レビュー

本書『移動と階級』は、人々が移動する力を「資本」と見立てて、その偏在がいかに新たな階層線を刻むかを精緻に描き出す一冊だ。特徴的なのは「移動の自由は誰にでも開かれているわけではない」という視点である。

自家用車から海外渡航まで、移動手段を使いこなすには金銭・技能・ネットワークという3つの資源が必要となる。
著者は膨大な文献やデータの分析とヒアリングを重ね、年収や性別が移動機会をどう分岐させるかを示してくれる。富裕層はモビリティを増幅装置にし、偶然をチャンスにする一方で、低所得層は「動けなさ」がさらに選択肢を狭める負のスパイラルに絡め取られてしまう。可動性の差は、起業・学歴・子育てといった人生の節目にも連鎖し、格差を再生産しているのだ。
興味深いのは、移動が持つ偶発性の美点を独占させないためのアプローチを重視している点だ。移動サービスの均質化だけでなく、情報・ネットワークへのアクセス保障を並行して進めなければならないという警句は重い。
移動という軸から、日本の階層地図を塗り替えようとする試みはスリリングだ。ジェンダーによる差や、テレワークが「動けない者」を覆い隠すといった洞察も鋭い。本書を読み終える頃には、最寄り駅までの道のりさえ普段と違う景色に見えるかもしれない。

本書の要点

・移動できる人と移動できない人のあいだには、移動の量・機会・経験をめぐる隔たり、すなわち「移動格差」がある。移動資本の格差により、経済力やジェンダー規範が移動機会を分岐させ、潜在的可能性そのものを階層化している。
・移動とネットワーク資本が結合することで、富裕層はさらに成功し、移動困難層は選択肢を奪われるという格差再生産スパイラルが強まっている。


・移動にも「能力主義」が影を落としている。



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