【写真】『日本統一』を総合プロデュースする俳優・本宮泰風
今、Vシネマが注目されている現象は『週刊さんまとマツコ』(TBS系)でも取り上げられ、本宮も20年振りにバラエティ番組に出演。とうとう地上波でも新シリーズ『日本統一 北海道編』(全10話)がオンエアされるなど勢いは増すばかりだ。このような人気の過熱ぶりに対し、本宮は「こちらの目論見通りです」と満足そうに頷く。Vシネマの市民権獲得は“偶然の産物”ではなく、あらかじめ計画されたものだというのである。
「従来の任侠作品とは違う作り方をしていますから。舞台こそヤクザ事務所だったりするけど、描かれている内容は普通のヒューマンドラマや人間群像。月9とかのドラマが企業を舞台にしているのと変わらない。つまりコアなターゲットに向けているのではなく、一般の人でも楽しめるように意図して作られているんです。過去のヤクザ映画とは違い、『日本統一』は凄惨な流血シーンも少ないですしね。
現在、『日本統一』はナンバーシリーズだけでも「53」までリリース済み。外伝も合わせると60作を優に超える。映画版の『男はつらいよ』が第50作で終わっていることを考えれば、息の長さが尋常じゃないことはよくわかる。しかし本宮によると、シリーズ初期は出演者も作品コンセプトも今とまったく違うスタイルだったという。
「最初のうちは本当にヤクザ同士の抗争がメインで、典型的なVシネマだったんです。だけど10年続けているうちに制作会社が2回変わったんですよね。それで会社が変わるたびに、なぜか僕のやることが増えていったんですよ。初期は1人の役者として出演していただけだったのに、途中から台本作り、監督決定、役者のキャスティング、スタッフ集め、プロモーション……要するに全部をやるようになりまして。結局、会社が変わると『セットはこれを使います』『監督はこの人がいいです』みたいな伝達事項が出てくるんです。その繋ぎ役を僕がやる羽目になったんですよ」
こうして期せずしてVシネ界のチャールズ・チャップリンとなった本宮は、自身の理想とする作品作りに邁進。それが任侠作品の一般化路線だったわけだが、そこには別の理由も存在していたようだ。
「やはり大きかったのは暴対法の施行です。今の暴力団も分裂するなどの動きがあるのは知っていますけど、表立った派手な抗争は許されなくなっているじゃないですか。そうすると今の若者もヤクザを身近には感じないんですよね。街中でヤクザを見かけることも、ほぼなくなっていますし。『日本統一』は本物のヤクザを知っている人からするとリアリティに欠けるという意見があるかもしれません。『今どき、ヒットマンがこんな発砲しまくるわけないだろ』とかね。でも、それはあえてやっているんです。一種の任侠ファンタジーですから。もし昔流行った実録路線みたいなことを今の時代にやろうとしたら、ものすごく地味な作りになると思いますよ」
どの世界にも栄枯盛衰と盛者必衰の法則は存在する。そして本宮は時代の変化に合わせて任侠作品をアップデートする方法論を選んだ。少し前までは哀川翔、竹内力、白竜、小沢仁志が「Vシネ四天王」と呼ばれていたが、現在は本宮泰風、中野英雄、的場浩司、山口祥行が「ネオVシネ四天王」と称される。彼らが画面上で訴える“男の世界”の本質部分は鶴田浩二や菅原文太の時代から変わらないのかもしれないが、取り巻く環境は驚くほど変化している。
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