レビュー

「室内生活」。インドア派にはたまらなく甘美な響きだ。

本書の著者である楠木建氏の室内生活は、幼少期を過ごした南アフリカ共和国ではじまった。学校が終わったら、家以外に居場所がない。学者になってからは、講義以外でほとんど人と会わず、仕事でも室内生活を決め込んでいた。そんな楠木氏の室内生活の中心は読書だ。楠木氏にとっての読書はアスリートにとっての筋トレのようなもの、読書を下敷きに考えるのは本業のようなものだ。そんな楠木氏の書評は、「原書を読むよりも面白い」とまで評される。本書『室内生活 スローで過剰な読書論』は、楠木氏の書評や書籍解説のほとんどを集めた珠玉の書籍解説集だ。
「ビジネス書解説」「さらにビジネス書解説」「さまざまな書籍解説」と、冒頭の3章は書籍解説にあてられる。ビジネス書から教養書まで、幅広いジャンルの解説が並び、これが一人の人が書き溜めたものなのかと驚くほどだ。
続く「さまざまな書評」と「もっとさまざまな書評」でも、じつに多彩な本に短い評が与えられており、凝縮した本のエッセンスを一気に浴びせられるような充実感がある。どれも書籍の魅力を伝えながら、新しい視点を提供している。本を読んでいないのに、本を読んだ気にも、そこから考えた気にもなれてしまう。
思考のプロの考える材料とその軌跡を追うことで、本への向き合い方自体が変わりそうだ。
最終章の「読書以外の室内生活」では、室内生活の端々に喜びを見出す楠木氏の様子がうかがえる。長らく続くことになった室内生活のお供にぴったりの一冊だ。

本書の要点

・読んで考えることは、著書の本業に通ずるところがある。本書には、そんな著者者が書き溜めた書評や書籍解説のほとんど掲載されている。
・アダム・グラントの『GIVE & TAKE』は、「与える人こそが成功する」という論理を提供している。ここにビジネスにおいて「ギバーの多い社会」である日本の可能性を見出すことができる。
松下幸之助の言葉に学ぶ中国人経営者は驚くほど多い。松下幸之助の言葉は「理念」そのものだったからこそ、国境と時代を超越して人の道標になり得たのだろう。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に2,100タイトル以上の要約を公開中です。exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。

編集部おすすめ