現在放送中の『どうする家康』(NHK)は、さまざまな点で従来の大河ドラマとは一線を画した作品だ。そのチャレンジングな作風は脚本の内容だけでなく、タイトルロゴやタイトルバックにも色濃く現れている。
それらのアートワークを紐解くことで、クリエイターたちの“チャレンジ”を感じ取ることができるだろう。

【関連写真】岡田准一、古田新太、有村架純ら個性豊かな『どうする家康』出演者たち

そもそも大河ドラマのロゴといえば、従来からダイナミックな毛筆書体が中心。歴代でも武田双雲や祥洲といった有名書道家が担当し、力強さや荘厳さを表してきた。

しかし『どうする家康』の場合、一転してデジタルで処理された現代的なアレンジに満ちている。担当したのはNIKEやPARCO、Red Bullなどのグラフィックデザインを手がけるデザインユニット「GOO CHOKI PAR(グーチョキパー)」だ。

彼らが手がける『どうする家康』のロゴは、でっぷりとした書体と文字全体が円状に収まった独特の形状が特徴的。その新鮮なビジュアルは一見すると、大河に似つかわしくない「軽い」印象を受けるかもしれないが、そこにはちゃんとした深い意味と制作者による独自の視点が込められていた。

家康はその生涯で数多くの困難に立ち向かい、時代の流れを体現し、様々な創意を持って乗り越えてきた戦国武将だ。2022年9月にNHKが公開したロゴ発表の記事によると、題字に見られる円形の塊は、そうした波乱の生涯を転がり続けた家康の人生の旅路を表現しているのだという。ひいては困難に直面しながらも前へと進む家康の力強さを象徴しているのだろう。

また家康が目指したのは四角ばった世界ではなく、多様な価値観を受け入れる“丸い”世の中。同記事の中で、『どうする家康』の制作統括・磯智明チーフプロデューサーは、「彼の不屈の生き様、不動の精神を示しているようにも見えます」と語っていた。


深い意味が込められているのは、もちろんロゴに限った話ではない。実は『どうする家康』のOP映像、いわゆる“タイトルバック”にも現代的なメッセージを表現した奥深さが潜んでいる。

同映像を手がけるのは、NHK大河ドラマ『功名が辻』や『八重の桜』でもタイトルバックを担当した映像作家の菱川勢一氏。クリエイティブカンパニー「DRAWING AND MANUAL」のファウンダーであり、現在公開中の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のメインビジュアルを担当した人物でもある。

ロゴマーク同様、タイトルバックも歴代大河ドラマの重厚なイメージとは異なり、ポップな図形や淡い色味を中心に構成されているが、これらの抽象的な図形は、様々な人や物を想起させる役割を果たしているという。

例えばタイトルバック第一弾では、鉛筆でグリグリと書き殴ったような「円」が登場し、次第に日本の日の丸を思い起こさせるような美しい金箔の「真円」が重なり始める。「DRAWING AND MANUAL」公式サイトで菱川氏が語ったところによると、未熟な家康が「丸」に見立てられており、その「丸」が物語の進行と共に「真円」へと成長していく様子をイメージしているそうだ。

このように『どうする家康』のアートワークには時代や状況を柔軟に受け入れ、多様性を尊重するという現代的なメッセージが込められている。それはまさに、同ドラマが描き出す家康の姿そのものではないだろうか。

また5月14日放送の『どうする家康』第18話からタイトルバックがリニューアルされたが、このタイミングで映像を一新したことにもちゃんとした意味があった。

第18話で描かれたのは、家康最大のピンチともいわれる“三方ヶ原合戦”。いわば家康にとってのターニングポイントである。


演出統括の加藤拓氏によると「徳川家康の生涯はとても長い」「『どうする家康』のタイトルバックは、家康の人生とともに激動の戦国時代『全部』を表現するので、1つのパターンでは描き切れません」というのがリニューアルした理由のよう。続けて「タイトルバックのアップデートもココがターニングポイントでした」と、5月15日更新の番組コラム「新・タイトルバックによせて」で語っていた。

たしかに新タイトルバックは家康が戦乱の世から太平へと歩み続け、自己を更新し続けた姿を象徴しているかのようだ。こうした「変化」一つをとっても、クリエイターの並々ならぬこだわりを感じられる。

ポップな見た目の裏に隠された、大河ドラマにふさわしい重厚なメッセージ。そのギャップの大きさこそが、『どうする家康』に視聴者たちが魅了される一つのカギなのかもしれない。

【あわせて読む】『どうする家康』『レジェンド&バタフライ』…作品ごとに異なる個性豊かな「織田信長」像
編集部おすすめ