10月からスタートした朝ドラ『舞いあがれ!』。福原遥さん演じる空に憧れるヒロイン・岩倉舞の成長を描く物語だ。
舞台になっているのは大阪の東大阪市、そして長崎県の五島列島だ。中でも五島列島は、ドラマがスタートしてすぐ、第1週・第2週で舞台となった。なぜ五島列島が舞台に選ばれたのか。『舞いあがれ!』の制作統括・熊野律時チーフプロデューサーに話を聞いた。

【写真】高畑淳子、哀川翔ら五島列島の温かい人々とばらもん凧【5点】

「最初はもちろんどこを舞台にしようかというのはゼロベースで考えていくのですが、ひとつは大阪制作なので大阪だろうと。もうひとつをどこにするかということで、作品のテーマに“飛んでゆく”というのがあったので、地続きではなくて離れたところ、島みたいなところがあるといいよね、と考えたのがはじまりでした」

とはいっても、西日本に限っても無数の離島がある。いくつもの候補の中から五島列島を選ぶ決め手になったのは……。

「ばらもん凧ですね。これがドラマのテーマと一致するところがありまして。飛行機も人生も、向かい風があって初めて空を飛ぶ、舞いあがることができる。大変なことはいろいろあるけれど、向かい風を受けてそれを上がる力に変えていく。そういうドラマのテーマ、コンセプトがばらもん凧につながるんですよ」

第2週で物語の軸になったばらもん凧。
鬼に立ち向かう侍の姿を描いた独特のデザインで、子どもの成長を願って家族が作って揚げるという、五島列島の伝統のひとつだ。

「物語のスタートで舞がこれからどういう人生を歩んでいくのか、どういう姿勢で物事に立ち向かっていく人になるんだろうかというのを、すごくシンボリックに現してくれる素敵なアイテムだなと思って。それでもうこれは五島を舞台にすべきってことだなとなったんです」

熊野プロデューサーをはじめとする制作陣も、たびたび取材で五島列島に足を運んだ。そのときに見聞きした情報も、物語の中に織り込んでいるという。

「五島独特の時間の流れとか人間関係とか自然との関わり方。また、潜伏キリシタンの辛い歴史はありますが、今は信仰に関わりなく、みなさん普通に共存している。そういうところも五島の魅力だなあと。みんな一生懸命に生きていて、ちょっとずつうまくいかないこともあるんだけど、みんなで助け合って生きていく。それはすごい大事なことだと思いますし、丁寧に描きたいと思っていることのひとつです。そういうところを五島という舞台が魅力的に現すことができるかなと考えました」

五島列島で出会った人たちの要素も、さまざまな形で登場人物の中に織り込まれているという。そしてその五島で暮らす人の中でも特に象徴的なのが、ヒロイン岩倉舞の祖母・才津祥子だ。演じているのは高畑淳子さん。


「おばあちゃんの役はぜひ高畑さんにお願いできたらというのは、かなり初期から思っていました。高畑さんがエネルギッシュでパワフルな役柄を魅力的に演じられてきているのはよく見ていたのですが、今回のおばあちゃんはエネルギッシュな部分と同時に不器用な部分も持っているんですよね。それをうまく出していただけるのは、高畑さんしかいない、と」

永作博美さん演じるヒロインの母・めぐみとその母である祥子は、若い頃の出来事がきっかけで疎遠になっていた。その“母子”を巡る物語も、序盤のみどころのひとつになっている。

「基本的にはひとりで島で生きているたくましいおばあちゃん。でも、同時に娘とのこととか、後悔を抱えながら。だから自分の気持ちを素直に出せない舞ちゃんの気持ちがわかるし、寄り添うことができる。地に足の着いた、説得力という意味で高畑さんのお芝居は最高ですよね」

ただパワフルにひとりで生きるだけでなく、心の中に葛藤も抱えて、その上で子ども時代のヒロインに大きな影響を与える——。これから展開していく岩倉舞の成長物語において、いわば原点なのが、五島列島という舞台と高畑さん演じる祖母・祥子の存在なのだ。

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