FIFAはこの「遺産」をキーワードとして、2023年に開催された女子W杯オーストラリア&ニュージーランド大会から、女子サッカーを含めた大会自体を遺産とする取り組み「レガシープログラム」をスタートさせた。ここでは、メガイベントであるW杯が社会に生み出す遺産としての価値について掘り下げていく。
![W杯が社会に与えるメガイベントとしての遺産価値とは](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FFOOTBALLTRIBE%252Fff%252FFOOTBALLTRIBE_304018304018%252FFOOTBALLTRIBE_304018304018_2.jpg,quality=70,type=jpg)
W杯がもたらす社会的価値と懸念点
「W杯」と聞いて頭に浮かんでくるのは、開催地となったホスト国の巨大なスタジアムや世界中から訪れるユニフォーム姿のサッカーファン、そして会場を盛り上げる様々な店とそこに集う人たち。筆者がパッと想像しただけでも、イベント関連施設を含むインフラ整備や観光サービスなど多方面との繋がりが見えてくる。周囲の環境を巻き込んで開催される大規模なイベントを研究するデンマーク出身の地理学者ベント・フライフヨルグ氏は、メガイベントの開催によってもたらされる効果に価値を見出した。それらは「The Four Sublimes(4つの崇高)」と呼ばれ、4分野それぞれに異なる利点があるという。では、W杯が各分野に及ぼす影響とはどんなものだろう。
- 技術:サッカースタジアムなどの建設や改修時に導入される最先端技術は、開催国のエンジニアに刺激を与え技術力を向上させるとともに、歴史的建造物の誕生に関われたという喜びと誇りも与える。
- 経済:開催国の中でも特に会場となる地域は、観光業収入の視点から町のイメージアップやサービス業の活性化が期待され、都心よりも地方であるほどその効果は大きい。また莫大な予算が投入されるため様々な業種で雇用を生み出し、地域経済に潤いを与える。
- 政治:国がメガイベントを率いることで世界メディアから注目が集まり政治力を示すことができる。また人々の関心度が高い場所で名を馳せることにより、政治家の活動にプラス効果をもたらす。
- 芸術:スタジアムなどイベントを象徴する大型建築物は、優れたデザイナーによって非常に美しいデザインで構築され、エンジニアや利用者はもとより批評家にも喜びを与える。
一方、これらの遺産をマイナスに捉える考え方も存在する。例えば観光促進を越えてオーバーツーリズム問題へと発展することへの懸念や、巨費を投じた建築物がイベント後は活用されなくなってしまういわゆる「ホワイト・エレファント(無用の長物)」を指摘する声も多い。
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W杯そのものを遺産に
前述ではW杯が社会に残す遺産について着目したが、大会と競技自体を遺産とする取り組みがFIFAの「レガシープログラム」だ。FIFAは2023年の女子W杯オーストラリア&ニュージーランド大会で初めて試みたレガシープログラムの目的を「大会を開催したことによる世の中への影響力を長期的に把握すること」としている。
つまりW杯閉幕後も、そこで繰り広げられた素晴らしいゲームを遺産として永続的に世界へ広めようというものだ。参加しているのはホスト国だったオーストラリアとニュージーランド、アジアサッカー連盟(AFC)、オセアニアサッカー連盟(OFC)とFIFA。
この取り組みで注目すべきは、2023年から2028年までという5年もの長い調査期間である。開催前後は非常に盛り上がるメガイベントも、一般的には時間の経過とともに世間の興味や関心が減少してしまう。しかし5年もの歳月をかけた継続的なプログラムによって、人々の意識がW杯やサッカーから離れるのを引き留める効果が期待されている。
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