「栃木県生まれの眉毛ガール」井上咲楽の政治家対談、今回のゲストは国土交通大臣や外務大臣など名だたる役職を歴任してきた前原誠司衆議院議員。取材前からしそうな印象を抱いていたものの、実際の前原議員は想像以上の優しさでイノサクさんも驚愕。
プライベートの面では、撮り鉄で愛妻家という素顔のエピソードが飛び出した。
井上 前原さんは政界きっての「撮り鉄」だという噂を聞いていたんですが、本当にすごいですね! 事務所の壁がSLの鉄道写真展みたいです! 特にこの写真、迫力があります。

前原 これはここにある中で、一番古い写真ですね。結婚する前、当選1年目で日本新党から新党さきがけに移るかどうかの頃だから、ちょうど25年前の函館本線。

井上 函館へは、このSLを撮るためだけに行ったんですか?

前原 もちろんです。このC62形蒸気機関車3号機が復活して走ると聞き、撮るために駆けつけました。


井上 なるほど~。撮り鉄界では当たり前の行動なんですね。

前原 隣の写真は磐越西線で、そこを走るC57を撮る場合は、鉄ちゃん仲間と日帰りが基本です。東京駅を7時発くらいの新幹線に乗って新潟まで行き、レンタカー借りてC57の往復の運行を追いかけて撮影。その後、新潟駅前の居酒屋で打ち上げをして、東京に帰ってくる、というのが1つのお決まりのパターンですね。

井上 ちなみに私は、地元が栃木県の益子町なんですが……。


前原 じゃあ真岡鉄道が有名ですね。

井上 ご存じなんですね! 実際に撮られたことは?

前原 C12という蒸気機関車が走っているんですけど、小型なんですよね。私は大きな機関車が好きなので、ごめんなさい(笑)。真岡鉄道は撮ったことないんですよ。

井上 前原さんにとっては好きなSLを撮るのが、最高のリフレッシュになるんですね。

前原 そうですね。
特に1日がかりの撮影旅行は最高です。でも、去年は1回も行けなかったので、今年はなんとか……とスケジュールを睨んでいます(笑)。

井上 なかなか撮りに行けないとなると、日頃のストレスはどうやって発散しているんですか?

前原 夜、家に帰ってメールの処理などもろもろ終わった後、ネットで鉄道の情報を調べたり、次の旅行プランを練ったりという時間がリフレッシュになっているのかな。あとは、録画しておいたテレビを観るのも好きな時間ですね。

プライベートは愛妻家の撮り鉄 国民民主党・前原誠司 元外相に聞く“あの決断”に後悔は?


井上 バラエティ番組もご覧になりますか?

前原 観ますよ。僕はマツコ・デラックスさんが好きで、月曜日は夜遅くにやっている……。


井上 『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)ですか!

前原 そう。面白いよね。あとは『マツコの知らない世界』(TBS)なんかも。辛辣なようで、行き過ぎない絶妙なバランスのツッコミが気持ちいいですよね。今、一番会いたい芸能人はマツコ・デラックスさんです。

井上 お家で過ごす時間がお好きなんですね。


前原 妻との何でもない会話も楽しいからね。

井上 夫婦円満のコツというのは?

前原 結婚して24年、もうすぐ25年目に突入するんですけどね。うちは子どもがいないから、ずっと恋人みたいな感じなんですよ。

井上 えええ! 付き合っていた頃のまんまなんですか? 感覚として。

前原 照れもせずに申し上げると、付き合っている頃以上に愛しいですよね、やっぱり。

井上 こっちが照れちゃいますね!

前原 20数年間で培われた年輪というか、良いときも悪いときもずっと同じ空間にいたわけですからね。
政治家は私だけじゃなく、支援者のみなさんとの会食の機会が多いですから、たまに2人で食事をするのが楽しみで。家内は料理も上手ですし、家が一番落ち着くし、好きですね。

井上 家が一番好きですか!

前原 24年も経つと家内が側にいてくれるのは自然な感じなんですけど、いつも感謝しています。

井上 いいなぁ……。

前原 井上さん、彼氏は?

