
しっかりした妻になったんだろうなあ。

熱烈な恋愛でもなくお見合いでもなく、勇と雪衣みたいになんとなく結婚してなんとなく続いていく夫婦の形もある。雪衣の態度といい、昇が葬式の日に勉強していることといい、その様子を見るに、もしかしたら千吉は雪衣と昇にはさほど愛情を注がかなかったのかもしれない。るいのほうを大事にしていたのかもしれない。

そう思うと千吉ってやっぱりいい人。あくまで想像ですが。少なくとも雪衣とは折り合いがよくなかったのではないだろうか。

葬式の日に勉強する経験が筆者にもある。祖父の葬式のとき机に向かっていた。それは悲しすぎて誰とも話したくなかったからで、そのとき、親族で撮った写真でも影に隠れるようにしてひとり仏頂面をしていた。昇はそういう感じでもなさそうだ。

『娘と私』とは

『娘と私』は栄えある朝ドラの第一弾。61年の4月から1年放送されて、62年の3月30日に最終回。
最終回は主人公の「私」が大切に育てた「娘」が外国に旅立っていく姿を見送る。アメリカに旅立った安子と重なり、“娘と私”というタイトルも安子とるいの関係と重なる。ただし、『娘と私』の主人公は父親。朝ドラの最初は男性が主役なのである。そして、娘の母は外国人であった。

朝ドラ第一弾は、国際結婚した父と娘を軸に、娘を生んだ妻と育てた妻への想いを描く斬新設定ながら、実際にあった話を元にしている。文豪・獅子文六の自伝的小説を原作にしているからこその説得力なのである。この題材をチョイスした当時のNHKは格が違う。

葬式というのに家族が揃わない。るいもいなくて勇は河原に探しに行くと、るいが物思いにふけっていた。喪服のるいは勇とキャッチボールしながら岡山を出る決意を語る。



そして大阪へーー。
「椿三十郎」をはじめとしたたくさんの映画が上映されている(そこに桃山剣之介作品も混ざっている)にぎやかな街をミュージカル調にステップを踏んで進むるい(ミュージカル調は『エール』第1話を思い出す)。

素敵なワンピースを着て、はりきってホテルの面接を受けるが、額の傷が気になって自信を持てない。千吉がせっかく治療費を出してくれるところだったのに拒んだ理由が語られる(語り:城田優)。

るいはこの10年近く、ひとり誰にも心を許さず孤独だったのだろう。そんな彼女がやたらと明るいクリーニング店の竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)と出会って――。

竹村家でテレビを観ながら、いつのまにか笑っていたるいだが、やがて泣きはじめる。

深津絵里のすごさは、岡山の言葉も自然に聞こえるし、思春期の青さやどこか物憂げな雰囲気を持ちながら、基調は清明でヒロイン感があること。テレビドラマや映画で主演やヒロインをやってきた華と、野田秀樹やイギリスのサイモン・マクバーニーなどの優れた演出家のもとで舞台をやってきただけある身体表現の確かさなど、レジェンド級の俳優だから18歳の女の子が思いつめてひとり大阪にやって来たという流れを自然に見ることができた。

るいの祖母役である西田尚美(小しず)YOU(美都里)の透明感やエイジレス感も似ていて、わりと似た雰囲気の人たちをキャスティングしているのかなと感じた。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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