朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第10週「1962」
第46回〈1月6日(木)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉

※本文にネタバレを含みます
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「最初からこの家に生まれていればよかった」
謎の宇宙人・ジョーの名前が大月錠一郎とわかった。ジョー(オダギリジョー)に誘われて、るい(深津絵里)はサマーフェスティバルに行くことにする。竹村夫妻(平助:村田雄浩、和子:濱田マリ)に「8月の第2土曜、早めにあがらせてもらっていいですか」と遠慮気味に訊ねるるい。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜46回掲載中)
『私の秘密』はこの頃、実際にあった番組のようだが、当時の映像を使用したわけではなく、撮り下ろしている。司会のNHK八木治郎アナ役をNHKの近田雄一アナが演じていて、そのことを昨日の『あさイチ』で鈴木アナが興奮気味に語っていた。近田アナが以前『まんぷく』のイベントの司会(野呂幸吉役の藤山扇治郎のトークショー)をやっていたのを筆者は生で見たが、進行が巧みで、遊び心もあって、とても楽しんだことを覚えている。
フェスティバルに行くための洋服をるいは和子と一緒に買いに行く。キュートな水玉のノースリのワンピも白くて細い腕に透明感がありまくりでお似合い。でもるいはピンクの半袖のワンピースを選ぶ。「控えめで涼しげで」と選んだ理由を述べるるい。その言葉、そっくりるいに当てはまる。
いい買い物ができて自分のことのように大喜びの和子。「最初からこのクリーニング店の娘に生まれていればよかったと」と考えるるい。各々欠落していた部分がうまく埋まって、ささやかな幸福がふたりに訪れる。
和子は自分がしたかったこと(若いときに好きなものを買ったり自由に生きる)をるいに託し、るいは母・安子(上白石萌音)にずっと自分だけに愛情を注いでほしかったことを和子に求めている。ただ、そういうふんわりあたたかい話に終始しないところが『カムカム』で、るいが竹村家に馴染む一方で、徐々に母・安子の記憶が鮮明になっていく。けっきょくは実の母恋し、なのだ。
ここでもうひとつ注目したいのは、るいに和子が「何を一人でぶつぶつ言うてんのや?」とツッコむこと。孤独に生きて来たるいはひとり上手で、独り言(心の中の声)が多い。それがあけすけな和子や平助といると、独り言を言っている間がなくなる。ちゃんと他者と会話する。大変いい傾向である。
「ええのとこの子には苦労がある」
サマーフェスティバル当日、控えめで涼しげなピンクのワンピースを着たるいは一際目立っている。トミー(早乙女太一)は「地味にしててもあふれる気品」と高評価。彼は目ざとく、「雉真」「野球」というキーワードから「雉真繊維のお嬢さんや」と推測していた。ベリー(市川実日子)はおしゃれしてきて「今日こそジョーのハートを撃ち抜いたるでえ」ときばるが、るいの清楚な輝きに負け気味……。トミーはええとこのお坊ちゃんで、音楽の英才教育を受けているという話から「ええのとこの子には苦労がある」と訳知りにるいに語るベリー。

「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」
カッコいいトミーの演奏が終わり、ピンクの衣裳を着たジョーの出番がやって来た。仁王立ちで鋼のように強い演奏パフォーマンスをするトミーに対して、柔らかなジョーの演奏。曲は「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」。るいの脳裏に「るい」「るい」「るい」と呼ぶ安子のビジョンが湧き出す。るいの記憶の安子は常に「るい」「るい」と呼びかけている。そこもポイント。母はいつだってるいのことばかり思って、愛情もって呼びかけ続けていたのである。その記憶をるいは、たった一回の裏切り(に見えた行為)によって封印してしまった。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami