アメリカ、メジャーリーグベースボール(MLB)のロサンゼルス・エンゼルスに所属する“リアル二刀流”大谷翔平が絶好調だ!現時点で打者として16本塁打を放ち、MLBアメリカンリーグで2位となっているが、一時はMLB単独トップで“ホームランキング”の座にも立った。

現地時間4月26日に投手として先発する際は、往年の名手ベーブ・ルース以来の「本塁打トップの選手が投手として先発」する100年ぶりの記録を樹立。

しかも、その日、大谷は約3年(1072日)ぶりに勝利投手となった。

同6月4日には先発投手としての勝利投手となり、翌日には打者として16号ホームランを放つ。今年の大谷は「2番・指名打者」で打者として先発もすれば、投手として先発した際も「2番・投手」で投打同時出場。先発投手で「降板」した後に、そのまま右翼(ライト)の守備にまわることもあるほどだ。

投手としては時速160kmを越える速球を投げ続けて三振を奪いまくり、打者としては本塁打王を争いリーグ6位の42打点も記録。盗塁もチームトップの7つ(リーグ11位)を記録するなど、まさに“リアル二刀流”を謳歌している。

リアル二刀流は、一部の野球評論家やファンから「記録に残らない」「負担が大きく怪我が頻発している」などの理由で、批判される対象にもなってきた。是非は個々の趣味趣向だと思うが、日米共通して「高校までは投手」と二刀流だった多くの選手が、プロフェッショナルな舞台では「できない」と捉えて二刀流を諦めていく。それだけに野球界で二刀流をここまで具現する大谷翔平は、それを目指す若者たちにも憧れの対象である。

サッカー界にもいるリアル二刀流ランキング

サッカー界にも“リアル二刀流”は存在する。むしろ、プレーが流れていて、複数のポジションをこなせる選手の方が多くなってきた現代サッカーでは、二刀流が一般的とも言えるのかもしれない。

ここでは怪我などで欠場者が出た際の「穴埋め的なコンバート」ではなく、「戦略的にもともとプランにある」ことと「勝敗やゴールに直結する」ことを、サッカー界“二刀流”の対象にしたい。

下記に紹介する「サッカー界リアル二刀流ランキング」は、①カテゴリーの優先順位(J2よりはJ1が上、代表経験がある選手の方が上など)、②難易度の高さ(前例がないなど)の2点を踏まえて、独断と偏見により選考、順位付けさせていただいた。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

10位:杉本健勇

“J体連”のフィジカルモンスター

  • 元日本代表、現・浦和レッズ 
  • ポジション:FW 
  • 年齢:28歳

高校サッカー的”な運動量や球際の強さ、“Jユース的”な技術の両面を求められるセレッソ大阪の下部組織は、“J体連”とも表現される。その中でも「フィジカルモンスター」と恐れられたのが杉本健勇だ。

1つ年上の快速FW永井龍(現サンフレッチェ広島)が絶対的エースだったため、センターバック(CB)として活躍。CBとして先発し、後半からFWとして出場する、あるいはその逆も多かった。高校2年生時に優勝した「クラブユース選手権」ではDFとして大会MVPに輝いた。ちなみに当時CBコンビを組んだ相棒は、元日本代表MF扇原貴宏(横浜Fマリノス)だ。

当時のC大阪U18監督中谷吉男氏(現バレンシアCFオフィシャルアカデミージャパン代表)が「プロではCBとして大成するだろう」と予想していたが、プロ入り後はロンドン五輪代表に選出されるなどFWとして活躍した杉本。

2017年にはJ1で22得点を挙げてクラブ史上初タイトル獲得と2冠に貢献した。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

