最初に結論:TCLは量子ドット技術と高密度バックライト制御を進化させたSQD-Mini LEDを次世代の主力技術と位置付け、高輝度・高コントラスト・広色域の総合性能で差別化を図ろうとしている。

記事の重要ポイント:

TCLの次世代テレビはSQD-Mini LEDで高輝度、高コントラスト、広色域を同時に向上できるとアピール。

SQD-Mini LEDはスーパー量子ドット、ウルトラカラーフィルター、超多分割バックライト制御を組み合わせた総合的な画質向上技術。
TCLは技術スペック競争よりも、映画や推し活などの視聴体験向上を前面に打ち出す戦略を採用している。

中国の大手家電メーカーであるTCLは、2026年5月に独自の「SQD-Mini LED」技術を搭載する液晶テレビ「X11L」シリーズなどを発表しました。

米OMDIAの調査によると、TCLは2025年のグローバルテレビ市場においてサムスン電子に次ぐ2位のシェアを誇っています。日本市場に参入したのは2019年と後発でしたが、2025年の国内市場シェア(BCN調べ)は約10.8%と、TVS REGZA(約26%)、シャープ(約19%)、ハイセンス(約17.6%)に次ぐ4位につけています。

TCLはRGB 3原色のバックライトを搭載する「RGB-Mini LED」技術も独自に開発していますが、高画質を実現する上で新たなSQD-Mini LED技術を最も推している状況です。

RGB-Mini LED技術に比べて、SQD-Mini LED技術は画質面においてどのような利点があるのでしょうか。中国・深センにあるTCL本社で行われたエンジニアによる技術説明会や、TCLの経営者インタビューの内容も含めて紹介していきましょう。

○TCLが考える高画質の鍵は「輝度」「コントラスト」「色域」

まず高画質を実現する要素として、TCLのエンジニアの一人は「解像度と輝度、コントラスト、色域、リフレッシュレートの5つ」だと語りました。

ただし人の目において解像度は4K、リフレッシュレート(画面を更新する頻度)は144Hzで十分になっており、「高画質化に向けて重要になるのは輝度とコントラスト、色域の3つになります」と担当者は語ります。

「自然界にある多くの物体の表面輝度は最大で5,000ニット以上に達しており、輝度が高いほど現実世界の広いダイナミックレンジ(明部と暗部の差)を再現しやすくなります。コントラストが高いほど映像の階調や奥行きが豊かになり、細部もよりはっきり見えるようになります。
色域は現状で最高水準の規格である『BT.2020』をいかに満たせるかが重要になります」(担当者)

液晶パネルは光源であるバックライトからの光の量を液晶分子の動きによって調整し、カラーフィルターで色を付けて映像を表示する仕組みです。

液晶は光源から光を受ける仕組み上、バックライトの光を完全に遮断できないため、バックライトを分割制御することで不要な光の漏れを減らしコントラストを向上させるのがバックライト部分駆動技術であり、それをさらに細分化させたのがMini LED技術となります。

高色域化を実現する技術として登場したのが、従来のカラーフィルターに比べて色の純度が高く明るい量子ドット(Quantum Dot=QD)技術を用いたQD-Mini LED技術です。また、これとは違う方向性で、RGB(赤・緑・青)の3原色のバックライトとカラーフィルターを用いて広色域化を実現したのがRGB-Mini LEDとなります。

TCLはQD-Mini LED、RGB-Mini LEDのどちらの技術も持っていますが、RGB-Mini LEDではなく、QD-Mini LEDをより洗練させたSQD-Mini LED技術をイチ押しする理由として、TCL スマートスクリーン関連事業部 副総経理 兼 グローバルプロダクトオペレーションセンター総経理の左波氏は次のように語りました。

「バックライトを点灯した状態を見ると、RGB-Mini LEDの方がSQD-Mini LEDのバックライトよりも派手に見えて人目を引くかもしれません。しかしRGB-Mini LEDはバックライトを変えただけに過ぎません。SQD-Mini LEDはバックライトから(色彩表現を行う)量子ドットまで完全に変わりました。RGB-Mini LEDは同じ領域を発光させるために3倍(3原色)のLEDが必要になるため、Mini LEDの分割数を多くできません。SQD-Mini LEDはRGB-Mini LEDに比べて広色域を実現できるだけでなく、バックライトの分割制御をより細かくすることでピーク輝度やコントラストを向上できます。RGBはLEDの耐用年数も色によって異なるため、より安定して長期的に視聴できるのも大きな強みです」

○パネル全体を進化させたSQD-Mini LED技術

SQD-Mini LEDの「SQD」はTCL担当者によると「Systematic Quality Display」の略で、TCL独自のウルトラカラーフィルターとスーパー量子ドット、超多分割制御バックライトを組み合わせたものです(なおTCLの製品ページでは、一般的に知られる“Super Wuantum Dot”との記述があります)。

SQD-Mini LED技術の中心となるのは、高効率かつ多様な光の角度を持つ「High Condensed Mini LED」と、光の直進性を高めることで光の漏れを少なくする「Super Condensed Micro Lens」、一体成型によって明るさの均一性を高める反射板の「3D High REF」、新たな構造設計によって約2cmの薄型パネルを実現した「Micro-OD」の4つの技術です。


「High Condensed Mini LEDは6つのミニダイ(小型LED素子)が1つのチップに集約されており、長時間・高負荷な環境でも効率よく映像を表現できます。その光の角度をDBR(分布ブラッグ反射鏡)によって140度もしくは160度に調整します。原子レベルでチップを保護するALD Protectionによって湿気から保護しています」(担当者)

アーチ型をしたSuper Condensed Micro Lensは、他の光源からの光の干渉を自領域内で遮断する機能と、自身の光源からの光を収束させる機能を果たしています。また、土手状の構造や樹脂などによって、光を垂直方向に向かわせているとのことです。

3D High REFは、SQD-Mini LEDの光を均一に反射させる一体成型タイプの反射板です。

「従来の反射板では、駆動ICや抵抗などの部品によって光の欠けが生じることがありました。一体成型で3D構造の反射板によって、光の均一性を約50%向上しました。これはテレビ業界で初めて採用された技術です」(担当者)

4つ目の「Micro-OD」とはOD(Optical Distance)、つまりバックライトと光を均一にする拡散板の距離を極限まで縮めた構造のことです。先ほど紹介した3つの技術によって光の直進性と均一性を高めたことで、約2cmという薄型パネルを実現しました。
○RGB-Mini LEDとは競わない。SQD-Mini LEDは「視聴体験の向上」を重視

SQD-Mini LEDの広色域を実現する上で重要な役割を果たすのがスーパー量子ドット技術です。スーパー量子ドットは「従来の量子ドットに比べて色域のレンジが33%増加し、色の純度は17%増加し、目に優しいブルーライトカット機能も45%以上改善しました」と担当者は語ります。


「業界最高の約360度という高温で合成しつつ、耐熱性の有機リン系素材を用いることで結晶の品質向上と発光効率向上を同時に実現しました」(担当者)

従来の量子ドット技術では発光スペクトル幅が25nm(ナノメートル)だったのに対し、スーパー量子ドット技術では22nmまで狭まり、より色純度が高くなりました。

さらに注目したいのがウルトラカラーフィルターです。スーパー量子ドットはバックライト全体の色域を広げるのに対し、ウルトラカラーフィルターはピクセル単位での色表現を高める仕組みです。

「従来のカラーフィルターでは粒径60~80nmの顔料を用いていましたが、ウルトラカラーフィルターでは粒径5nmの染料を採用しました。染料は光の吸収率が低いため、色域再現を高められるのが大きな特徴です。こうした技術によって(色域規格の)BT.2020を100%達成し、色域面積は従来の量子ドットより31.8%拡大しました」(担当者)

ここまで、RGB-Mini LEDよりも高画質を実現するとTCLが自信を見せる、SQD-Mini LED技術の内容を詳しく紹介しました。

ここまで紹介してようやく、「SQD-Mini LED技術はRGB-Mini LEDより高画質」とTCLが言い切る理由を理解できるような高度な技術のため、一般の消費者には「RGB-Mini LEDよりも理解しにくいのではないか」という疑問が残ります。

それに対してTCL Japanマーケティング本部長の久保田篤氏は次のように語りました。

「RGB-Mini LEDの技術はわかりやすい、SQD-Mini LEDはわかりづらいという話は社内で相当議論しました。しかし一方で、発光技術や色域、輝度、色純度、発光効率など、ユーザーにとって難しい話をすると離れてしまうのではないかという結論になりました」

一般消費者がテレビを買う理由に、「RGB-Mini LEDだから」「SQD-Mini LEDだから」というのはまずないと久保田氏は語ります。

「それよりも映画やスポーツがリアルになって視聴体験が向上するとか、“推し活”の推しがより美しく見えるとか、家族との時間がより楽しくなるといったことを訴求したい。今回SQD-Mini LEDを発売するにあたって俳優の山崎賢人さんをキャラクターに採用したのは、彼がコンテンツ表現者だからです。
その方がSQD-Mini LEDに入っていきやすいのではないかと考えました。そこはRGB-Mini LEDとの『対抗軸』というより『アンチテーゼ』ですね」

安蔵靖志 あんぞうやすし IT・家電ジャーナリスト 家電製品総合アドバイザー、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。 この著者の記事一覧はこちら
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