井上 いないんですよ。いい人がいたら、お願いします!

前原 どんな人が好きなの?

井上 ぶっ飛んだ人がいいですね。自由人がタイプです。蛭子能収さんみたいな。

前原 だいぶ歳の差があるね(笑)。

井上 蛭子さんみたいない方とかに出会えたらいいんですけど……。

前原 うーん、苦労しそうだけど。

井上 それくらい振り回してくれるくらいの人がいいですね。追っかけたいです。

前原 そっか。ちょっと僕は紹介できる人、思い浮かばないなぁ(笑)。

【2017年9月、第3代の民進党代表となった前原氏は、衆議院選挙で小池百合子氏率いる希望の党との連携・合流を決断。国民の期待感を背に自由民主党・公明党からの政権交代を果たそうとしたものの、小池氏の「排除いたします」発言の余波によって失速。10月の選挙後、民進党は立憲民主党、希望の党(現:国民民主党)などに分裂し、一強多弱の政治体制が残る結果に】

井上 前原さんは2017年の衆議院選挙のとき、重大な決断を下す場面が何度もあったと思います。

前原 はい。それも約1カ月という短い期間にね。

井上 あのとき、一番大切にしていたことはなんですか?

前原 私心で決断しないことですね。自分が損か得かを考えるのだけはダメだと心に決めていました。選挙を目前にし、民進党が目指すのは与党をひっくり返すことだ、と。そのためには野党がまとまらなければいけない。そこで、日の出の勢いのあった小池さんと組んで、安倍政権を倒す。その思いしかありませんでしたね。

井上 でも、基本政策が一致しない人は「排除いたします」となって、1つにまとまることができなかったわけですよね?

前原 あの言葉が潮目になったのは確かですが、実際、記者会見での小池さんは「政策理念が一致する方はどなたでもどうぞ」という言い方をしていたんですよ。ところが、「本当に排除しないんですか?」という質問が繰り返され、最後に「排除いたします」と答えた言葉が切り取られ、大きく報道されたんですよね。政治の世界は、私心のない1つの決断によって確実に何らかの変化を起こすことができます。ただ、なかなか思い描いた通りにはなりません。1つ言えるのは、「安倍政権を倒すために」と決断したことに後悔はありません。それでも「もう少しマネジメントできていれば……」という思いはありますが、過去は変えられませんからね。

井上 この先、立憲と国民がもう一度、1つになることはあり得ますか?

前原 難しい質問ですね。あり得るかもしれなし、あり得ないかもしれない。みなさんに「選挙のためにまとまった」と思われてしまう可能性は高いですから。

井上 前原さんとしてはどうしていきたいですか?

前原 僕は25年国会議員をやらせてもらって、将来の日本に役立つ何かを残していきたいという思いが年々強くなっています。ただし、与党でないとできないことが多いのも事実です。例えば、民主党政権のとき、国土交通大臣として航空行政の改革に取り組みました。羽田空港が24時間稼働し、国際線が発着するのはその成果の1つです。政権与党となり、大臣となれば、何かを変えることができます。ですから、次にそういうポジションに就いたときに何をするのか。その問題意識は常に持っていますし、それなしで政治家として国会に居続けるだけが目的になってしまったら、本末転倒です。政治家は手段。総理大臣になるのも手段。それが目的になったら、その人はダメだと僕は思っています。

井上 具体的には、どの問題に?

前原 短時間ですべてを説明するのは難しいので、要点だけを言うと、国民1人ひとりの負担を上げ、国の予算の無駄を削らないと、日本は持続可能ではない現実があります。超高齢化、人口減少に対応するには、避けて通れない道です。しかし、どちらも不人気な政策で、政治家は人気商売ですから、この2つに取り組むのは勇気のいること。だって、税金を上げられるのは嫌でしょう?

井上 私は必要だと納得できるなら、大丈夫です。でも、税金が上がる=反対という人は多いですね。

前原 この間、財務省が平成2年と平成31年の税収のグラフを持ってきてくれました。井上さんは、何年生まれですか?