9位:加戸由佳

岡山に愛されるノホホンファイター

  • 元女子日本代表、現・吉備国際大学シャルム岡山高梁
  • ポジション:DF、FW、MF 
  • 年齢:30歳

岡山出身の加戸由佳は、地元の岡山湯郷Belleが2014年に悲願のなでしこリーグ1部優勝(レギュラシーズン)を果たした際の黄金メンバー。長身とは言えないものの、空中戦や対人戦で強さを発揮するCBとして、なでしこジャパンにも選出された。そのヘディングの強さはしばしばFWとして起用されるほどで、今季は経験値を活かしてMFとしてもプレー。

普段はノホホンと話すが、ピッチ上では闘争心を全面に押し出すファイターと化すキャラクターも魅力的。姉は、JリーグDAZN中継のピッチサイドリポーターも務める加戸英佳さん。6月6日のなでしこリーグでは“姉妹競演”を果たした。

関連記事:ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】後編「岡山とJ2の楽しみ方」

8位:盛田剛平

引退後に代表を狙う“師範”

盛田剛平は「大学ナンバーワンFW」として浦和へ加入するも、プロの舞台では成功を収められず。引退の危機が迫った30歳を前に、広島でDFへのコンバートを志願。189cmの長身をCBとして活かし、貴重な戦力として息の長いキャリアを築いた。

2013年には甲府で契約満了を言い渡されるも再契約に至り、38歳となった2014シーズンまさかのFWとして定着。安定したポストワークで、阿部拓馬(当時27歳、現FC琉球)、石原克哉(当時36歳)と共に形成した“100歳トリオ”として甲府のJ1残留に大きく貢献した。

ピッチ外では、食べ歩きだけでなく調理も絶品な“ラーメン師範”として有名に。2017年限りで引退を発表したが、「ラーメン屋として海外進出する」と現役時代には叶わなかった日本代表を目指している。

7位:柳育崇

二刀流としての注目は“闘莉王2世”級

  • 現・栃木SC
  • ポジション:DF、FW
  • 年齢:26歳

専修大学を卒業し、アルビレックス新潟シンガポールでキャリアをスタートした逆輸入DFの柳育崇。2018年アルビレックス新潟へ加入し、2020年から栃木へレンタル移籍。加入後半年が経って、187cmの長身を活かしたヘディングを武器に試合終盤にFWとして投入されて結果を残し、シーズン後半戦からレギュラーに定着した。

今季は栃木で完全移籍となっただけでなく、チーム主将に就任。現在も試合終盤のパワープレー時には前線へ配置され、この1年半のJ2で9得点。“闘莉王2世”とも呼ばれるリアル二刀流界きっての注目株だ。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

6位:長谷部誠

「和製カカ」からの変身

  • 元日本代表、現アイントラハト・フランクフルト
  • ポジション:MF、DF 
  • 年齢:37歳

プロ入りした浦和時代は「貴公子」「和製カカ」と呼ばれ、長い距離を走るドリブルが魅力的なアタッカーだった長谷部誠。浦和でボランチとして出場し始めると、多くのタイトル獲得に至るチームの黄金期を支えた。

日本代表のボランチとしてもバランス感覚を養い、自著『心を整える』で悟りを開き、ポジショニングの妙で勝負できるアンカー役も確立。近年はリベロとして最終ラインを統率し、37歳となった現在でもリベロとボランチの両方をこなす二刀流を体現している。

昨季はドイツ・ブンデスリーガで最年長選手としてもプレー。現在までブンデスリーガ1部通算337試合出場を記録する“生きる伝説”は、チームメイトから「おじいちゃん」と呼ばれ愛されている。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

5位:高橋はな

浦和「DFW」の第一人者

  • 女子日本代表、現・三菱重工浦和レッズレディース
  • ポジション:DF、FW 
  • 年齢:21歳

育成年代の代表では、U17までFWとしてメインにプレーし、U19からCBにコンバートした高橋はな。2018年にはU20W杯でフルタイム出場。守備の要として世界女王に輝いた。

