朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第11週「1962-1963」
第50回〈1月12日(水)放送 作:藤本有紀、演出:泉並敬眞〉

※本文にネタバレを含みます
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「僕と共鳴せえへんか」
るい(深津絵里)は「(ジョーに)これ以上惹かれていくことをおそれていました」(ナレーション:城田優)。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜50回掲載中)
そこで「Night and Day」へのクリーニングの配達にも行かず、うじうじしている。それでもどうしても引き合ってしまうるいとジョー(オダギリジョー)。
トミーはベリーのようにジョーに恋しているわけではないが、彼の才能を意識している。トランペットのことしか考えていない天然の才能をもつジョーに比べて、トミーは音楽家の家系に生まれ、あらゆることを学びながら腕を磨いている。天才型と秀才型。『ガラスの仮面』でいえば姫川亜弓と北島マヤである。トミーは「すべての学問は音楽に通じる。トランペットしか知らんやつとは違う」とジョーを意識しまくる。
関西で行われるジャズコンテストで優勝したら東京でライブ出演やレコードを出すことができる。そこでトミーはジョーと正々堂々と勝負したいが、ジョーは参加しないと言うので、自分が見下されているように感じて苛立つ。
木暮(近藤芳正)はジョーがコンテストに出ないのはそういう意味ではなく、トランペットが好き過ぎて傷つきたくないのだろうと推測する。確かにそのとき、ジョーは貧しい少年時代を思い出している。
その頃、ジョーは河原をぶらぶら歩いていて、その脇の公園でるいが野球少年たちに混じって野球をやっている姿を見かける(こんなに偶然出くわすなんてこの界隈はどれだけ狭いねん)。
ジョーはその断片――母が恋しい気持ちを読み取るが、それがすべてではなく、恋しいだけではない複雑な感情をまるごと理解することはできない。それは、ジョーの思いをトミーが誤解し、ベリーが「ずっとジョーを見てきたんやもん。ジョーだけを見てきたんやもん。ジョーの考えていることくらいわかる」と自信満々に言うことと同じである。
「ずっとジョーを見てきたんやもん。ジョーだけを見てきたんやもん」は作品によっては最大級の口説き文句にもなりそうだが、ここでは全く効果を成さなかった。むしろ逆効果。「人のことがわかるなんて簡単に言うな」とベリーのおせっかいにジョーは苛立つのだった。
ジョーもまたるいに気安くそういう態度をとってしまったという反省もあるのだろうか。だがたとえ、るいとジョーが理屈でわかり合えていなくても、どこか惹かれるのは、感覚的なものである。トミーが織田作之助の『夫婦善哉』から引いてきた「僕と共鳴せえへんか」の「共鳴」するものがあるからだ。
『夫婦善哉』ではカフェの女給を口説くときの軽薄なセリフだが、トミーは「共鳴」の本質を語っている。ライブで共鳴していない演奏をけなし、共鳴している演奏を褒める。音楽の世界ではセッションに当たる概念であろう。言葉でないところで繋がり合うもの。
るいとジョーは各々の抱える「傷心」で共鳴し合っている。大好きすぎる母が自分ひとりのものではなくなったことに傷ついたるい。大好きなトランペットで悪い結果が出て傷つくことを恐れるジョー。ジョーは野球を見ていて、バットを振っている少年と、大会に出ない自分を重ねていたのではないだろうか。
ジョーに気付いたるいが「投げてみますか? 気持ちええですよ」と誘うと、「ありがとう。でも、ケガしたらあれやから」と遠慮する。「ああそうですよね、すみません。大月さんのトランペットが聞けなくなったら私もいやや」とるいはすぐにジョーがトランペットを吹くために手に気を遣っていることを理解する。
そこに野球少年が「アベックなん?」とからかって、ふたりの中の気まずさはすっかりほぐれていく。
●今日の名セリフ
「女をはべらすことと付き合うことは別や」(トミー)
「なんでキャデラックからオート三輪に乗り換えんといかんの」(ベリー)
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami