731部隊を描く中国映画「731」

 今月15日、80回目の終戦記念日を迎えた。この節目に中国では2本の関連映画を公開。

ひとつは7月25日から公開中の、「南京照相館」。これは南京大虐殺が起こった1937年、南京の写真館に閉じ込められた中国人7人が、生き延びるために日本の軍人が撮った写真の現像を請け負うが、そこには中国人を虐殺した証拠が写っていて、彼らはそのネガフィルムを何とか残そうと協力するもの。


 この映画が反日感情を助長したためか、先月31日には江蘇省蘇州市の地下鉄構内で日本人の親子が中国人に石のようなもので襲われる事件が起きた。もう1本は、戦時中に中国東北部で細菌戦の研究を行い、外国人の捕虜に人体実験を行ったとされる731部隊の実態を描く「731」。先月公開予定が延期され、満州事変のきっかけ、柳条湖事件が発生した9月18日に公開すると発表された。昨年の同日には、深圳で日本人児童殺人事件が起き、公開が反日感情を高める危険性が懸念されている。


 中国作品は第2次世界大戦を侵略された被害者の立場から捉え“対日本軍”のドラマとして戦争を描いている。これに対し、日本映画は、主人公が戦時をどう生き抜いたか、あるいはどう亡くなったかを描く作品が多い。すでに公開されている堤真一と山田裕貴主演の「木の上の軍隊」は、戦争末期の沖縄戦を生き延びた兵士2人が、敗戦を知らないまま2年間ガジュマルの木の上に隠れて生き延びる話だし、菊池日菜子主演の「長崎-閃光の影で-」(公開中)は、原爆が投下された後の長崎で、負傷者の救護に奔走した看護学生たちの姿を、日本赤十字の看護師たちによる手記を基に映画化したものだ。



駆逐艦・雪風の役割を描いた邦画「雪風 YUKIKAZE」

 15日から公開されている「雪風 YUKIKAZE」は、「ゴジラ-1.0」(2023年)にも登場した、戦時中の激戦を生き抜いて必ず帰還した駆逐艦〈雪風〉を描いたもの。しかし描写のメインは戦闘シーンではなく、その機動性の高さを生かして仲間の人命救助のために活動した“雪風自体の役割”。一人でも多く生きて帰るために尽力する艦長を、竹野内豊が演じている。


 日本の戦争映画は「陸軍残虐物語」(1963年)に代表される軍隊内部の理不尽さを描いたものや、日本軍が敗戦へと転じるプロセスを大きな戦闘の流れによって見つめた「ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐」(60年)、結婚と出産という家族にとって忘れられない日を迎えた長崎の一家が、翌日の原爆投下によってすべてを奪われてしまうまでを描く「TOMORROW 明日」(88年)、戦後に発症した原爆症によって引き裂かれる若いカップルを吉永小百合と渡哲也が演じた「愛と死の記録」(66年)など、軍隊や庶民の立場からさまざまな視点で描いてきた。


 現在では作り手の高齢化が進み、戦地へ行った当事者がいなくなったこともあり、組織としての軍隊を描く作品は減って、もっと大きく戦争自体を、個人の立場から検証・否定する映画が目立ってきた。戦争は弱き者の命を容赦なく奪う。多くの人を巻き込む戦争は、理屈抜きの悪行だ。節目の終戦記念日は映画と共に、戦争とは何かを見つめなおすいい機会になるだろう。 


(映画ライター・金澤誠)


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