中学時代に浦和の下部組織に加入。トップチーム昇格後はCBやSBとして先発し、後半からFWとしてプレーするパターンも多い。浦和は“レジェンド”安藤梢など2列目の攻撃陣の層が厚いが、高橋は前線では持ち前の身体能力を活かした速さや高さで、相手チームを疲労させる搔きまわし役を担っている印象。勝負所で得点する役割は先輩たちに譲り、自身は堅守を支える。未だにFWとしてもDFとしても大成しそうな予感があるリアル二刀流選手だ。

同じ浦和の男子トップチームで、元日本代表DF槙野智章が攻撃的なDFとしてのプレースタイルを表現するために「僕はDFWです」と自称したことがあるが、槙野よりも高橋の方が「DFW」の第一人者的存在である。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

4位:田中マルクス闘莉王

日本サッカー界の元祖二刀流

日本代表の10番も背負った名波浩氏の格言「1人で勝点10以上持っている選手」を地でいく男、田中マルクス闘莉王は、Jリーグ通算529試合出場で104得点。DF登録ながら二桁得点を3シーズン記録するなど、Jリーグ史上唯一の「DF登録選手による100得点」達成者だ。

歴代日本代表で唯一空中戦が強みになった中澤佑二との最強CBコンビで、南アフリカW杯ベスト16進出に貢献。クラブでも浦和と名古屋でJ1リーグを制するなど2チームの黄金期の象徴的存在だった。

空中戦の強さは言わずもがなだが、それ以上にFW選手顔負けの胸トラップからのシュートが絶品。チームとしての得点力不足が深刻だった京都サンガ時代にはFWとしての先発起用が増え、37歳にしてキャリアハイの15ゴールを挙げた。

2019年限りで現役を引退したが、「闘莉王のポジションをどうするか」は、現在の大谷翔平を「投手として起用するか、野手に専念させるか」の議論と同じ水準にあったと言えるのではないか?

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

3位:宝田沙織

なでしこジャパン期待の万能戦士

  • 女子日本代表、現ワシントン・スピリット
  • ポジション:FW、DF、MF、GK 
  • 年齢:21歳

富山県出身ながら、中学から大阪府堺市に開校したJFAアカデミー堺第1期生として入学。寮母さん曰く「寮生としても優等生」な宝田沙織は、中学時代から週末はC大阪堺レディースの選手として試合に出場する日々を送る。

中学時代はGKとフィールドプレーヤー(主にDF)の二刀流。JFA(日本サッカー協会)が育成年代のGKを対象にした『スーパー少女プロジェクト』に選抜されたほど。高校年代に差し掛かった辺りからMFとしてプレーし始め、得点力も発揮。高校3年時にはFWとして得点を量産し、2017年、なでしこリーグ2部得点女王を獲得。翌年のU20W杯では5得点3アシストを記録し、女子サッカー界では世界初となる日本代表3世代完全制覇(U17、U20、A代表)に至った。

しかし、なでしこリーグ1部ではFWとしての得点力を発揮できず。逆にチーム事情からDF起用が増え、昨年途中から代表合宿でもCBとして招集。今年1月のアメリカへの移籍後もCBとしてのプレーを志願する。強さや高さ、速さ、上手さの全てを兼ね備えた新時代の旗手として、なでしこジャパンでも期待の選手だ。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

2位:ホルヘ・カンポス

ファッショナブルな超小柄GK

  • 元メキシコ代表、元UNAMプーマスなど
  • ポジション:GK、FW 
  • 年齢:54歳

公称175cmとされる身長も、絶対に170cm以下と見られる超小柄なGKホルヘ・カンポスは、W杯にも3大会連続で選出。うち2大会はレギュラーとしてプレーしたメキシコ代表の守護神である。自身でデザインしたカラフルなユニフォームで試合に出場するのがトレードマークなイケメン選手として人気を博した。

