今回のニュースのポイント


「健康経営優良法人2026」では大規模法人3,765社、中小規模法人23,085社が認定され、その中から「健康経営銘柄2026」として28業種から44社が選定されました。いずれも制度開始以降で最多水準に達しています。

労働力不足が深刻化するなか、従業員の心身の健康維持は、生産性向上や人的資本開示を通じた企業価値向上に直結する、中長期的な成長戦略における「最優先の投資対象」へと変貌しています。


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日本企業の経営において、「従業員の健康」に関する意識が劇的に変化しています。かつては福利厚生の一環、あるいは「コスト」として捉えられていた健康管理は、今や企業の持続的な成長を左右する「人的資本への投資」の柱へと再定義されています。2026年3月に発表された最新の認定・選定結果は、この動きが日本経済の全方位に拡大していることを明確に示しました。


 企業が健康経営を急ぐ最大の背景には、回避不能な「労働力不足」と「生産性の伸び悩み」があります。厚生労働省の資料によれば、実質労働生産性の伸びは長期的に低下傾向にあり、限られた人材で「強い経済」を実現するためには、従業員が心身ともに最高のパフォーマンスを発揮できる環境整備が不可欠となっています。健康経営は、体調不良による欠勤「アブセンティーズム」や、出勤していても効率が落ちる「プレゼンティーズム」による経済損失を最小化する、極めて合理的な経営戦略と言えます。


 2026年度の認定リストを概観すると、興味深い傾向が浮かび上がります。花王、日清食品ホールディングス、サントリー食品インターナショナル、ピジョンなど、生活者の健康に関わる企業が健康経営銘柄や優良法人認定の“常連組”として名を連ねている点です。これらの企業にとって、「自社の働き手の健康」を実現することは、提供するブランドの誠実さを証明する重要な証左となっており、顧客や投資家からの信頼獲得に直結しています。


 こうした「健康を扱う企業こそ、自社の健康から」という潮流は、伝統産業においても顕著です。例えば操業280年以上の白鶴酒造は、2021年に「健康経営宣言」を公表して以降、2025年に健康保険組合連合会の健康優良企業で銀を認定され、さらに今回の健康経営優良法人(大規模法人部門)で認定リストに名を連ねています。

同社では、経営トップが陣頭指揮を執る「THP(トータル・ヘルス・プロモーション)委員会」を組織し、全従業員へのストレスチェックや産業医による緻密なフォローを実施。さらに、在宅勤務や時差出勤の導入といった「柔軟な働き方」を、データに基づいたメンタルケアと一体で推進しています。これは、伝統を守る「人」の活力を維持することが、次の100年の成長を支える投資であるという明確な経営判断に基づいています。


 社会全体の影響に目を向けると、人的資本の可視化が求められるESG投資の文脈においても、健康経営のデータは企業価値を測る重要な物差しとなっています。実際、統合報告書や有価証券報告書で健康指標やストレスチェック受診率などを開示する企業が増えつつあり、投資家も人的資本データとして注目しています。また、働き方の多様化が進むなか、公的な認定を受けた企業は、若年層を中心とした人材獲得において圧倒的な優位性を持ちます。


 政府側も、健康経営を単なる認定制度で終わらせず、その成果が企業の収益性や賃金上昇、さらには個人のキャリアアップにどう結び付くのかを「可視化し、質を高める」ことを課題に位置付けています。


 例えば多くの企業が掲げる「人々の暮らしを支える」というメッセージも、それを生み出す「働く人の健康な一日」があって初めて実現します。健康経営という仕組みは、企業が従業員という「資本」に真に向き合い、共に成長していくための、21世紀型経営のスタンダードになりつつあります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)

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