レビュー

「ハートフルネス? マインドフルネスとどう違うのだろう」。多くの読者の頭にはこうした疑問が浮かんだのではないだろうか。

本書の訳者によれば、ハートフルネスとは「集合的マインドフルネス」の実践であるという。
マインドフルネスは、ストレスの解消や自己実現、ビジネスでの成功といった具合に、個人のベネフィットで語られることが多い。しかし、その穏やかな波動は、周囲ににじみ出て、コミュニティに広がり、社会を変えていくポテンシャルを秘めている。その力を、コンパッション(慈悲・思いやり)と責任に結びつけて解き放つのが、ハートフルネスである。個人の成長を、社会の成長につなげる試みといってもよい。日本語では同じ「心」でも、マインドは思考能力であり、ハートは感情や感傷である。
ハートフルネスは開かれたハートであり、思いやりでもある。
本書のベースとなっているのは、スタンフォード大学の心理学の授業における、ハートフルネスのさまざまな実践である。それらは最新の脳科学などのエビデンスにしっかり裏打ちされたものだ。
また本書には著者の個人史という側面もある。日本とアイルランドのバイレイシャル(混血)としてアメリカに生まれ、ふたつの文化にまたがり、アメリカ社会のマイノリティの一員として幾多の困難を乗り越え、成長してきた著者。そのありさまは、初心からハートフルネスに至る「道」の軌跡と重なるようだ。
その「道」をぜひじっくりと味わっていただきたい。ハートフルネスの奥深さに目を開かされることだろう。

本書の要点

・ハートフルネスは、マインドフルネス、コンパッション(慈悲・思いやり)、責任の3つの基本的な要素から構成されている。
・ハートフルネスを育てる8つの道とは、初心、ヴァルネラビリティ(開かれた弱さ)、真実性、つながり、深く聴くこと、受容、感謝、そして奉仕である。
・ヴァルネラビリティとは、自分の弱さにていねいに触れ、未知、あいまいさ、不確実性、複雑性を受け入れることだ。
・日本語の「しかたがない」は、変えられないことを受け入れることで、自分に可能な行動を見いだす積極的な態度である。



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