3月20日、J1リーグ所属のヴィッセル神戸が、三浦淳寛監督との契約解除を発表した。三浦監督率いる神戸は、今月15日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフで今季公式戦初勝利を挙げたものの、J1リーグではクラブワースト記録を更新する開幕7試合未勝利(4分3敗)と低迷している。

現役時代に日本代表でもプレーした三浦監督は、引退後の2015年に日本サッカー協会公認のS級ライセンスを取得。18年に神戸の強化部門トップであるスポーツダイレクター(SD)に就任。トルステン・フィンク前監督の退任により、20年9月から監督に。同年、初出場のACLでベスト4に進み、昨季はJ1リーグで神戸をクラブ過去最高順位となる3位に導いていた。

昨年3位のチームが7試合を終えて未勝利と、明確な成績不振だったため契約解除はやむを得ない。そう見る向きはあったが、翌21日に発表された暫定体制が大きな話題を呼んだ。ここではヴィッセル神戸が抱える問題点について考察していく。

ヴィッセル神戸が抱える問題点。永井秀樹SDの就任問題はごく一部…

話題の暫定体制とは…

三浦監督の電撃解任を受けて、暫定監督には育成を目的としたヤングプレイヤーデベロップメントコーチを務めていたリュイス・プラナグマ・ラモス氏(41)が就任。スペイン出身のリュイス暫定監督は、スペインのエスパニョールやビジャレアルの下部組織で監督を経験し、昨年5月までJ3リーグのFC今治で監督を務めていた。

話題になったのはこの暫定監督ではない。スポーツダイレクター(SD)に永井秀樹氏(51)が就任したことである。

永井氏は昨年9月まで、J2リーグの東京ヴェルディで監督を務めていた。その監督時代に選手に対し「サッカーの指導に不必要に攻撃的な言葉や暴言」などのハラスメント行為があったことが判明。

その後、東京ヴェルディに対してはけん責と100万円の罰金が、永井氏本人には今月10日にS級ライセンスの1年間停止処分が科されたばかりだったのだ。

ヴィッセル神戸が抱える問題点。永井秀樹SDの就任問題はごく一部…

永井SD就任の是非

スポーツダイレクター(SD)とは、現場の総責任者である監督と双璧をなすチーム強化の総責任者であり、指導者資格は必要ない。また神戸の三木谷浩史会長が「すでに重いペナルティーを科せられ、本人も反省している。モニタリングサポートを行った上でセカンドチャンスをあげるという判断をした」と説明したように、たしかにセカンドチャンスは与えられるべきだと考える。

ただ、資格停止処分が発表されて11日しか経っていないタイミングでの就任は、少々時期尚早ではないだろうか。実際に神戸のサポーターからも疑問の声が挙がっており、有志団体『ヴィッセル神戸サポーター連合』は「3月21日付 監督交代と新SD就任新体制への説明要請」と題した声明を発表した。

三木谷会長は近日中に永井氏による会見を設定するとしており、この内容によってサポーターが納得できる説明がなされるのか、さらなる議論が巻き起こるのか大きく変わるだろう。そして今回は資格停止処分からすぐだったため悪目立ちしてしまったが、この件に限らず神戸の最大の問題点は、人事にあるのではないだろうか。

ヴィッセル神戸が抱える問題点。永井秀樹SDの就任問題はごく一部…

神戸のこれまでの監督の人事

これまでの監督の人事が、最もわかりやすく神戸の問題を表している。28年目を迎えた神戸の歴史で、リュイス暫定監督で28人目。このうち丸2年以上監督を務めたのはスチュワート・バクスター監督、川勝良一監督、松田浩監督、安達亮監督、ネルシーニョ監督の5名のみだった。

またシーズン途中の監督交代は、今回で14回目だ。楽天グループの創業者である三木谷氏が経営権を取得した2004年以降には11回あり、2人どころか3人以上が監督を務めたシーズンも4回ある。そのうち2005年と2012年にはJ2リーグへの降格を経験している。

三木谷氏が経営権を取得した2004年。J2リーグで優勝し、現在J1リーグで2連覇中なのが川崎フロンターレだ。こちらは2004年以降のシーズン途中の監督交代がわずか2回と対照的である。

戦術の浸透に時間のかかるサッカーにおいて、継続性が重要であるにも関わらず、神戸にはまずそれが不足している。

ヴィッセル神戸が抱える問題点。永井秀樹SDの就任問題はごく一部…

定まらないチームスタイル

従って、神戸は目指すサッカーのスタイルもはっきりしない。パスを繋いで攻撃的なサッカーを仕掛ける川崎や横浜F・マリノス、堅守の名古屋グランパスなど、昨年の上位クラブの多くは誰が見てもわかるようなスタイルを持つ。そのため、調子を崩した場合に立ち返る場所をしっかりと有している。

2018年以降J1リーグで最も人件費をかけているクラブであるにも関わらず、神戸は成績が不安定な状況が続いている。実際に、昨年はクラブ史上最高の3位に入ったものの、消化試合数が他チームより多い今季はここまでで16位だ。

アンドレス・イニエスタ、山口蛍、セルジ・サンペール、大迫勇也武藤嘉紀酒井高徳、菊池流帆ら多くの実力者を抱えていることは間違いない。しかし「チームのスタイルに合う選手だから」という理由で獲得した選手はどれだけいたのだろうか。

まずはチームの目指すスタイルを定め、よほどのことがない限り変えてはならない。

そしてそれに適した監督やスタッフ、選手を、専門的な知識を持つ人物が揃えていくべきではないか。

リーグトップの資金力という他にない強みはある。他チームのサポーターが「ヴィッセル神戸ってこういうサッカーだよね」と言えるようになった時、優勝がグッと近づくはずだ。

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