NHK朝の連続テレビ小説『舞いあがれ!』で福原遥さん演じる主人公の岩倉舞が、パイロットとして人力飛行機の飛行に挑むシーンが感動を呼び、一躍話題になった人力飛行機の世界。主人公、舞が入部していた人力飛行機サークル “なにわバードマン”の面々たちの、ひたむきな姿も印象に残った。
ここで気になるのは、現実世界の“バードマン”は、いったいどのようにドラマを見ていたのかということ。そこで、今年の鳥人間コンテストで優勝した東北大学の人力飛行機サークル「東北大学Windnauts」の23代目の代表(※1)川人崇央さんに話を聞いた。

【写真】「東北大学Windnauts」鳥人間コンテスト決勝シーン

「実は家にテレビがなくて、ドラマはTwitterでダイジェスト版を見ていたくらいなんです。でも、部室で飛行機を作っているところとか、試験飛行の様子とか、かなりリアルにやっているなあと思いました。ドラマでもいくつかの班に分かれて作業していましたが、僕らも7つの班に分かれて機体製作をしているんです」

東北大学Windnautsでは、翼・プロペラ・駆動・操舵・コクピット・フェアリング・電装の7班があり、それぞれに4~8人くらいの部員が所属。そのほかに全体設計とパイロット、という構成になっている。


「基本的に3年生の夏の鳥人間コンテストで引退します。1年生のときは入部して間もないのでほとんど応援。その後で班への配属が決まり、2年生の夏のコンテストがはじめて機体製作に関わった機体が飛び、その経験を元に3年生の夏の最後のコンテストにむけて設計・製作をしていくというのが流れです」

『舞いあがれ!』の中では部員間で意見がぶつかるという、いかにも青春らしい場面もあった。実際のバードマンたちの青春は……。

「班同士で意見が異なるということはたまにありますね。たとえばプロペラ班と駆動班の間では、プロペラ班がプロペラの大きさを変えると駆動部品にかかる力が変わるのでまた計算し直さないといけない……みたいな。
ただ、ぶつかりあって揉めるというよりは、話し合って調整して、という感じです。何しろとにかく設計を早く決めて製作していかないと、時間が足りなくなるんです」

東北大学Windnautsの1年間は、鳥人間コンテストが終わった直後、8月に始まる。8月・9月で次年度の機体の設計を固め、以降製作に取り架かる。機体が完成するのがだいたい翌年5月の半ば。それから試験飛行を繰り返し、7月の鳥人間コンテストの本番を迎える。

「割とカツカツのスケジュールなんです。
春休みも返上ですし、秋から冬にかけては主翼の骨組みやコクピットのフレームに使っているカーボンの加工をするのですが、それは24時間連続の作業が必要。なので、ちょうどいまの時期は金曜日から日曜日にかけて、部員が交代でずっと作業をし続けています。授業が終わって遅くまで製作をして、家に帰ったら授業の課題をやって、また次の日も。週末には24時間体制で……。遊びに行く時間もないですね(笑)」

機体が完成してからも楽はできない。

「『舞いあがれ!』では明るい時間帯に試験飛行をしていましたが、カーボンは日差しに弱いので実際は日差しの弱い早朝に飛ばすんです。
朝の4時くらいから飛ばすので、集合は日付が変わる0時頃。機体の組み立てに2,3時間かかって、1回の試験飛行でも10本くらい飛ばして……。朝8時くらいにようやく解散して、そのまま授業に出る。そういう生活ですね。だから、僕たちもけっこう命を削って機体を作っているんです(笑)」

超のつくストイックさが、バードマンの本懐というわけだ。そしてもちろん文字通り命を張ってフライトをするパイロットも楽ではない。
ドラマの中では福原遥さんや吉谷彩子さんらが演じたパイロット。長時間ペダルをこぎ続ける体力に加え、部員たちからの期待を背負う重圧も描かれていた。

「まさにドラマの通りですよ。パイロット志望の部員は毎年だいたい数人入ってきます。で、2年の5月には3年の夏、最後のコンテストで飛ぶパイロットを部員間で決めるんです。パワーや体重といったデータ面ももちろん大事ですが、パイロットへの意気込みもそれぞれにプレゼンしてもらう。
それでどの人に任せられるか、いちばん信頼できるかを決める。操縦を一歩間違えたら一瞬で機体は壊れてしまいますから。だから、あの人で飛ばせないならしょうがないよね、と思える人にパイロットを託すんです」

機体の設計は“パイロットファースト”。体重やパワーはもちろんのこと、肩幅などの体型やペダルを漕ぎやすい体勢、操縦桿を握ると肩が上がる、下がるなどの細かいクセに合わせて細かい調整を繰り返して設計していくのだとか。

「パイロットの漕ぎやすさ、姿勢、出力に合わせて我々は機体を作る。だから、最後は任せたよ、と。パイロットは基本的にずっとひとりでトレーニングをしないといけないし、最後は部員の思いとか、あとは大学の名前も背負って。それに、未来につなぐことも大事な役割。大変だろうな、と思います。我々もパイロットも、命を削って鳥人間コンテストの本番を迎えているんです」

東日本大震災の直後、2011年夏の鳥人間コンテストでは、被災地でもあった東北大学Windnautsが見事に優勝を飾っている。それを見て憧れて入ってきた部員もいるという。そうしてWindnautsの伝統を紡いできた。

「Windnautsに憧れて東北大学を目指したという人も毎年いますね。あとは、飛行機が好きだとか、もの作りが好きだとか、そういう部員がほとんど。僕たちは細かい部品も全部手作業、機械を使わずに作るんですが、みんなでひとつの目標に向かってもの作りをする。それがやっぱり一番の魅力ですね。授業で学んだことを活かすこともできますし」

ドラマの中ではパイロットとして空を飛んだことをきっかけに、福原遥さん演じる岩倉舞は旅客機のパイロットを目指すことになる。現実にもそういう人はいるのだろうか。

「これまでにそういう先輩もいました。実際、試験飛行で初めて飛んだときの感動や、本番の琵琶湖での飛行では景色の素晴らしさとか、そういう話を聞きます。ただ、意外とみんなが飛行機関連の仕事に進んでいくかというとそうでもないんです。工学部の学生が多く、やっぱりみんなでもの作りをするのが楽しいんですね(笑)」

東北大学Windnautsは目下寝る間を惜しんでの機体製作真っ只中。トレーニングに励むパイロットともども、来年7月の本番飛行に向けてトップアスリートさながらのストイックな日々を過ごしているのだ。『舞いあがれ!』をきっかけに、来年の鳥人間コンテストにはさらなる注目が集まりそうだ。

※1
鳥人間の界隈には「執行代として飛行機を飛ばす鳥人間コンテストが行われる年を代の名前とする」という暗黙のルールが存在しており、川人氏は厳密には2023年の大会で執行代として飛行機を飛ばす代のため、「23代」と名乗っているとのこと。前身のサークル時代を含めると、1993年に設立されたため、正確には「23代目の代表」ではないとのこと。

▽『舞いあがれ!』総集編(前半)が放送
12月29日(木)
NHKにて午前8時00分~9時25分より放送
年内に放送した物語の見どころ「幼少編」「人力飛行機編」「航空学校編」など、それぞれの魅力ある物語をダイジェストにまとめてお伝えします。番組を見逃している方や番組のハイライトをもう一度見てみたいという方も、これを見れば『舞いあがれ!』の魅力や面白さがわかる総集編。
放送後1週間、NHKプラスで見逃し配信があります。

【あわせて読む『舞いあがれ!』チーフプロデューサーに聞く、福原遥ヒロインオーディションの裏側】