コパ・アメリカ1995や翌年のアトランタ五輪で、メキシコ代表の背番号「9」を着たのは、クラブではFWとしてプレーする試合もあったため。メキシコリーグではキャリアハイ14得点を記録するなど水準以上のFWだった。スピードとテクニックに優れ、足技は闘莉王以上だったと言える。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

1位:ルート・フリット

比類なきリアル二刀流

  • 元オランダ代表、元ACミランやサンプドリアなど
  • ポジション:DF、FW、MF 
  • 年齢:58歳

栄えある第1位には、全く揺るがずにルート・フリット(グーリットとも呼ばれる)を推す。193cm88kgの恵まれた体躯とスピード、しなやかなテクニックを兼ね備えた絶対的万能選手。プロキャリアをスタートさせたオランダリーグ時代はリベロとしてプレーしながら得点王を争い、PSVアイントホーフェンをリーグ優勝に導く活躍を披露。1987年にはバロンドールも受賞した。

オランダ代表では1988年の欧州選手権(現EURO)でFWとして優勝に貢献。ミラン移籍後も同じオランダ代表のマルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールトとのオランダトリオで“グランデ・ミラン”(偉大なミラン)の大黒柱として活躍した。欧州チャンピオンズカップ(現CL)連覇など国内外のタイトルを軒なみ獲得。ミランでは主にFWとしてプレーしたが、右サイドMFなども経験。

33歳となる1995年にイングランドのチェルシーへ移籍すると、ボランチも経験したが、主にCBとしてプレー。さらにシーズン中にグレン・ホドル監督がイングランド代表の指揮官に就任すると、チェルシーの兼任監督に就任。そのうえで主にCBとしてプレーし、PFA年間ベストイレブンにも選出された。

どこのポジションでも世界レベルのプレーを披露し、チェルシーではプレーイングマネージャーとしてFAカップも獲得したが、監督としてのキャリアはそれ以降上手くはいかず。卓越したサッカーセンスは指導者としては活かせなかったようだ。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

番外編:本田圭佑、高原直泰、ロジェリオ・セニ、ホセ・ルイス・チラベルト

今回のベスト10では選外としたが、選考過程に残った4名を紹介しよう。

元ブラジル代表GKロジェリオ・セニはサンパウロ一筋で過ごし、背番号は「10」を意識した「01」を付けるほどの正確なキックを武器に、GKとしてギネス記録となる131得点を挙げた。またGKによる得点に関しては元パラグアイ代表のホセ・ルイス・チラベルト氏が有名で、彼は代表でもセットプレーの正プレースキッカーとして8得点を挙げた。ただ、セニとチラベルトはGKの範疇内における活躍だったため、二刀流ではないと判断した。

大谷翔平に負けていない!サッカー界にもいる“リアル二刀流”10選

また、本田圭佑(現ネフチ・バクー)と高原直泰(現・沖縄SV選手兼代表)は、クラブ経営者や監督として二足、三足の草鞋を履いているが、二刀流の定義からは外れると判断した。

本田は就任3年が経過した実質的なカンボジア代表監督としての実績はまだないが、経営者としては面白い。現在では最も戦術的に進んでいるオーストリアリーグのSVホルンの経営に2015年から参入し始め(2019年に撤退)、現在は「J3クラスのスポンサーと競争力があるのでは?」と噂されるほど充実している東京都社会人リーグで発起人としてチームを立ち上げるなど着眼点は鋭い(現在は3部に属するEDO ALL UNITED)。

高原は自身が2015年に立ち上げた沖縄SVで一時期、選手兼監督兼代表の三足の草鞋を履いていたが、現在監督はジュビロ磐田時代の同僚である山本浩正氏に譲った。42歳にして未だチームのエースとして活躍し、現在所属している九州リーグからJFL昇格を目指している。さらには「沖縄ファーム」としてコーヒー豆の開発・栽培を始めており、国産のコーヒーブランド誕生という悲願に向けて邁進しているようだ。国家プロジェクトにもなりえる壮大なビジネスは今後も注意深く見守っていきたい!