朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第9週「1962」

第41回〈12月27日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第41回 突然の風間俊介、まだ名を告げないオダギリジョー(宇宙人)
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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突然の風間俊介

しみ抜きするるい(深津絵里)に「シャツの汚れを落とすたびに過去のしがらみが消えてなくなる」「まっさらな自分の人生を歩き始められる。そう信じることができました」などのナレーション(城田優)がかぶる。まるで犯罪者のような心境。
それほどまでにるいは哀しい気持ちで10年以上過ごしてきたのかと思うと胸が痛くなる。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜41回掲載中)

家族との関係を断ち切ろうと心機一転、大阪にやって来たるいだが、深津絵里は西田尚美(小しず)YOU(美都里)、ふたりの祖母の隔世遺伝しているような透明感と浮遊感とエイジレス感がある。

ある日、るいがオー・ヘンリー短編集を読みながら店番していると、片桐春彦(風間俊介)が洗濯物を持って来た。突然の風間俊介にびっくり。彼が演じるということは、この片桐はそれなりに重要な人物と考えられる。

シャツの胸ポケットに万年筆の形がついていて、「お仕事も人柄も堅実なんじゃろうなあ」「字もきれいじゃった。育ちもええんじゃろうなあ」とるいがぶつぶつと片桐のキャラを妄想していると、今度はオダギリジョー(宇宙人)がやって来る。今回はサングラスをしていない。

名前も告げずに洗濯物を一カ月放置していた宇宙人。片桐と反対に良い印象が持てない。待つ間、テーブルをとんとん指で叩いている様子に「早うせいっていうこと?」と反感を抱くるい。大金を無造作に出すことも「こええんじゃけど」と怯える。


引き換えにまた新たな洗濯物を預けていく宇宙人。「一般性のない服の数々」「ケチャップ」「丸首シャツが多い」とるいは断片的な情報から想像を続ける。空想力とそこに影や毒のあるヒロインといえば、藤本有紀がはじめて手がけた朝ドラ『ちりとてちん』を思い出す。

るいは宇宙人の預けた洗濯もののポケットから妙な金属を見つけ、ますます宇宙人への謎を膨らませていく。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第41回 突然の風間俊介、まだ名を告げないオダギリジョー(宇宙人)
写真提供/NHK

「洗濯もんの数だけ人生があると思ったら、汚れた服も愛おしく思えてきます」

「洗濯もんの数だけ人生があると思ったら、汚れた服も愛おしく思えてきます」と名セリフを言い、平助(村田雄浩)を喜ばせるるい。冒頭のナレーションもそうで、小説っぽくなってきて、“連続テレビ小説”らしくなった理由は、るいが読書好きであるからだ。高校時代はひそかに本屋でバイトして独立資金を貯めていたるい。ひとりぼっちの彼女は本の世界が唯一の逃げ場だったのだろう。膝を抱えて本を読む深津絵里はやばいほど可愛い。

るいが読んでいるのは『善女のパン』。深津絵里は40歳独身のマーサを劇中劇形式で演じる。マーサはパン屋さんでいつも安いパンを買いに来る人を貧乏画家と想像している。夢想しながら鏡を見るるい。
鏡演出は算太(濱田岳)以来2回目となる。

40歳までひとり身の女の孤独を滲ませるミス・マーサも18歳のまだ幼さの残る孤独を抱えるるいも演じ分ける深津絵里。どちらかといえばミス・マーサのほうが年相応の役であるが。

ミス・マーサは安いパンしか買わない男のことを想っておしゃれするようになる。るいもまた、店の窓を拭きながら自分の身なりをチェックする。このときの深津絵里も可愛い。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第41回 突然の風間俊介、まだ名を告げないオダギリジョー(宇宙人)
写真提供/NHK

片桐、宇宙人……次なる客は田中(徳井優)で、るいは言いがかりをつけられる。算太を追いかけてきたときのコワモテの田中の渋みとは打って変わって、コッテコテのちょいワルキャラになっている。田中の子供なんだろうか。

そこに片桐が現れて、弁舌鮮やかに助けてくれる。彼は弁護士の卵だった。

るいの読んでいる本に気付いて「僕も好きです。
オー・ヘンリー」と言われ、「真っ白なるいの世界がほのかに色づきはじめていました」とやっぱり文学調のナレーション。「僕も好きです」でドキリとなって、「オー・ヘンリー」と続けて落とすのはよくあるパターンではあるが、ほのぼのしていい。

るいがお客さんに夢想するのはミス・マーサの影響であることは明白で、貧乏な客と片桐が重なるわけだが、片桐は卵とはいえ弁護士で貧乏画家とは違う。だが卵だから苦労しているだろうとるいは想像しているのだろうか。

『善女のパン』のマーサのほのかな恋の行方も、るいの片桐への好意の行方も、どちらも気になる。『善女のパン』は『魔女のパン』として青空文庫で読める。オー・ヘンリーは『賢者の贈り物』が有名。『べっぴんさん』第35回では『賢者の贈り物』を思わせる時計のエピソードが描かれている。BKはオー・ヘンリー好きなのだろうか。
(木俣冬)

☆年内は12月28日(火)まで、年明けは1月3日(月)から放送

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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