新鋭・夏都愛未監督が福岡、佐賀を舞台に3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた映画『緑のざわめき』が、9月1日より全国順次公開する。東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやってくる主人公・小山田響子を演じるのは役者・松井玲奈
本作に込められた思いや、仕事に「折り合いをつける」ことについて、彼女の考えを聞いた。

【写真】『緑のざわめき』主演・松井玲奈の撮りおろしカット【6点】

──今作の脚本を最初に読んだ時にどのような印象を抱きましたか?

松井 この作品は響子、菜穂子、杏奈の3姉妹で“人と人との関わり”が表現されているんですけど、夏都監督の「ファミリーツリーという言葉があるように、全ての人は1つの場所から枝分かれして今ここにいる」という考えや強い思いが込められていると感じました。

悩みながらも様々なことを人生の経験として受け入れていく響子の姿をとても魅力的に感じていて、作中にもある「全部、自分に折り合いをつけるための旅」という言葉は本当にその通りだなと思いました。

──響子という役を演じる上で、どのようなことを大切にしていましたか?

松井 物語の主人公って、“自分で物事を進めていくタイプ”、“周りで起きたことを受け入れていくタイプ”など、いくつかパターンがあると思うんです。響子は、どちらかというと“受け入れていくタイプ”の人間だと思うんですが、彼女がいるからこそ、菜穂子や杏奈との出会いがあって、物語が動いていくところもありますよね。だから私は、受け止めていくことを大切にしたいなと思いながら演じていました。


──今作の注目ポイントはどんなところでしょうか?

松井 全体的に引きの画が多いので、役者の表情がはっきりと見えない時には、「どんな表情をしているんだろう」「どういう気持ちで言っているんだろう」と想像しながら見ていただけると嬉しいです。寄った画の方が心境は伝わりやすいとは思いますが、あえてそうせず、引いて見せることによって、観客に考える余白を持たせてくれている作品だと思うんです。見た方それぞれがそれぞれの受け取り方で考えていただくといいんじゃないかなと思います。

──今作の登場人物に松井さんが共感した場面は何かありますか?

松井 私は共感というより「理解をしたい」という気持ちで向き合っていました。自分が演じた響子に対しても、その上で「すごく人間らしいな」と思っていたんです。行動の理由を「こういうことが起きたからこういうことをした」と説明することは簡単かもしれませんが、人の行動って理由がわからないことも多いですよね。
昨日まで嫌いと言っていた人のことを急に好きになったり、急に怒り出したり、受け入れたり。そういうことが色濃く出てる作品なのかなとも思っています。

──撮影現場での思い出を聞かせてください。

松井 共演者の方たちとお弁当を食べた時間が思い出に残っています。スタッフさんが用意してくださるお弁当が、毎回色々な種類で嬉しくて(笑)。ロケ弁って、お肉かお魚かの2種類か、多くても3種類くらいのことが多いんですけど、今回はカツ丼も牛丼もあるし、蕎麦も冷やし中華もあって。
そんな現場は初めてで、「今日は何を食べよう」と楽しみながらお弁当を選ぶ時間が、東京の撮影現場ではあまりない体験だったので、合宿のようで楽しかったです。

──菜穂子を演じた岡崎紗絵さんの印象はいかがでしたか?

松井 岡崎さんはすごく人懐っこい印象で、菜穂子という役とも重なるんですが、初対面の時から「もっと玲奈さんのことを教えてください」という姿勢でいてくださって、すごく嬉しかったです。待機時間にもたくさんコミュニケーションを取れたので、その後のお芝居もすごくやりやすく、ありがたかったです。

──草川直弥さん演じる元カレ・宗太郎も魅力的な役柄でした。

松井 草川さんは撮休の日に嬉野のサウナに行っていたらしくて、作品の中で響子と宗太郎がサウナの話をするシーンも、リアルの出来事を反映しているんです。監督に「2人で何か喋っていてほしい」と言われたシーンの撮影の前に、草川さんが実際にサウナに行っていたので、「じゃあサウナの話しよう」ということになったんです(笑)。
草川さんは、宗太郎の掴みどころがないフワッとした感じとはまた違う、元気ではつらつとした方だなと思いました。

──松井さん自身が家族の繋がりを感じる瞬間を教えてください。

松井 私は、たとえ家族であっても「他人は他人である」と思っているところがあるんです。冷たい意味で言っているわけではなくて、「他の人」だからすべてをわかり合えるわけではないので、伝えないと理解し合えないこともあるし、言ってはいけないことだってあると思うんです。

私は猫を飼っているんですが、私と猫で会話はできないけど、お互いに空気を読み合いながら生活をしているんですね。私が少し落ち込んでいる時には寄ってきてくれるし、猫も何か意思がある時は、甘噛みで伝えようとしてくれたりする。
言葉はなくても、それがコミュニケーションになっているので、人と人との場合も同じように、何かアクションを起こさないと理解し合うことは難しいんだなとよく思います。

──今作には「自分に折り合いつけるための旅」というキーワードがありますが、芸能界のお仕事も折り合いをつけながらやっていくことも多いのではないでしょうか?

松井 そんなことはないですよ(笑)。ただ、こだわりすぎないことが大事だとは思います。もちろん譲ってはいけないこともあるとは思いますが、周りの人たちと一緒に作品づくりをする上で「譲らないこと」が弊害になってしまうのであれば、それは良くない。柔軟性を持って臨機応変に対応できるようになるということが、ある意味、折り合いをつけることなのかなと思います。

やってみた上で「これはやっぱり違う」と伝えることも必要ですが、「できない」じゃなく、「できるためにどうしようか」と転換をしていくことが、折り合いをつけ、みんなでより良い方向に持っていくための行動なのかなと思います。


(取材・文/山田健史)
▽松井玲奈(まつい・れな)
1991年7月27日生まれ。愛知県出身。2008年デビュー。主な出演作は、『よだかの片想い』(安川有果監督)、『幕が下りたら会いましょう』(前田聖来監督)、NHK連続テレビ小説『まんぷく』『エール』、NHK大河ドラマ『どうする家康』、舞台『ミナト町純情オセロ ~月がとっても慕情篇~』(いのうえひでのり演出)等。放送中のテレビ東京系『やわ男とカタ子』ではヒロインを演じる。
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