「ニュース時事能力検定」1級にして、新聞 14 紙を毎日読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルのニュースを、ユーモアを交えての鋭い切り口で読み解く時事芸人のプチ鹿島氏が、監督・出演するドキュメンタリー映画『劇場版 センキョナンデス』が2月18日に公開となる。選挙の度に投票率の低さが取り沙汰されている昨今、「選挙はフェスだ」と言い切り、その面白さを積極的に発信しているプチ鹿島氏に、選挙戦の魅力を語っていただいた(前後編の前編)。


【写真】時事芸人として活躍するプチ鹿島

──毎回、選挙の度に投票率が低いこと、特に若年層が選挙に行かないことが問題視されています。けれど、政治って難しい印象があって、なかなか興味が持てないというのも正直なところあるのかなと。

プチ鹿島(以下鹿島)選挙っていうとちょっとお堅い感じだし、実際にいまの投票率って、過半数をちょっと超えているくらいだから、おおよそ半数の人は興味ないわけなんですよね。そういう人たちにこそ『劇場版 センキョナンデス』を観てもらいたいんですよ。なんの政治知識もいらないんで。というのは、そもそも僕とダースレイダー(ラッパー)とで「ヒルカラナンデス」って時事ネタトーク番組をYoutubeで配信しているんですが、なぜそのふたりが選挙の現場を見にいくことになったのかというと、『なぜ君は総理大臣になれないのか』っていうドキュメンタリー映画がきっかけなんです。

──衆議院議員の小川淳也さんに17年間もの長い期間、密着したドキュメンタリー映画ですね。地盤も知名度も選挙資金もなしで選挙活動を始めた小川さんの地元の対抗馬は、当地の有力メディア「四国新聞」や「西日本放送」のオーナー一族の出身で、強固な地盤を持つ自民党の平井卓也さんで、なかなか勝つことができないという。

鹿島 そう。この映画は、立憲民主党の小川さんと、自民党の平井さんとの対立構造がわかりやすくて、しかもどっちもキャラが強いんですよ。そのふたりが2021 年の10月31日の衆院選で、再びぶつかるという。ビッグマッチですよね。
しかも『なぜ君は総理大臣になれないのか』を撮った大島新監督が、現場に乗り込んで続編を撮るっていう。僕はヒリヒリした現場を見たいっていう野次馬体質なんで、これはすごく面白いものが見れるんじゃないかって沸き立っちゃって、香川一区に乗り込んだわけです。那須川天心対武尊の試合を観戦しにいくみたいな。しかも四国には讃岐うどんもあるし。いわば漫遊です。

──なるほど、選挙は格闘技の試合くらいエキサイティングだと。プチ鹿島さんは双葉社から『教養としてのプロレス』という本も出していらっしゃるくらいプロレスがお好きなんですよね。

鹿島 プロレスと政治も似ているところがあるんです。僕、子どもの頃にプロレスを観始めたんですけど、軍団抗争ってあるじゃないですか。誰が団体を辞めて、誰が新団体を立ち上げてってリアルな人間劇があるわけですよ。一方で父親が買ってくる週刊誌なんかを見ると、田中派とか、鉄の結束とかね、プロレスの軍団っぽいじゃないですか。派閥を追われて新団体を旗揚げする竹下登とかがいたりして。
人間の欲望や野心をいかに大義名分に変えて、多くの人に訴えるっていう点で、プロレスと選挙って同じだなって。

──一方では選挙はフェスだともおっしゃっています。『劇場版 センキョナンデス』の中で、タイムテーブルというか、各候補者たちの街頭演説の時間を調べてスケジュールを組んで、ハシゴして回るところは、音楽フェスの趣がありました。

