フィリピン準備銀行は、長らく続けてきた金融緩和姿勢を転換し、政策金利を0.25%引き上げて4.50%とすることを決定した。利上げは2024年以来、約2年半ぶりの異例の措置である。
背景には、加速するペソ安に歯止めをかけ、輸入物価上昇によるインフレ再燃を抑えたいという危機感がある。しかし発表後も為替は1ドル=61ペソ台の安値圏で推移し、市場では効果を疑問視する声が広がっている。通貨安と物価高の二重苦に直面するフィリピン経済の行方が注目される。

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 今回の決定には外的要因が複雑に絡む。中東情勢の緊迫化による原油高は物流費や光熱費を押し上げ、2026年のインフレ率予測は5.1%と目標上限の4.0%を大幅に超える。食料や肥料の輸入価格高騰は農業を含む産業全般に影を落としている。為替も1月の1ドル=58.90ペソから3月末に60ペソを突破し、4月末には61.31ペソを記録。5月11日時点でも61.19ペソ付近で高止まりしており、利上げが決定的な反転材料にはなっていない。米連邦準備制度理事会が強固な雇用統計と物価上昇を背景に利下げ開始を後ずれさせていることが、ドル独歩高を招いている。

 通貨安は輸出産業には追い風だが、輸入コスト増の影響が大きい。自動車や電子機器の製造業では部品調達費が上昇し、価格転嫁を余儀なくされている。ガソリン高は家計を圧迫し、景気減速感も強まる。
中銀は景気回復の遅れを認めつつも、通貨安定を優先せざるを得ない状況だ。

 焦点は1ドル=62ペソ台への突入を防げるかどうかだ。金融機関の一部は年内に0.50%の追加利上げが必要と予測する。追加利上げがなければ投機的なペソ売りが再燃し、通貨の信認が揺らぐ恐れがある。一方で過度な金利上昇は住宅ローンや設備投資を冷え込ませる。中銀は物価安定と景気維持の間で難しい舵取りを迫られている。

 市民生活への影響も深刻だ。首都圏では生活必需品の値上がりが続き、加工食品や燃料の価格改定が相次ぐ。政府は補助金制度の拡充を検討するが、為替に起因するコストプッシュ型インフレは対策の限界を超えつつある。フィリピン経済が難局を乗り切れるかは、米国の金融政策動向を注視しつつ、国内での財政出動と金融引き締めのバランスにかかっている。

 市場関係者は慎重姿勢を崩さない。6月中旬の次回会合に向け、米国のインフレ指標や雇用データ発表のたびにペソ相場は乱高下が予想される。
61ペソ台を維持できるのか、62ペソに踏み込むのか。中銀の「先制攻撃」としての利上げが防波堤となるのか、時間稼ぎに終わるのか。夏にかけて正念場を迎える。成長期待が高いフィリピンだが、世界的な金融引き締めの波に抗う戦いはかつてなく厳しい。
【編集:Eula】
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