今年5月、太田彩夏SKE48チームKIIの新リーダーに就任した。大場美奈の卒業による人事だった。
新米リーダーは、先月25日に行われた14周年コンサートで同チームの新オリジナル公演が12月に開催されることが発表されると、「『ラムネの飲み方』公演を超えます!」と数千の観衆の前で言い放った。なぜこんな大胆な宣言をブチ上げたのか。現在の心境とチーム状況に迫った。

【写真】14周年記念公演で躍動する太田彩夏【8点】

 そのコンサートは終わりに近づいていた。日本ガイシホールの大きなモニターはいくつかの発表ごとを映し出しており、その最後にチームKIIの新オリジナル公演の開催が発表された。SKE48としては、今年5月に開幕したチームSの新公演に続く、第二弾となる。

 楽曲を提供するのは、シティポップブームの立役者の一人・Night Tempo、AKB48『言い訳Maybe』、SKE48『ごめんね、SUMMER』や『恋を語る詩人になれなくて』などを作曲した俊龍ら。

 太田はその発表をどんな気持ちを聞いていたのか。

「新公演をいただけることは知っていました。でも、始まるのはだいぶ先のことなのかなと思っていて…まさかの発表でした」

 太田は発表を受けて、うつむきながら涙を流すと、何かを決意したように話し始めた。

「とても嬉しい気持ちなんですけど、チームの現状はとても課題が多いです。今ある課題を乗り越えられるように、高い壁にぶち当たると思いますが、みんなとなら乗り越えられると思います。
絶対成功させたいです。いや、成功させます!」

 副リーダーの青木詩織が続ける。

「KIIはいま成長過程にあるので、その成長していく姿を皆さんに見てもらいたいし、完璧KIIを作るので。絶対できるからみんなで乗り越えていきましょう」

 ここで太田がカットインする。

「新公演の日程が決まったということで、ある方に伝えたいです。高柳明音さん! チームKIIの新公演は『ラムネの飲み方』公演を超えます!」

 人生で初めての宣言に、場内は拍手で応えた。

 この『ラムネの飲み方』公演とは、2011年、KIIのリーダーだった高柳が総合プロデューサーの秋元康氏に向けて、「公演をさせてください!」と直訴して実現させた公演のこと。その初日である10月1日、劇場のあるサンシャイン栄はとてつもない熱気に包まれ、公演後もKIIコールが鳴りやむことはなかった。そんな公演に太田は挑むというのだ。

 すでにグループから卒業し、女優として活動している高柳は、この日、客席から後輩のコンサートを見守っていた。高柳は、後輩からの思わぬ宣言に一瞬、顔を覆った。2列後ろから観覧していた私には、高柳は泣いているように見えた。


 ステージでは、チーム最古参の江籠裕奈が話し始めていた。

「アイドルって楽しいことばっかりじゃなく、いろんな壁にぶち当たったり悩んだりすることもたくさんあるけど、こうやってファンの皆さん、メンバーのみんなの前で弱いところを見せれる、一緒になって成長できるのが今のSKE48のいいところだし、強味だと思うので。これからも一緒に頑張りましょ」

 メンバーに言い聞かせるようにして話し終えると、観客から拍手が届いた。

 最後の曲を歌うと、メンバーはステージから去ったものの、ドラマはまだ終わっていなかった。

太田「あの発言にはめちゃめちゃ勇気が要りました。手が震えました(笑)。でも、ちゅり(高柳)さんがまさかいるとは思わなくて。楽屋に戻ったらちゅりさんがいて、ビックリしました。気にしてないかなって心配だったけど、ちゅりさんからはアドバイスをたくさんいただきました。『周りが支えてくれるから、そんなに気負わないで』って」

 太田の宣言は瞬く間に拡散され、ネット上ではトレンド入りを果たした。

 そんなことをまだ知る由もない太田率いるKIIの全メンバーは、ガイシホールの一室に集められていた。

太田「運営の方から『明日から新公演のレッスンが始まります』と説明を受けました。
その場でNight Tempoさんを紹介していただいて、表題曲を聴かさせていただきました。急展開すぎて、頭がついていかなかったです」

 気になることがある。ガイシホールでメンバーは「壁」だとか「乗り越える」だとか異口同音に発している。なぜ自分たちだけの曲や衣装がもらえることをそんなにネガティブにとらえるのか。太田は「不安6、楽しみ4」で新公演を迎えるという。「乗り越える」べき「壁」とは何なのだろう。

太田「KIIが乗り越えないといけないことはいくつかあります。まずは先輩と後輩の間にある距離感です」

 古畑が卒業したKIIは16人が所属しているが、5期生の江籠からドラフト2期生の水野愛理までが先輩組(7人)で、ドラフト3期生の中野愛理から10期生の3人までが後輩組(9人)と、太田はとらえている。所属人数が増えすぎると、いつものメンバーでまとまってしまう。後輩は後輩で行動する。となると、同じチームなのに見えない壁が生まれる。両軍はいがみ合っているわけではない。
だが、チームとしてひとつのものを作り、ファンに届ける力がそれでは足りないのだ。

太田「新公演を迎えるというのに、メンバー全員が不安に思っているはずです。全体がまとまっていないことにみんな気がついています」

 KIIとは、太い絆で結ばれた体育会系のチーム。そんなイメージは“今は昔”。KIIはいつしか人間関係に悩むチームになっていた。同時期、チームSが団結を手に入れていたのとは実に対照的だった。

 今年5月のある日、劇場公演に立った太田は衝撃を受けた。客席後方と立ち見エリアが空いていたからだ。新リーダーに就任して間もなくのことだったから、余計にショックだった。

 KIIからはここ1~2年で高柳、大場といった人気メンバーが巣立っていった。その影響もあるだろう。しかし、メンバーにとって原因などはどうでもよかった。
空席があるという現実だけがすべてだった。ほんの1か月前まで座席は埋まって当然だった。

太田「それからメンバーと話し合いました。私も後輩たちと距離を縮めようとしました。江籠さんや日高優月さんといった先輩たちも、このままじゃいけないといろいろ意見してくれるようになりました。いま、KIIは変わろうとしている最中なんです」

 太田は7期生である。5期生、6期生が所属する集団において、新リーダー就任は意外な人選に思えた。しかし、先輩と後輩の分断を仲裁するには、中間の期生である太田が適任なのかもしれない。

太田「レッスンはつらいこともあると思います。逃げ出したくなるかもしれません。KIIってメンタルが弱い子が多いから。でも、そういうメンバーを一人も出したくないです。
乗り越えたらすごい景色が待っていると思います」

 新公演の初日は12月11日。タイムリミットは動かない。2か月少々でKIIは生まれ変われるのか。メンバーは新公演用に書かれた数曲を耳にしている。Night Tempoによる歌唱指導も始まった。もう待ったなしだ。この2か月、太田は新人刑事として、チームに横たわる未解決事件に挑む。

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