鹿島 政治家が10人いれば10人の主張があって、自分の代理は誰がいいかなって選ぶのが選挙ですよね。「わたしを国会に行かせてください。なぜならばこういうことがやりたいからです」って言うために、政治家っていうのは人前に出てくるんです。人前に出ないほうがおかしい。それこそ旧統一教会とかの固定票、組織票があって自分は安泰だから、人前に出ないっていうのっておかしいじゃないですか。人前にふらっと出てくるのが選挙であって、それはどんなに有名な政治家でもなんです。演説を見れば「この人、テレビで見たことあったけど、実際に会うとこんな人なんだな」っていうのは、すごくわかるし、しかも無料で見れるんですよ。だから僕はフェスって言ってます。AKB48じゃないですけど、会いに行けるし、しかもCDも買わなくていい(笑)。


──映画の中で「エモい」とも発言されていましたが、政治のエモさとは、どういったところでしょうか。

鹿島 政治家にとっては選挙って命がけです。落ちればただの人だし、党の存亡だってかかってる。どんなに偉いと言われている政治家だって、例えば衆議院が解散されれば首になってリセットされる。だから選挙では全力になる。いい大人の喜怒哀楽、泣いたり、笑ったり、叫んで声をからしたりって、普段見れないところが見れるって、そういう意味でエモいですよ。

──プロレスっぽい興奮、フェスとしての高揚感、エモさ…、なんでもいいからまずは、面白がるところから始めたとしても、最終的には投票ってところに辿りつくと思うのですが、そこでまた「誰に入れればいいのか」という壁にぶち当たります。

鹿島 僕も最初はそう思ってたんです。「立候補している連中の中で、マシなやついないじゃないか」って。でもそれって、自分が潔癖すぎるというか、完璧すぎるものを求めすぎてたんです。20年以上、全国津々浦々の選挙の現場を取材してきた畠山理仁さんって方がおっしゃっていたんだけど、「この人はすごい」っていう候補はなかなかいないと。だから比較的この中で、自分がマシだと思う人を選べばいい。
その人がマシだったかどうかは、次の選挙で答えがでるわけじゃないですか。

最初からゴリゴリの支持政党がある人もいると思うけど、基本的には僕は無党派です。例えば2023年のいま、選挙があったとして、比較的マシな人に投票する。それから何年後かに、自分の判断は正しかったのかって振り返って「正しかった」と思ったらそれはそれでいいし、「やっぱり違ってたな」って思っても、「2023年の自分が何を考えていたんだろう」って確認することが出来る。自分の日記帳代わりですよね。

──マシな人に投票すればいい、という考え方は目から鱗でした。だけど選挙に参加するならしっかり考えなくてはならない、だからこそ、面倒くさいってイメージだったので。

鹿島 僕らは、誰が通るかわからない選挙区の人たちの選挙権のことをプラチナチケットって呼んでるんですけど、「もしかしたら、自分はプラチナチケットを持ってるかもしれない」って考えたほうがワクワク感があるし、投票権があるってことは、誰でも参加していいですよって言われてるってことです。だったら行かない手はない。選挙権があるのって18歳以上じゃないですか。だから大人の遊びなんです。自分と対話をして「今回はこの人に」って投票すれば、それは極上の大人の遊びになると思いますね。


取材・文/大泉りか

▽プチ鹿島
時事芸人。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。2021年より「朝日新聞デジタル」コメントプラスのコメンテーターを務める。コラム連載は月間17本で「読売中高生新聞」など10代向けも多数。レギュラー番組に、TBS-R 「東京ポッド許可局」 YBSーR 「キックス」など。昨年12月には「ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実」(双葉社)を上梓。

『劇場版 センキョナンデス』
「選挙は最高のお祭りだ!」のはずが・・・野次馬のつもりだったラッパーと芸人が、安倍元首相銃撃事件の日の選挙戦を記録。

監督・出演:ダースレイダー(ラッパー) × プチ鹿島(時事芸人)
大島新(『なぜ君は総理大臣になれないのか』監督)プロデュース最新作!
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【後編はこちら】選挙戦ロードムービーが公開、時事芸人・プチ鹿島「政治家の人間としての器が見られる、野次馬の記録」
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