井上 平成11年です。

前原 驚きだね(笑)。じゃあ、20歳になったところ?

井上 今、19歳です。

前原 ずいぶん大人っぽいね。もっと上かと思って話していました。

井上 時々、中学生って言われることもあるくらいなので、うれしいです。ありがとうございます(笑)。

前原 井上さんが生まれる約10年前の平成2年と平成31年の税収は約60兆円で、ほぼ一緒なんですよ。しかも、教育、防衛、公共事業、科学技術への総予算もほとんど変わっていません。しかし、支出は約70兆から101兆円に増えています。税収は変わっていませんから、足りない分を借金で補っているわけです。しかも、使う方で大きく増えた費目が2つだけあるんですよ。何だか分かりますか?

井上 医療……ですか?

前原 そう、1つは医療、年金、介護という社会保障費。高齢化が進み、圧倒的に増えています。もう1つは何だと思いますか?

井上 えー! 何だろう。

前原 借金の返済である国債費です。社会保障費と国債費が増え、未来投資となる各予算は横ばいのまま。これが日本の現状です。持続可能な未来にするには、どうにか正していかなければならない。そのためには、「オール・フォー・オール」(みんながみんなのために)で負担を上げ、無駄な支出を減らすしかないんです。

プライベートは愛妻家の撮り鉄 国民民主党・前原誠司 元外相に聞く“あの決断”に後悔は?


井上 若い世代は、そういう意識を持たないと将来が不安だと思う人も増えている気がします。

前原 しかし、選挙結果を左右する不人気政策ですから、政治家はなかなか言い出せない。そこで、大衆迎合を続けているのが安倍政権です。先程の「立憲と国民が」という質問に戻ると、選挙のためにはくっついた方がいいのかもしれません。ただ、本当に重要なのは「国を救うためにはオール・フォー・オールで……」という意識を持っている人間が集まれるかどうかです。自民党の中にも考えの一致する人はいるでしょうし、僕は志のある人たちを集め、どう塊にしていくかを考えています。

井上 党派を超えて?

前原 そうですね。選挙は戦いなので、政治家は自分の当落が大切だから、ハードルは高いと思います。それでも国民のみなさんとの対話をしながら、きちんと説明し、納得してもらうことで道は開けていけると信じています。

「取材を終えて」~井上咲楽の感想~
前原さんは会ってみたい議員のお1人でした。というのも、明らかに失敗に終わった希望の党との合流を主導したあの決断を、今はどう感じているのか聞いてみたかったんです。実際にお会いすると、キラキラした目で撮り鉄トークをしてくれる、京都の上品でやわらかな感じ溢れる愛妻家でびっくり。これから先、野党が大きな波を作れるのか? 前原さんもそのキーマンの1人だと改めて感じた取材でした。

(『月刊エンタメ』2019年6月号掲載)
前原議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊
プライベートは愛妻家の撮り鉄 国民民主党・前原誠司 元外相に聞く“あの決断”に後悔は?

『竜馬がゆく』(司馬遼太郎 著/文藝春秋 刊)
司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』は、血沸き肉躍る読書体験ができるんじゃないかな。僕は学生時代から今までで4回は読みましたが、特に政治家になってからは「なぜ自分が政治の世界に入ったのか」という原点を思い出させてくれる1冊です。司馬さんの創作かもしれませんが、竜馬は「死ぬときは、たとえどぶの中でも前向きに倒れて死ね」と言ったと言われています。僕はその亡くなるシーンが特に印象的で忘れられないですね。
▽井上咲楽(いのうえ・さくら
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。
現在は『サイエンスZERO』(NHK-Eテレ)などにレギュラー出演中!
Twitter:@bling2sakura

▽前原誠司(まえはら・せいじ)
1962年4月30日、京都府京都市左京区生まれ。28歳で京都府議会議員に当選し、政治家の道を歩み始める。93年、衆議院議員となり、国土交通大臣、外務大臣を務める。