【写真】5月24日1周年記念興行でデビューする女子高生レスラー・心希
「あら、久しぶり! まだ女子プロレスの取材、やってるんですか? だったら、これからは娘がお世話になる番ですね。今日、リング上から入団の挨拶をさせてもらうんですよ」
昨年7月、マリーゴールドの両国国技館大会の控室で何年ぶりかに再会した元・女子プロレスラーの大向美智子さんにそう声をかけられた。そして、すぐ横に立っていた娘・心希を紹介された。
その昔、全女、LLPWを経て、アルシオンでのブレイクまで大向美智子の記事を書きまくってきた者としては、母娘二代にわたって取材対象となることは、なんとも感慨深い。じつは大向と同時期の活躍していた府川唯未の娘・田中きずなもプロレスラーになっている。田中きずなのデビュー戦の際には府川唯未から「ぜひ母娘二代でデビュー戦の記事を書いてほしい」と連絡が入り、喜んで取材させていただいた。
30年以上、この仕事を続けてきたからこそのめぐりあわせ。よく「プロレスは大河ドラマだ」と言われるが、2025年は本当にその言葉を噛みしめまくっている。
ここまで読んで、いささかの違和感を抱いている方もいるかもしれない。昨年7月に入門し、いまやっとデビューというのは、最近の女子プロレス界ではかなり遅いペースになる。期待のルーキーなのに、なぜ?
それには明確な理由がある。心希はまだ現役の高校生。しかも実家のある山口県に在住している。入門したといってもフルタイムでプロレスの練習をしてきたわけでなく、高校に通いながら部活もし、休日や長期休暇のたびに上京してマリーゴールドに合流する、というかなり特殊な道のりを歩んできている。だから10カ月ちょっとでのデビューは遅く感じるようで、じつはかなり早い部類に入ると思う。
もともとはアイドル志望だった。STU48のオーディションを受け、見事に最終審査にまで進んだこともあったが、特段、歌やダンスのレッスンをしていなかった心希は、それが響いたのか最後の最後で無念の落選。そんなバックボーンがあるだけに女子プロレスに興味を持ったきっかけもちょっと変わっている。
心希が女子プロレスにのめりこむきっかけを与えてくれた選手の名は「ハリウッドJURINA」。
心希はその姿を生観戦し、心から酔いしれた。松井珠理奈みたいになりたくてアイドルを目指した女の子は全国に何万人もいるが、松井珠理奈に憧れて女子プロレスラーになってしまった子は現状、心希しか知らない。まさに令和が生んだ新しいタイプの女子プロレスラー、なのだ。
オーディションに落ちた悔しさから、いま一度、アイドルにチャレンジしようと燃えていた心希が女子プロレスラーに大きく舵をきったきっかけ、それは母の「闘う姿」だった。
昨年1月に開催された『アルシオン・ザ・ファイナル~卒業』。そのリングで一夜復活した大向美智子の試合を見た心希は「いままで映像でしか見たことがなかったママの試合をはじめて生で見て、すごくカッコいいなって思ったし、あっ、私もやらなきゃ!って」と使命感に近い感情を覚え、女子プロレスラーになることを決めたのだという。
「ママが女子プロレスラーだったということは私にとって自慢なんです。学校の友達にも『私のママ、女子プロレスラーだったんだよ』って。ほかにそんな人、いないじゃないですか(笑)。
なにせまだデビューしていないので、どんな技を使うのかもまったくの謎。ただ、入団してからは自宅でも母親とプロレスについて熱く語ることが多くなった、という。そういえば、大向美智子に「ロープワークの受け身以外は家でも教えることができるからね」と言われたっけ。母の面影が残る闘いになるのか、それとも、まったく違うイメージのプロレスを展開するのか? そのベールは5.24代々木ではがされる。
デビュー戦の相手は現・UN王者の桜井麻衣に決定。1周年記念大会では当然、タイトルマッチが組まれると考えていた桜井だったが、いきなり心希がリングにあがってデビュー戦の対戦相手になってくれるよう懇願。これを桜井が快諾して、異例のチャンピオン相手のデビュー戦が決まった。
心希にとって桜井は『ザ・憧れ』の存在なのだという。だからこそ、ちょっと図々しいとは思ったが、デビュー戦の相手に指名した。「いつか私がもっともっと強くなったら、今度は桜井さんとタイトルマッチがしたいです! その日のためにもデビュー戦は胸を借りるんじゃなくて、勝つ気持ちで闘います!!」
前述のように特殊な立ち位置にいるため、デビューは遅くなった。練習生の仲間たちが続々とプロレスラーになり、同期の山岡聖怜はチャンピオンベルトまで巻いてしまった。
「私たちの世代って、なかなか女子プロレスに触れる機会がないので、見たことがない人もたくさんいるんですよ。痛そう、怖そう、というイメージしかないので、それを同世代の私がどんどん変えていって、もっともっとたくさんの若い子たちがプロレス会場に来るようにしたい。それができるのって同世代の私たちならではだと思うので!」
平成のビジュアルファイターの遺伝子が、令和の女子プロレス界をよりメジャーにするために5.24代々木で動きだす。かつて母がアルシオン時代にライセンスナンバーとして登録していた『5』を、マリーゴールドの背番号として継承してーー。
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